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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百十九話 これが絶対魔掌

闘技場を包む歓声が鳴り止まない。

この試合を見ている全ての人がセトを祝福している。


「騎士セト見事だった。完敗だよ」


膝を着いていたゼーグラースが立ち上がりセトの勝利を祝福する。この人は最も騎士らしい人格者なのだろう。

負けても清々しい雰囲気をしている。それは彼に悔いのない証拠だ。


「ありがとうございます。また、手合わせしましょう」


「その時は喜んで受けよう。第二試合応援しているぞ」


ゼーグラースはセトの強さを称え闘技場を去っていった。

敗者はただ去りゆくのが騎士団統一戦。まだ、第一試合。これからどんどん戦いの激しさが増していくだろう。

リングを降りると森羅がいつも通り微笑みながら出迎えた。

セトの完璧な勝利に森羅もご満悦だ。


「ご苦労様ですセト君。見事なカウンターでしたね。反省点もありますが、そんなこと気にならないぐらい綺麗な勝利でした」


「師範、僕強くなれましたよね!」


「おや、聞かなくても自覚出来ているでしょう?。その感覚が成長した証です」


セトは初めて感じる一人での勝利の美酒に気持ちが高揚していた。今までの強敵との闘いではいつも気が付いたら戦いが終わっていたことが多い。

いつもアズラが決着を付けていた。でも、この勝利はセトが自分で、自分の力で掴んだ勝利だ。

セトはすぐに試合が控えているアズラの所に向かう。

参加者が大勢いる専用のエリアの中を探すがすぐに見つけた。


白い上着の上に緑色の綺麗な服をローブのように纏って、ベルトを胸の辺りに固定しその小さい丘がちょっと押せつけられている。

ズボンは真っ黒で、足首から太股の部分を防刃用の皮が縫い付けられている装備。

新しく用意した魔晶石を埋め込んだ手甲を装着しアズラは準備万端で待機していた。


「アズ姉!」


「セトお疲れ様!」


アズラが勝利を飾って来たセトとパシッとハイタッチする。アズラも強くなったセトを誇らしく思いながら、セトの作った勢いに続こうとやる気満々だ。

セトと入れ替わる形でリングに向かう。


「私の応援はいいから、次の対戦相手に備えて戦略を練っといて。セトの相手、あのヒギエアの騎士よ」


小型の術導機から映し出される映像に、セトの第二試合の相手の名が映っていた。個人戦はトーナメント形式なのでこの対戦は決定事項と言える。

セトの第二回戦の相手は。


ヒギエア騎士団代表所属。

アスト・ゲレンルナ・アルム。


諸島国家出身の剣士を一蹴した騎士だ。

あの剣士の強さは本物だった。ゼーグラースと同等、俊敏さと手数なら上回っている。

だが、そんな剣士が奥義を持ち出してもアストはただの斬撃で一蹴したのだ。


その名を確認したセトは頷く。さらなる強敵に備えるおくと。


「うん。分かった。アズ姉もがんばって」


「ええ、任せて」


程なくして笛の音が鳴り渡る。試合の合図が告げられた。

アズラは待っていましたと言わんばかりにリングの上に駆け上がる。反対側には対戦相手がほぼ同時に上がって来ていた。


相手が着ている鎧は、全身緑色で中心部分に濃い緑色の装飾が付け足されている。

この鎧を使用しているのはあの国。

ケレス公国の近衛騎士ピルツ・シュヴェルナ・ヴィルトシュヴァインだ。

まだ笛が鳴っていないのにピルツが前に出てくる。

アズラの正面に立って。


「過去に。ベスタの・・・。いや、フローラ公女の騎士アズラ、団体戦はいい試合だった」


ピルツが団体戦のことを振り返る。互いに殴り合ったのだから一言いいたいこともあるだろう。

何かを思い出すように自身の思いを告げていく。


「現在は。個人戦は全力で挑ませてもらう。カラグヴァナにその名をとどろかせた騎士の実力、あんなモノではないだろう」


アズラを称えるように語るピルツに対し、アズラは警戒を解かない。

表情は穏やかを装っているが、彼が近づいた時から臨戦態勢を取っている。

アズラが兜の隙間から見えるピルツの目を睨む。

その目は全く笑っていない。話すことで誤魔化そうとしてるが敵意を向けてきていることがアズラにはビシビシと伝わってくる。


「あんたもでしょ?」


「肯定だ。手の内を見せるのはここから。その二つ名に恥じない戦いを期待している最強の貧乳(・・・・・)クラッシャーアズラ」


ブチッ!! と何かが千切れる音がアズラの中で鳴る。 

目の前の男は触れてはならないことに触れた。言ってはいけないことをアズラの前で言った。

その話題に触れることは万死に値する。

アズラの目がヒクつき顔から怒りの二文字が浮き出てもおかしくない表情になった。

その顔をピルツは返答として受け取り剣を構える。


ビビィーーー! と甲高い耳に突き刺さるような音が鳴った。試合開始の合図だ。

さぁ、試合が始まったと観客たちが騒ごうとすると。


「ごがぁッ!?」


開始一秒でアズラの拳がピルツの顔面に直撃していた。魔装も出さないでいきなり兜を殴り潰す。

ズサァァッ! とピルツの足が滑る。

拳の威力を止めきれず押されていき5mはリングの外側に押し出される。だが、彼は団体戦でアズラと殴り合った騎士だ。

ガッ! と足に力を入れアズラの拳を顔面に受けたまま受け止める。

そして、剣で反撃を。


「ぐほぉあッ!!」


剣が殴り折られ、鎧にメコッ! と拳の痕が残る。

試合開始まだ1分も経っていないのにいきなり武器を失った。ピルツが驚愕の表情をアズラに向けようと顔を上げるとそこには。


「ハァァッッ!!」


アズラの魔装・絶対魔掌ヴァルテンマギが今まさに自分の顔面を捉える瞬間が目に飛び込んできた。

魔装が直撃し兜が砕け、鼻が潰れ、顔面が陥没するほど拳がめり込む。

20m以上は軽く吹き飛ばされ盛大にリングの上を転がっていきリングにヒビを入れながら砂埃を舞い上げる。

観客が静まり返る。どう反応すればいいか彼らの思考が停止していた。

個人戦でこれ程の実力差は普通はあり得ない。

だが、現実に起こっている。それを認識した瞬間に。


「「「ウオオオオオォッ!!!」」」


今までにない程の声援が巻き起こる。


「「「アズラッ!! アズラッ!!」」」


闘技場がアズラコールで統一される。

優勝候補の誕生だと狂ったようにアズラコールを送って彼女を祝福していき、まるで彼女のためにこの試合はあるんだと錯覚してしまうほどだ。


ガチャリ・・・。

そのアズラコールをやめさせてしまう雰囲気が闘技場を包み込んだ。

ピルツが鼻血を垂れ流しながら立ち上がり壊れた鎧を乱暴に脱ぎ捨てる。

ゴキリと首を鳴らしまるでダメージなど無いように再びアズラの前に立った。

拳の跡が赤く腫れあがっている顔からは先ほどとは異なる様子をアズラに見せる。


「確認だ。手の内を見せるのはここから。何の魔装か知らないが、それで近衛騎士に勝てると思うな」


ピルツの全身から闘気が溢れ出てくるのが感じ取れていき、彼を形作っていた強さの質が跳ね上がったのをアズラは察する。

脅威を彼から感じるようになったのだ。生存本能が危険信号を出している。

だが、アズラはそんな臆病な本能など怒りで押さえつけ、魔力を全開にしていく。

ここで必要なのは防御ではない攻撃力なのだ。


「ハァッ!」


ピルツの変化に怯まずアズラが突っ込んだ。

魔装に浮かび上がる赤い輪がアズラの戦意を表すようにさらに深く血のように光りだす。

魔装・絶対魔掌ヴァルテンマギが宿す力は現象を掴むこと。その力でアズラある現象の可能性をつかみ取った。


拳が当たる可能性をつかみ取って必中の一撃へと変えていく。

相手が避けようが防ごうが必ず直撃する可能性に決定付ける。

ドゴッッ!! とリングが衝撃に包まれた。

叩き付けた打撃の威力がその場に留まらずに辺りに撒き散らされ、リングから離れた観客にまで空気の振動を感じさせていく。

術式により強化されているとはいえ、規格外の威力。


観客の誰もが終わったと思っただろう。

だが、その拳をピルツは、同じく拳で殴り返していた。

魔装をただの拳で殴り抑え込んでいる。拳と拳がぶつかり合い、向かい合った暴力が互いを潰し合う。


当たるかどうかの可能性など無視して自分から当たりに来た。アズラの予測した可能性を無視し覆す行動。

拳が当たる可能性を向こうから100%にされては魔装・絶対魔掌ヴァルテンマギの能力は意味を成さない。

自分の選んだ可能性だというのに、自分の思い通りになっていないことにアズラは笑みを浮かべる。


「根性はあるようね。見直した。だけど、さっきのことは許してあげないわ!」


まだ、許さないとピルツの拳を弾き飛ばす。

弾かれたピルツはすぐさま距離を取り仕切り直して疑問を述べる。


「疑問だ。いきなり認められ、だけど許さない。これが巷で噂のツンデレ?」


ブチッ!!!

どこか切れたんじゃ・・・と思えるほどの音を鳴らし、アズラがピキリと血管をこめかみに浮かび上がらせ阿修羅モードに移行していく。

仁王立ちポーズの上位互換にあたるアズラの怒りの姿。

お説教などではない。

マジで怒っているのだ。

このピルツ君。どうやら空気が読めないらしい。最初の一言もまさか素で言ったのだろうか?

もしこれがアズラから冷静さを奪うための演技なら相当な曲者だろう。


「前言撤回だわ・・・。覚悟しなさい」


「驚愕だ。なんという禍々しい気配!! 最強の貧乳(・・・・・)クラッシャーアズラの名は伊達ではないということか!!」


ブチッブチッブチッ!!!

もうピルツ君は助からないだろう。

二度と言ってはいけないことの二度目をあっさりと突っ切ったピルツ君はどんどん禍々しくなるアズラの気配に息をのむ。

全身全霊を持って行かなければやられる!

彼の騎士としての勘がそう告げている。


ピルツが素手のまま構えた。もう一度アズラの魔装を迎え撃つつもりだ。

それに対してアズラは可能性をもう一度つかみ取る。

今度は命中率の確立操作などではない。ある現象が留まる可能性を引き寄せた。

その現象をピルツに向かって発生させる。


「歯ァ食いしばれェッッ!!」


一直線に拳を突きのばす。フェイントなど一切ない右拳のストレートだ。ピルツもそれに応えるようにカウンターの左ストレートを返すが、アズラの拳がピルツの顔面にまた直撃し、カウンターを拳一個分の動きでかわして見せる。

ピルツの顔が盛大に揺さぶられ足元がふらつき、その隙を突いてさらに拳の連打を放った。

ドドドドドッ! と肉を殴りつける音が鳴り続けピルツの体に確実にダメージが刻まれていく。

だが、全身を殴られながらもピルツは反撃に転じた。

拳を握り締め、圧倒的に不利なこの状況を打破しようとアズラの放った連打の倍以上拳を放つ。


ドガガガガガッ!!

拳と拳が乱れ飛ぶ。

観客たちも思わず見入ってしまう肉弾戦の応酬。

一見互角に見える殴り合いだがアズラは確実にピルツを捉え、彼の拳を全て回避している。

同じ威力、速度で拳を出しているのにピルツはアズラを捉えることができない。


「否定ッ! こんな一方的にやられるなど。近衛騎士としての名がッ!」


この状況を認められないとピルツが足を踏み抜いて全身を目にも止まらぬ速さで前へと押し出した。

迫りくる拳の連打を強引に受け止め死に物狂いでアズラへ拳を伸ばす。

その拳がアズラの顔を捉える直前で、バコンッ! と岩の壁を砕いた。


「ッ!!」


土の術式でピルツの目の前に壁が展開されていた。

反撃の糸口を与えずにアズラは決着を付けにいく。

ある現象はもう十分に留まっただろう。ピルツを倒すのに十分な量が。


ドクンッ! とピルツの中で何かが弾けた。

ドクンッ! ドクンッ!

それは全身に波及していきさらに増大していく。


「ゴフッ!?」


口から血を吐き出した。ピルツが一体なんのダメージだ? と困惑した表情を一瞬だけして。

そして、すぐに理解した。


ドドドドドッ!

ドガガガガガッ!!


彼の全身を見えない破壊がいたぶり尽くす。

ピルツの全身に刻まれている拳がぶつかることで発生した打撃、破壊。

威力というベクトルがピルツに留まり続けているのだ。


アズラが魔装・絶対魔掌ヴァルテンマギで引き寄せた現象とは威力がその場に留まる可能性だ。

この魔装・絶対魔掌ヴァルテンマギの応用力は彼女自身の想像以上。

あらゆる可能性に介入できる、まさに絶対の掌握だ。


永遠にとどまり続けるダメージに耐えられずピルツが意識を失い、ビビィーーー! と甲高い試合終了の合図が鳴り響く。

観客たちがアズラの完全試合に熱狂していく。

闘技場がアズラコールに包まれていき彼女の完全勝利を王都中に知らしめていくのだった。



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アズラの試合の終わりを告げる笛を聞いたある人物が、寝っ転がっていた椅子から飛び起きた。

ローブを纏っているが華奢な体つきで15歳ぐらいに見える。

額には二本の角が特徴的な額当てを付けている肌が真っ白で髪が真っ黒な女の子。

グーと背筋を伸ばしてようやく時間が来たと退屈していた気分を振り払う。


小型の術導機から映し出される映像に、その名前と対戦相手が映し出された。


第一試合

所属無し

ラバン

VS

ヒギエア騎士団代表所属

シュトゥンプフ・ツヴェルナ・ギガント


彼女の相手はヒギエア騎士団代表の副団長だ。

それを確認した彼女は。


「ん~。あんまり強そうじゃないゾ?」


そう言いながらリングの上へと上がっていく。

そして、試合開始から1分もしない内に。


「やっぱり弱かったゾ。寝るから時間が来たら起こして」


「うーん。分かったー」


ただ作業をしてきたように振る舞い彼女はまた椅子の上で眠り出す。

闘技場から彼女の勝利を称える歓声は聞こえてこなかった。

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