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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百一話 まだまだ修行の途中

高い山々に囲まれた道を進みついにヒギエア公国領に到達した。

国土のほとんどが山に囲まれており、その立地を生かして鉱山国家として栄えているのがヒギエア公国だ。

鉱山国家として栄えていると言うことは、同時に鉱石の加工技術などに優れている国でもある。

鉱石をピカピカに磨き上げたアクセサリーや極限まで切れ味としなやかさを求めた剣など、この国でしか見ることの出来ないものが沢山あるのだ。

そんな商売のネタになりそうな話がゴロゴロと転がっているヒギエア公国の町をセトたち一行の馬車が進む。

今日の宿を探すために馬車を馬繋場に止め、エリウが飛び降り背筋をウンッと伸ばす。


「ウーン・・・、着いたニャー」


セトたちが着いた町は鉱山町。山をくり抜き鉱石を採掘していた場所に自然と人が集まり町が出来たのだ。

切り開かれた山に張り付く様に木材で道が造られ斜面に家が建てられている。

いきなり崩れたりしないかなと不安になるかもしれない、逆にすごい町だと感激するかもしれない。

ちなみにエリウは大喜びだ。


「ニャー、いい町だニャ。まるでハトゥール族のためにあるかのような町。もっと緑があると完璧だニャ」


「エリウの故郷もこんな感じなの?」


そういえばエリウの生まれ故郷はどんなところなのだろうとセトは聞いてみる。

亜人の国なんてあるのだろうか? 国はないけどバカ広い領地でもあるのか?


「うんニャ。あちしの生まれ育った森はもっと高くて村も木の上にあったんだニャ。木の下で住んでいる人間の方が不思議だニャ」


「へー、木の上の村か・・・、僕も行ってみたいな」


「この時期は帝国の大森林地帯にいるはずニャ。行くことがあったらあちしが案内してやるニャ」


ハトゥール族の村は季節によってその場所を変えるのだ。常に最も安全な場所を求めて森を移動する一族。

長年の移動と情報により安全な場所が確立されてからは、この時期はこの辺りと村の場所は決まってきているようだ。

まぁ、それでもたどり着くにはハトゥール族の案内が不可欠なのだが。


「うん、その時はよろしく」


そんなことなど知らないセトは気軽にエリウの案内を受け取る。

案内してくれるということは彼女がセトたちのことを信頼している証なのだが、セトはその信頼に応えてやれるのか?

ちなみに、ハトゥール族の女が他民族の男を村に招くということは、結婚しますと報告することと同義である。

エリウはそのことを分かっているのだろうか? ・・・分かっていないな。


二人の所に馬車を預けたリーベとランツェがやってきた。

リーベはすっかりランツェとも打ち解けたようだ。もともと口数が少ないランツェだが、リーベは言葉よりも気持ちを察しやすい性格なので口数が少ないのは些細なことなのだろう。

そのランツェが町人から聞いた情報をみんなと共有するため口を開いた。


「首都までは、あと真っすぐ行くだけだそうだ」


「じゃあもうすぐだね」


目的地、ヒギエア公国の首都ヒュギエイア。

カラグヴァナ勢力圏の中で剣や盾、鎧などの品質はこの首都ヒュギエイアが管理している。

首都ヒュギエイアの鍛冶職人たちがカラグヴァナの技術を保っているということだ。

カラグヴァナの技術水準は加工技術のヒギエア公国と術式技術のエウノミア公国が支えていたのだが。

エウノミア公国が反乱を起こした今、技術の全てを支えているのはヒギエア公国ということになる。

王国に提供されている技術の半分が敵に回る。そう考えると今のヒギエア公国の存在価値がいかに大きくなっているかが分かるだろう。


そんな状況が変化している時に、セトはジグラットからの親書をヒギエア公国に届けるという、神託という名の仕事が与えられた。

この状況を理解している人間なら親書の内容が気になって仕方ないはず。

なぜかって?

今、最も重要な立ち位置にいるヒギエア公国に世界最大宗教ツァラトゥストラ教からの意思が書かれた親書だ。

親書の内容一つで一国の対応が変わるかもしれない。歴史が動くかもしれないのだ。


世界最大宗教のツァラトゥストラ教からの親書にはそれだけ世界を動かす力がある。

その重要な書類をセトに運ばせるのも不思議なことではあるのだが、セトも親書の運搬をただの仕事と認識してしまっている。

失くしたら歴史が変わるかも?


そんな重要なものを運んでいるとも思わずにセトたちは宿に向かっていった。



----------



セトたちの旅が順調な中、アズラの修行もより高度なものになっていた。

徹底的に術式の応酬を想定した模擬戦。コードの読み合いを極限まで高めて実行させるそれはあらゆる現象を手玉に取っていく戦いだ。

風も水も、大地に火すらも。あらゆる現象を掌握し自分の術式に取り込んでいく。

その取り込んだ術式すら掌握し、さらなる境地に上っていっていた。


アズラが地面を掌握し足場を崩すと、森羅は風で浮かび上がり崩れた地面を土砂の津波に変えてアズラを襲う。

その土の津波を瞬時に岩へと固めて逆に森羅へと続く足場にしてしまう。


そんな戦いが繰り広げられていた。


「そこッ!」


空中で止まってしまった森羅に対しアズラが魔力を圧縮してぶつける。

術式の応酬の中でただの魔力を攻撃に用いればそれは干渉できない特異点となる。アズラはその特異点を存分に利用する。

その純粋なエネルギーの塊を拳に乗せて振りぬく。森羅の顔面を捉え拳がめり込んでいく。

だが完全に振りぬく前にスルリとかわされた。

拳が当たっているのにかわされる。

もう何度も拳を当てているのに触れるだけでかわされているのだ。


アズラは修業が始まってから一度も森羅にダメージを与えられていない。

何か圧倒的な壁が彼とアズラの間に存在する。

地面に着地し、未だ風の術式で浮遊する森羅を見上げた。見上げられた森羅は優しく微笑んでいる。


それがアズラには、まだまだと言われているように感じ取れた。

ならもっと、もっとやってやるとアズラに闘志が湧き上がっていく。


「ハァ!」


魔力を練り上げ、術式を折り重ねていくつもの現象を重ね合わせる。

火と水が混ざり合い風と土に圧縮されて自然では成り立たない現象を作り上げた。

一つのコードを逆算されても他のコードがそれを補い術式の掌握を阻害する構造。

多重術式をコードの逆算を阻害する方面に特化させたものだ。

それを打ち放つ。


ズドゥッ! と多重術式を拳で殴りつけ弾き飛ばした。

四大系の術式が折り重なるこの攻撃ならいくら師範でもすぐには掌握しきれないはず。

アズラは模擬戦の状況を把握していく。

師範から一本取るのに必要な手段を頭からたたき出してく。


だが、そのアズラの出した答えを森羅は苦も無く受け止めた。

折り重なった多重術式がピタリと静止する。

アズラも思わず足を止めてしまった。


「よく考えましたね。ですが、術式は必ず完全に掌握する必要はないのです。無効化できればそれは脅威ではない。こんな風に」


そう言って、森羅は多重術式の進路方向を真逆に変えて見せた。

アズラの打ち放った攻撃は、真っすぐそのままアズラに返ってくる。

折り重ねた攻撃が、自分の出した最適解がそのまま脅威となりアズラを襲った。

回避が間に合わず、解き放たれた四種類の術式が周囲を舐め尽くす。

アズラを地面に叩き付け体力を奪うには十分な威力。

自分の出した攻撃に自分がダメージを受けるという最悪の結果がはじき出されてしまった。


「ぃッ、ツー!」


「それではここまで! 今日の反省会をしましょうか」


「ま、まだやれます!」


「学習のない消耗戦は意味を成しません。焦らなくても確実に進んでいますよ。・・・そうですね。一度、闇の術式に挑戦してみましょうか」


森羅はそろそろいいころ合いかなと闇の術式の取得を口にした。

アズラには言っていないが今までの模擬戦はこの闇術式習得のための下準備だ。

他者の術式に強制的に干渉する闇の術式の習得はかなり難易度が高い。

だが、模擬戦で術式のコードの逆算をこれでもかと繰り返した今のアズラなら・・・と。


何事も準備が肝心。いきなり強くなって最強になりましたなんてのは、その強さに翻弄されているだけだ。

少しずつ強さを物にしていくから、その力の意味も使いどころも分かるというもの。

習得に必要な下地はもう完了していると考えていいだろう。

ならやらせてみるだけだ。


「アズラ、今から闇の術式を唱えてみてください。ホシェフのコードは相手の唱えるコードによって変わるので、コードの逆算を正確に行えば大丈夫です」


「コードの逆算を・・・? あ! それでずっとこの模擬戦を」


「そういうことです。では、私が術式を発動させたらそれを闇の術式で妨害してくださいね。行きますよ!」


森羅の手の平から白く光る球体が出現する。

熱を発しているのでおそらく火術式か?

アズラは早速、森羅の出した術式の逆算を開始した。火の術式がメインと仮定してそのコードを読み解いていく。

メインコード・エシュ、サブコードは威力を高めるために風のルアハを用いているのか?


(この組み合わせは私も使ったことがある。威力や範囲のコードが分からなくてもメインとなるコードが分かれば・・・!)


アズラは闇の術式のコードを今まで逆算していたコードに織り交ぜていく。

闇の術式の最大の特徴は、強制的にコードに割り込むことにある。

術式を逆算して無効化するのではなく、魔力に送られた命令を書き換えてしまうのだ。

どのタイミングで書き換えれば最大の効果を発揮するか、それがコードの逆算で決まってくる。

馬鹿正直に術式を使用していた頃は、闇の術式を使用されただけで完全に術式を封じられた。

それは相手に分かりやすい術式のコードを使用していたからだ。


だけど今回の森羅が唱えた術式はおそらく多重術式。

簡単には見破れない。

アズラは見極める。

どこでコードを書き換えるのか。どこが最大の効力を生み出すのか。

火と風を切り離すか?

それとも、威力を書き換えるか?


(違う。そんなことをしてもあの術式は消えない。完全に消すには・・・ここ!)


アズラが闇の術式を発動させる。

自分の導き出した答えを信じてコードをねじ込んだ。

アズラの手の平から白い魔力が黒い光に置き換わり、森羅の術式に干渉する。


すると、白く光る球体がぐにゃりと歪んだ。

その現象を維持するための命令が書き換えられていく。

そして、内側から弾けるようにボンッ! と爆発した。


白い煙が二人を包むが、森羅が風の術式で煙をかき消していく。


「やった・・・、出来ました!」


「お見事です! いやはや、一発で成功とは。これは私を超えるのもそう遠くはないかもしれませんね」


アズラがねじ込んだ闇の術式のコードは術式の暴走を誘発させるタイプ。

術式の根幹となるメインコードに干渉し現象を発生させるバランスを崩したのだ。

確実に修行の効果が出てきている。

先ほど感じた焦りは消えて、アズラの心は成長したという喜びに満たされていく。

弟子の成長に森羅も手ごたえを感じながら。


「では、反省会をしましょうか」


「あ、はい」


アズラの苦手な反省会が開始された。

彼女は、自分のやった事に対して指摘されるのがものすごく苦手なのだ。

なまじ何でも出来ていたから、自分のやったことの結果を振り返った経験が少ないのだろう。

それはいけない。

結果に対する反省があって人は学習し成長するのだ。


今日の反省部分はここ。

コードの最適な逆算ができているか。


森羅は、アズラが術式のコードを完璧に逆算して対策しようとしているのを把握している。

毎回、完全にこちらの術式による現象を静止させていればどんな逆算をしているか分かるというものだ。

逆算のパターンを読ませない鍛錬もそろそろ追加かなと森羅は予定を立てていく。


この時点でアズラの強さは十分に通常の上位騎士以上だ。

だが、上位騎士の中でも近衛騎士や騎士団長クラスにはまだまだ及ばない。

騎士の強さにも幅がある。

上位騎士も同じで、下は中級騎士より少し強い程度だ。


彼女にはまだまだ上を目指してもらう。

なぜなら、その近衛騎士や騎士団長が出てくる騎士団統一戦で勝ち進むのだから。

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