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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百十七話 神話を受け止めて

四公国騎士団統一戦のメインイベントの一つ団体戦が終了した。

勝利者であるケレス騎士団代表がタウラス第一王子から祝福の言葉を貰い、記念杯を贈呈される。

王都中にある小型の術導機から映し出されるその映像を通り過ぎながらセトたちは市場へと戻って来ていた。

市場は王都市場管理委員会公認のケレス騎士団代表勝利記念商品で埋め尽くされ、それを買おうとするお客さんで溢れかえっている。

なんだか自分たちのアットホームが奪われた気分になる。


「アズ姉、ケレスの商品が飛ぶように売れているね」


「私たちが勝ってたらアプフェル商会の売上がもっと上がったわね・・・」


騎士団統一戦の宣伝効果に驚くセトと最高の宣伝を逃したことを悔しがるアズラ。

人混みをかき分けアプフェル商会王都支部に到着するとルフタたちが出迎えてくれた。


「お前さんたちご苦労様である。勝利は逃してしまったが王都中がお前さんたちの噂で持ちきりだぞ」


「ベスタの新たな騎士たちって姉御たち噂にニャってるニャ!」


セトたちは気付かなかったが、どうやら試合には負けたがケレスとヒギエアを同時に相手したことが思いのほか好印象だったようだ。

意地でも商会の代表であるアズラを応援しようとベスタ記念と名付けた商品を並べていたアプフェル商会だったが、ケレス騎士団代表勝利記念商品に負けず劣らずで売れてくれている。

これは嬉しい誤算だ。


王都支部の人たちも自分たちの新しい上司はこんなにも強いのかと嬉しそうに集まって来る。

そういえば、アズラたちは王都支部の人たちとまだそんなに話せていない。

彼らから見たアズラたちはいきなり老舗の商会を譲り受けた奴らで、王族や貴族とも関わっているという認識だ。


正直、不安だったのだろう。何せ最初のイベントが王位継承者斬殺事件だ。そんなのに巻き込まれたら不安にもなる。

だが、今回の騎士団統一戦でそんな不安は彼らの心から綺麗になくなった。自分たちの上司は強い。大貴族ともやり合える人たちだと高揚感が溢れてくる。

王都支部のみんながセトとアズラ、そしてランツェを取り囲み、試合がすごかったやら、みんなカッコイイ! やらセトたちの今を表す言葉を送っていく。

みんなから褒められてセトたちもご機嫌だ。


「みんなありがとう。次の個人戦では絶対勝つから期待してて!」


「えへへ・・・、なんか照れるな・・・」


「・・・フ」


王都支部の人たちと一旦離れて店の奥に入っていく。王都支部の人たちのための休憩所だ。

ルフタたちと一緒に椅子に座り一息ついていると、リーベが部屋に入って来た。珍しく出迎えに来ていないと思ったが何をしていたのか。

リーベは一直線にセトとアズラに走っていき、ピタッと立ち止まって一瞬だけ悩んでアズラの胸に飛びついた。


「アズ姉さんお帰り! セトもお帰り!」


「ただいま。リーちゃん何してたの?」


「アズ姉さんとセトに伝えたいことがあって、その練習!」


リーベがまだ秘密とニコニコしながら答える。

アズラの胸にギューッと顔を押し付けて、大好きだと伝えてから。

みんなが見える所に移動して。


「わたしね、本当の名前が分かったんだ」


「!?」


「記憶が戻ったの!」


ついに失っていたリーベの記憶が元に戻ったのかとセトとアズラが驚く。

リーベは大好きな人たちに本当の名前を告げた。


「わたしの本当の名前はエハヴァ・ツァラトゥストラ。エハヴァ・ツァラトゥストラだよ」


本当の名前。

エハヴァという彼女が彼女である証の名前。

それをようやく知ることができた。

セトが感極まって泣きそうになる。


「よかった・・・。リーちゃんの記憶が戻って本当に良かった」


ぐすっと鼻をすすり涙を堪える。自分はお兄ちゃんなのだ。かわいい妹に涙は見せないぞとセトは必死に堪えようとするがポロポロと涙がこぼれていた。

アズラも目頭を熱くさせながらもう一度リーベを抱きしめようと腕を広げ、リーベも喜んでアズラの胸に飛び込む。


「やっと、やっと・・・。エハヴァ、あなたと会えたんだね」


「うん・・・」


アズラがリーベを。エハヴァをギュッと抱きしめる。

やっと本当の君に会えたとその存在を確かめるように強く抱きしめる。

二人を見ていたセトの背中をポンッとルフタが叩いた。

お前も行ってこいと促してやる。セトが涙を堪え切れずにボロボロと泣きながらリーベを後ろからギュッと抱きしめてあげた。

姉と兄に抱きしめてもらい本当に幸せそうな顔をするリーベ。


そんな姉弟をいつまでも見ていたいとルフタたちは思うのだった。



----------



二人がリーベの本当の名前を知ることが出来て良かったとそう思える。

だけど、同時にこの話も伝えなければならない。

リーベとずっと一緒にいたセトとアズラならすでに知っていることもあるだろうが、一つ確実に確認すべきことがあるのだ。

ルフタがそのことをセトとアズラに確認する。


「リーちゃんが聖女かどうか確認する?」


「うむ。リーベが本当に聖女なら吾輩たちは二つの脅威に備えておく必要があるのだ。リーベは四聖獣の一角、ビナーの聖女である可能性が高い。もしそうなら、確実に敵となる存在がリーベの前に来る」


部屋にはセトとアズラ、そして、リーベにルフタの四人だけ。アプフェル姉弟に関わる重要な話だ。

ルフタは真剣に話していく。


「一つ目は、聖女を殺しに来る存在。黒き異端者アニマである。これは聖女が四聖獣に戻った時に現れる異神の使いだ。この世界に存在するもう一柱の神の力、これが吾輩らの敵として立ちはだかるかもしれないと考えて欲しい」


黒き異端者アニマ。

その存在を聞かされた瞬間、セトにあの巨人の姿が浮かび上がった。

身長は5mほどあり骨に甲冑を貼り付けたような外観。全身真っ黒な体に赤いラインが走っている。体格は細く女性的な雰囲気をかもし出し、背中には長い突起が左右対称に生えた異端の姿。


「黒き異端者アニマ・・・、アズ姉!」


「ええ、間違いなくあの黒い巨人のことだわ」


黒い巨人の正体を二人は確信する。そして、リーベが聖女であることも。

確認するまでもない。黒い巨人はリーベの前に現れ、リーベは四聖獣の一角であるビナーに取り込まれて暴走した。

いや違うか。

取り込まれたのではない。戻ったのだ。取り込まれたように見えていたのは完全に戻っていなかったからだ。

セトたちの反応を見てルフタは二人が黒き異端者アニマのことを知っているなと思い詳しく内容を聞く。


「お前さんたち黒き異端者アニマを知っているのであるな?」


「知っているわ。ルフタには話していなかったわね。私たちとリーベが出会った時のことよ」


「うむ。詳しく聞かせてもらえるか」


アズラは語る。帝国領の町、ラガシュでの出来事を。森でリーベと出会い黒い巨人に追われたことを話していく。

そして、ラガシュのジグラット内部でリーベが四聖獣のビナーに変貌し黒い巨人と激突したことを。

最後に、黒い巨人が力を貸してくれてリーベを取り戻したことを語っていく。


「・・・異神の使いが力を貸した? 驚く話である。黒き異端者アニマはただ殺しに来ているのではないのか」


「あの巨人には意思があったわ。人は殺さずにセフィラだけを殺そうとする目的みたいなものを持っていた。きっと聖女のままでいることはその目的に沿っているんじゃないかしら」


「セフィラと対話が可能なように異神の使いである黒き異端者も言葉が通じるのであるか。戦う以外の道もあるかも知れないな」


これはかなり重要な情報だ。神話の存在と戦うなど正気の沙汰ではないことだったが、それを回避できる可能性が見えた。

脅威が一つ減るかもしれない。それは今後の対策も楽になるというもの。

リーベの未来に待ち受ける困難を確信しながらアズラはもう一つの存在を聞く。


「ルフタ、もう一つは何かしら?」


「もう一つはダートと呼ばれる存在である。こちらはまだ正体がよく分かってなくてな。吾輩の師匠の話だと悪夢のような曖昧な存在だそうだ」


「悪夢? 生き物ではないの?」


「そこも分かっていないのだが、リーベが聞いた話だと必ず男として聖女の前に現れるそうだ。個人なのか、組織なのか。受け継がれる何かなのか。今は何とも言えぬが警戒しておくしかないであるな」


悪夢。

ダート。


セトたちはまだこの存在とは遭遇していない。そもそも悪夢のようなという曖昧な情報だけでは特定できない。

ただ一つ分かることはリーベを狙う存在は、普通ではないということ。

異常な何かがジワリジワリと、それこそ悪夢のように浸食してくる感覚だ。

二つの脅威を知りアズラは判断を下す。

それは家族として彼女のために下した答えだ。


「ルフタ、リーちゃんが聖女かどうか確かめて」


「いいのであるか? 確かめるからにはリーベを守り抜くという決意が必要である。その決意があってこの真実を見るのであるな」


「ええ、リーちゃんが私たちの妹になった時からその決意はできてる!」


「僕もだよルフタさん!」


セトとアズラはとうの昔に決意できていると頷いて見せる。

そんな二人を見たルフタは愚問だったなと二人にいらない質問をしたと思いながら、最後にリーベに尋ねる。


「リーベ、これからお前さんの正体を。聖女かどうかを調べるがいいであるか? 嫌なら嫌でいい。聖女であろうがなかろうがお前さんは吾輩たちの大切な家族なのである」


自分を気遣ってくれているルフタに、リーベは感謝しながらコクリと頷いた。

自分も知りたい。自分の正体を。何者なのかを。


「分かったである。セト、アズラ少し離れていてくれ」


ルフタがリーベの胸に手を添え静かに神術を発動した。

治癒の神術によりセフィラの力である青白い光を注ぎ込んでいき、ゆっくりと慎重に神術の効果を確認していく。

治癒の神術の効果はすぐに表れるはずだ。人の体をセフィラの血肉で保護し再生力を爆発的に高めるはず。

体に傷がなくてもセフィラの血肉が青白い光が包み込むはず。

ゆっくりとゆっくりと注ぎ込む。


かなり注ぎ込んだかもう大の大人二人分ほどの量だ。それでも効果は表れない。

いくらでも吸い込んでしまうような底なしとも言える力を内包した器。

人ではありえない器だ。

ルフタは間違いないと確信した。自分の目の前にいるリーベは聖女であると。

治癒の神術をやめリーベから手を退ける。

そして、見守っていた二人に。


「リーベは聖女で間違いない。吾輩らで彼女を守るぞ!」


「うん」


「そのつもりよ」


確認しなくても分かっていた。

リーベが聖女であると、神話の存在の一人だと。

これは儀式だ。

自分たち姉弟が一生背負っていく、大きな、とても大きな事実。

それを受け止めるための儀式。

そして、それは受け止められた。

セトがリーベに誓った守るという誓い。それは姉弟のみんなの誓いへと昇華する。



----------



想いが集まり誓いとなって尊い人を守ろうと決意し。思惑が集まって野望が蠢き始めた頃。

そんな彼ら全てを巻き込んで四公国騎士団統一戦の次のメインイベントが始まった。

小型の術導機から映し出される映像に個人戦第一試合の候補たちが次々と映し出される。

ベスタ、ヒギエア、ケレスの騎士団メンバーに加えて一般枠を巡って予選を勝ち抜いてきた新たな強者たち。


セトたちはその映像に映った候補たちを見上げていく。

自分の相手は誰だと見上げていく。

そして、セトたちの対戦相手が映し出された。


第一試合

ベスタ騎士団代表所属

セト・ルサンチマン・アプフェル

VS

カラグヴァナ王国 剣の騎士団第5部隊所属

ゼーグラース・シルトルナ・プフェーアト


ベスタ騎士団代表所属

アズラ・アプフェル

VS

ケレス騎士団代表所属

ピルツ・シュヴェルナ・ヴィルトシュヴァイン


ベスタ騎士団代表所属

ランツェ・シュペルナ・ナースホルン

VS

ディユング帝国 国立術式事象観測研究所所属

ハーム・ルサンチマン・ヴィタル


ベスタ騎士団代表所属

王守・森羅

VS

ヒギエア騎士団代表所属

カクトゥス・ヴュスルナ・ゼーラフ


以上がセトたちの初戦の対戦相手。

その中でも注目すべきは森羅の試合だ。なにせ相手はヒギエア近衛騎士団長。

まだ、彼は装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストを使用していない。その実力を隠したままだ。

アズラの対戦相手も油断ならない。団体戦で彼女と殴り合っていた騎士だ。殴られたら剣を使わずに拳で返すその根性は個人戦でも健在だろう。


事前情報があるアズラたちと違いセトとランツェは未知の対戦相手だ。

一般枠をつかみ取った強者共。セトの対戦相手は騎士なのでまだ予想しやすいがランツェの相手は全く持って謎だ。

そんな者たちが初戦の相手。

もう間もなく開始だ。

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