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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百十六話 始まった統一戦

小型の術導機より映し出される映像には強者共をなぎ倒し勝利をもぎ取った者たちが映し出される。

その者たちは、ケレス騎士団代表。

その中でもこの二人が勝利の立役者だろう。ケレスの公女であるシアリーズが雇った傭兵たちだ。

統一された白銀と黒の軽装の鎧を身に着け、胸には鳥のシンボルが描かれている。顔全体が隠れるほど大きな仮面を被った黒髪の二人組の男女。

女の方は豊満な丘二つにモデル体型の持ち主、男の方は鍛えこまれた肉体を見せつけているのではと思うほど筋肉が発達している。


カデシュ大陸でも5本の指に入る程の圧倒的な体術を有する森羅や、カラグヴァナ勢力で最高峰の装備を持ち出してきたヒギエア騎士団代表をほぼ二人で蹴散らしたのだ。

森羅のいるベスタ騎士団代表がヒギエアとケレスに同時に攻められた時を好機と睨み、二人が敵領土の旗を単身で奪いに行き易々と達成した。


守備に徹すれば後れは取らないと踏んでいた森羅もあっさりと突破されたことに苦笑いを浮かべ。

女一人に、近衛騎士団の団長と副団長がいながら出し抜かれてしまったヒギエアの騎士たちは何を思っているのか静かに佇んでいた。


負けてしまったベスタ騎士団代表の面々が映し出される。

魔装が完全に破損し衣服は砂埃だらけのアズラ、槍は真っ二つに折れて傷だらけのランツェ。

そして、セトは気を失ったまま大の字でぶっ倒れていた。

フワフワと宙に浮かぶ小型の術導機が容赦なくセトの負け姿を映し出す。


「ニャー! 負けちゃったニャー!」


「むー・・・、あの二人知っている気がする・・・」


エリウたちも市場の大通りに集まり映像を見ていたのだが、ベスタ騎士団代表が負けたことで落胆の声が広がった。

アプフェル商会のアズラたちが代表として出場しているのだ。市場を取り仕切る王都市場管理委員会に所属する商人たちがこぞって応援し勝利を願ったが一歩及ばなかった。

集まっていた商人たちがチリジリに店に戻っていき、ベスタが負けたら負けたで、早速商品の謳い文句をケレス騎士団代表勝利記念に変更していく。

そこら辺はきれいさっぱり割り切っているのだ。


エリウたちも店に入ろうとするとルフタが戻って来た。


「あ! ルフタどこ行ってたニャ」


「ルフタお父さんお帰りー」


「うむ、今戻ったである。いきなり居なくなってすまん。偶然、恩師に会うことが出来てな。ちょっと話していたのだ」


エリウとリーベに謝りながらルフタも一緒に店に戻る。

一度、チラッとルフタはリーベを見た。

リーベは聖女なのか。そうでないのか。

確認しておくべきかどうかルフタの頭の中で議論が巻き起こる。

なんだか、自分たちと違うよそ者を探しているみたいで嫌なのだ。

ノネから話を聞いている時は確認するべきだろうと思っていたのに、いざ本人を目の前にするとそんな気持ちになった。

別にリーベが聖女かどうか分からなくても、今のままでも大丈夫な気がする。そう思いたい。


「団体戦が終わったから一度アズラたちが戻って来るはずである。リーベ、ちゃんと報告するんだぞ」


「うん! わたしの名前、アズ姉さんたちに教えてあげるんだ」


まるで天使のように笑うリーベ。その笑顔からは恐れや不安など微塵も感じない。

その笑顔をルフタは守りたいと思う。

ノネから聞いた聖女を殺す者、狙う者。


黒き異端者アニマと謎の存在ダート。


リーベが聖女だったならこの両者から守ってみせると、ルフタは目の前にいる守るべき者たちを決意の瞳で見るのだった。



----------



闘技場の中に用意された控室。

その中で四大公爵家のために用意された部屋でセトたちは絶賛反省会中だ。

アズラはリベンジに燃えてランツェも静かな闘志を漲らせるが、セトはうずくまって動かない。


それはもう盛大に負けたのだから反省しなければならない。

団体戦は勝ちを譲る取り決めだったが、セトたちはちゃっかり勝ちを狙っていたのだ。

だけど、負けてしまった。

それは誰の所為かというと。


「僕のせいで負けちゃった・・・」


セトの所為だ。

もの凄く暗い表情でため息をつく。

確かにセトが倒れたことが引き金になり劣勢となったが、あれは仕方ないとも言える。

何せいきなり試合会場の端から狙撃されたのだ。

騎士の武器は剣や弓で術式の心得もあるというセトの認識外から攻められた。


「あんな武装を持ち込んでいたなんて・・・、個人戦で当たったら返り討ちにしてやるわ!」


「倒す!」


アズラとランツェが闘志満々だ。やられたらやり返す。至極当然、当たり前。

そんな二人をなだめるのに森羅は苦労しながら、先の団体戦を振り返る。


「まあまあ・・・、今回はしてやられたということで。しかし、ヒギエアに切り札を切らせたのは上出来でしたね」


「切り札? あの細長い棒がですか?」


「はい。あれこそがヒギエアの切り札、装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストです。簡単に説明するなら術導機を装備しているのです」


装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストとは、金属の加工技術に優れるヒギエアがその粋を結集して開発した武装だ。

術導機に用いられる素材に手を加え機能をそのままに小型化を実現したもの。

人より二回りほど大きいサイズが基本の人型術導機の性能が一つの武装に収まっているのだ。

騎士百人を相手にできる力が人の手で制御され振るわれる。まさに、新たな力。技術革新とも言える代物。


「魔装とも違うから何を使っているのかと思ったら、そういうことね」


魔装でいくら可能性に干渉しても確実に攻撃を成功させてくることに疑問を感じていたが、干渉する可能性を間違えていたとは。

アズラがなぜ気が付かなかったと悔しがる。


「剣が増える騎士もいた」


ランツェもヒギエアの騎士の脅威を思い出す。二刀流の騎士と戦っていたはずなのにいきなり四刀流になったのだ。

後の二本はどこから出てきたと戸惑っている内に槍を叩き折られた。


「それも装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストですね。今回はこちらの思惑が相手に読まれて2対1という状況になりましたが、相手の手の内を知れたのです。そこは誇っていいでしょう」


森羅がよくやったとみんなを褒めるが。

セトは聞いていないようだ。ずっとうずくまったままだ。


「・・・負けちゃった」


「ハハハ・・・、誇っていいのですよ?」


「もぉ! 情けない!」


怒ったアズラがセトの首根っこを掴んでズルズルと部屋の奥に連れて行く。

説教という名の励ましだろう。

弟のことは姉に任せるとして、森羅は団体戦で浮き彫りになった問題点を挙げる。


「さて、ですが悪い情報も分かりました。個人戦で脅威となるのは間違いなくケレスのあの二人です」


「・・・」


「ただの傭兵と思っていましたが、まさか体術で遅れを取ってしまうとは・・・、旗を取られたのは私の油断の所為ですね」


「・・・」


「もう一人も高位術式使いのようでした。あの実力だと独自の属性も持っているかも知れませんね」


「・・・」


一人で話し続けていた森羅は誰も返事をしなくなった部屋で微笑みながら一言。


「・・・セトとアズラが戻るまで待ちますか」


セトとアズラが抜けたから、ランツェと二人きりになったのだ。

騎士団代表四人の内、二人も抜けたら部屋も静かになるに決まっている。

ランツェは余りしゃべらないのでさらに静かになっていた。


「ああ」


ランツェが返事をし肯定した。森羅も返事が返ってきてニッコリ。

森羅の寂しさも少しはまぎれるというものだ。



----------



闘技場で特別に用意された王族と四大公爵家専用の観覧席。

その観覧席で公爵家の一人、ガスパリス公爵が珍しく不機嫌になっていた。

原因はたった一人に旗を奪われ敗北した己の近衛騎士団だ。


「ほっ! あんな負け方をしてしまっては装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストの評価が下がってしまいますな。まったく」


「どうしたガスパリス卿? それほど悪い試合内容じゃなかっただろう。その装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストで、わしの騎士が一人倒されたのだからな」


「あの騎士は一番弱い騎士でしょう。弱い敵を倒しても武器の宣伝にはならないですな」


ガスパリスはこの騎士団統一戦を装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストの宣伝に利用するつもりのようだ。

だから、あっさり負けてもらっては困る。敵にも騎士たちにも。

装着型術導機メヒャーニク・ツァオバークンストの性能を存分に発揮して宣伝してもらわないといけないのだ。

ガスパリスの頭の中はいつも自国の経済のことのみ。その温厚な性格からは想像もできない思考をしている人物なのだ。


そんな、不機嫌なガスパリスと未だ冷静なウィリアムに、まずは一杯食わせたシアリーズは一言も喋らずただ静かに試合の結果を見届けた。

椅子に座ったままピクリとも動かない彼女は極度の緊張を誰にも悟られないように押し隠している。

いつも内気で気弱だった彼女は父と母の背中に隠れていた。優しい両親はいつも自分を守ってくれていた。

だけど。

もういない。

自分を守ってくれる両親はもういない。両親の守っていきた国を自分一人で守らなければいけない。


(これで、ケレスはまだ健在だと示せた。後は個人戦で優勝できれば・・・)


シアリーズ静かに勝利の結果に安堵する。いつもの近衛騎士たちと違う者を出場させたウィリアムが、何か仕掛けてくるのではと警戒していたが団体戦ではなかったようだ。

となると、個人戦か、その個人戦優勝者を招いて行うパーティーかどちらかだろう。

シアリーズはこの場にいる全てを警戒する。ケレスのために、民のために、この統一戦を勝たなければならないのだから。


「あの傭兵たちお強いですわね。もしよろしければ正体を教えてもらえるかしら?」


ガチガチに緊張していたシアリーズに話しかけてきたのは、ウィリアム公爵の娘、フローラ公女だ。

シアリーズが会うたびに真っ赤な真紅のドレスを着ているお嬢様。

今日も胸元が大きく開いた派手なドレスを身に纏っている。


「正体を隠すためにわざわざ仮面を着けてもらったのよ。なぜ、あなたに教える必要が?」


シアリーズは冷たく突き放す。別にフローラのことが嫌いな訳ではない。

今は心に余裕がないのだ。

だから、本当に必要なこと以外は切り捨てる。ただ一直線にシアリーズは進む。

進みたいのだが。


「そうですの・・・。なら、わたくしの騎士団を代わりに教えて差し上げますの」


「あなたの騎士団の話を聞いて何の得が・・・」


「あら、今出場しているベスタの騎士はわたくしの騎士団ですわ」


「え!? ウィリアム様の騎士団ではなくあなたの騎士団ですって!」


シアリーズは驚愕する。団体戦で戦った相手がベスタの最強戦力ではなく、公女の親衛隊だったとは。

ベスタの戦力は自分の想像以上なのかも知れないとベスタの評価を上昇修正する。


「聞いてみますかしら?」


「え、ええ。少し興味が湧きました」


「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですの。わたくしは、小さい時一緒に遊んだフローラのままですわ」


フローラはシアリーズの気持ちをこの場の誰よりも理解していた。

得るべき結果が誰より分からなくても、気持ちは分かる。感じ取れるから。シアリーズの側にいようとフローラは話しかける。

フローラの声に話により徐々にシアリーズの緊張が解けていく。

少しづつ会話が続いて、話が弾んでいく。

フローラが微笑んでシアリーズもぎこちないながら笑顔を見せた時。


その様子を彼はただ静かに横目で一瞬だけ見る。

陰謀と欺瞞が満ちたこの場で、ただの弱者を哀れみ、そして手を差し伸べた女を。

タウラス・シュピルナ・カラグヴァナ第一王子は、ただ静かに時が満ちるのを待っている。

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