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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第五章 四公国騎士団統一戦
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第百話 裏でも物事は進む

シェレグ城の中庭で今日も特訓が開始されていた。

中庭に飛び交う、術式の応戦。

アズラが放つ術式を森羅が軽々とかわしお返しにと術式を叩き込んでいた。


今回の内容は術式を効率的に運用するための方法をマスターすること。

今までのように、ただ魔力量に任せて発動させては意味がない。

最適な魔力で、最適なコードを送り術式を発動させるのだ。


術式を唱えるアズラの足元には小さな水たまりがいくつもあり、魔力によって波を立て水の滴が浮かんでいる。


「水のマイムはここにある! だから!」


アズラが水の術式を唱え発動させていく。だけど、それは今まで唱えていたコードではない。

水がここにあると観測するコードから、ここにこれだけの量があるとより具体的なコードに置き換えていく。

存在の有無から存在の大きさをコードにより魔力に命令していくのだが


「遅い!」


「くッ」


コード変換を終える前に森羅の放った風の術式がアズラを吹き飛ばす。

あれだけ得意に発動していた術式が全く上手くいかない。

魔力に送るコードを変えるだけでこれだけ術式発動の難易度が違うとはアズラは予想もしていなかった。


術式を発動させるコードの組み合わせは無限と言えるほどある。

その中から、状況に適したものを組み合わせ最適な術式を組み上げなければいけない。

アズラが今まで用いていたコードは、どんな状況でもとりあえずは発動するものだった。

それを教えてくれた風の団のハンサ。つまりアズラの師匠は、扱いやすい術式のコードを教えてくれたということだ。


どんな状況でも問題なく発動するコード。

それは、非常に優れたコードでもある。

アズラは今までそのコードに頼り切っていた。

コードの組み合わせをさらに調べて、発展させようともしていなかった。

それが術式発動に苦しむ今の原因だ。


「もう一度最初から。いいですかアズラ、0を1にするのと1を100にするのではその意味が大きく異なります。もう水はあるのです。僅かでも量が増える組み合わせがあるのならそれを積み重ねてみるのも手ですよ」


「はい」


脚に力を入れアズラは立ち上がる。

まだまだ修行は始まったばかり、一度や二度の失敗でアズラはくじけたりしない。

目を瞑りもう一度、魔力を全身で感じていく。

自分の周りにある環境を記号に置き換えていく。

今あるのは何だ?


「水のマイムはここにある・・・」


量は? 位置は?


「5ヵ所、私が扱えるのは・・・」


目を開き感じ取ったコードを組み合わせる。繊細に慎重に、最適なコードを。

辺りの水が浮かび上がり徐々に量が増えていく。最適なコードにより術式が発動していっている。

だが、その構築を森羅は待たない。

これは勉強ではない。修行であり模擬戦なのだ。


風の術式とあえて水の術式を織り交ぜた攻撃を発動させた。

一つは物理的に妨害するための攻撃。

そして、水の術式は最適なコード構築を妨害するためのものだ。


「さぁ、どこまで防げますか?」


森羅は、模擬戦でも手は抜かない。

そもそも、この程度こなしてもらわなければ統一戦で勝ち上がるのは不可能。


宙に浮かぶ水の塊を蹴散らし、逆にコントロールを奪いながら二つの術式がアズラに迫る。

アズラはそれを冷静に見ていた。

二つの術式を冷静に状況に組み込む。

記号に置き換えていく。

例え自分が発動させた術式ではなくても、自分を取り囲む環境の一つであることには変わりない。


だから、その術式ごと、最適なコードに組み込んでしまって。


「ッ!」


ガチリッ! と頭の中で何かがはまる。

電流が全身を駆け巡っていき目の前に迫る水の塊をピタリと静止させ、風をかき消した。

それは森羅の放った術式を完全に掌握したということ。

その光景に森羅は優しく微笑む。


そして、周りに浮かぶ水の塊ごと一気に膨張した。

1から100へ。

水の小さな塊だったものが、水の竜巻を起こすほどの規模に一瞬にして変わる。

アズラの術式が次のステージに上がったのだ。

自身の周囲を覆いつくす水の渦を眺めながらアズラは手を握り締め感触を覚え込む。


「そこまで! よくできました。その感覚を覚えておいてください。今の術式の攻防、これが真に術式使いと呼ばれる者たちの戦いですからね」


「はい!」


アズラは初めて成功した最適なコードによる術式を用いて、今度は水の竜巻をただの滴に変えてしまう。

彼女はもう最適なコードを物にしつつあるようだ。

そのことが嬉しいのか森羅もうんうんと頷き微笑んでいく。

水の術式が消え、午前の修行は終わりだ。

それを森羅が伝えようとすると。


アズラが城に向かって走っていってしまった。


「アズラどこに行くのですか!?」


「ルフタとマルクの様子を見に行ってきます!」


それを聞いた森羅は、それなら仕方ないと微笑む。

実は、今日の朝方、ちょっとしたトラブルがありルフタとマルクが医務室で治療を受けている。

森羅がいなければ惨事になっていたかもしれないトラブルが二人を襲ったのだ。



----------



少し時間が遡る。

朝方、配管が壁を埋め尽くす部屋にアズラたちが集まっていた。

彼女らが見に来たのはマルクが解析している術式機械だ。

アズラたちの他に、なぜかルフタも呼ばれている。

彼もなぜ呼ばれたかまでは聞いていないようだ。

物珍しそうに術式機械を眺めている。


この術式機械、エウクレイデスたちの拠点に落ちていたもので、片手に収まる程の大きさだ。

彼らが使用していたと考えられるため、マルクが慎重に解析を進めていたのだ。

鋭い管が飛び出しており、本体部分にランプと思われる部品が取り付けられ駆動装置のような機構が確認できるが、どういった用途の機会なのかは分からない。

まだ、ほとんど解析出来ていない術式機械の説明をなぜか自信満々にマルクは行っていく。


「コホン、この術式機械。まだ何の用途に用いるか不明ですが、構造、大きさからして何らかの制御装置であると考えられますね」


つまり、全く分からない。

分からないのに解説を行うのはマルクの研究者としての意地か。


「制御機械であるとするなら、何を制御しているかが重要であり、このマルクの見立てではジグラットの奇跡、通称セフィラ因子であると予想される。そこで元神官であるルフタ殿をお呼びしたのだね」


「それで、ルフタを呼んだのね」


「納得である」


ルフタは自分が呼ばれた意味をようやく知ることができた。

説明してくれればいいものをと愚痴りそうになるが、それは喉の奥に押し込んでおく。


「森羅、この機械、何か分かりそうかしら?」


聞かれた森羅は目を細めて術式機械を眺める。

その目からは少し警戒するような雰囲気が出ていた。


「天主国製ではないですね。となると、帝国製の可能性が高い。マルクの見立て通りセフィラ因子を用いると考えるのが打倒です」


「流石は森羅殿、術式機械発祥の地より来られただけのことはある。では、早速試してみましょうかね」


マルクがルフタに、術式機械に手をかざすよう促し実験の準備を勧めていく。

とりあえず、神術を術式機械に施せばいいのだろうかとルフタは手をかざした。


「では、こちらの合図に合わせて神術の使用をお願いしますね」


「承知したである」


「皆さんは少し離れてください。万が一ということもありますので」


「いや、万が一があっては困るのであるが・・・」


ルフタは不安そうにマルクを見るがマルクは気にも留めない。

早くどんな結果になるか見てみたいと目を輝かせている。

ちょっと危ない輝き方だ。

何を言っても聞こえていないなとルフタは諦め言われた通りに役割をこなすことにする。


「それでは、始めてください」


「うむ」


若干、不安だが言われた通りに神術を術式機械に施していく。

本体から飛び出た管にゆっくりと青白い光が吸い込まれていき、ランプが淡く光り出した。


「やったぞ! 早速反応があった!」


マルクのテンションが跳ね上がった。


「確認も済んだしもういいのでは?」


「まだ、もっと注いでくださいね」


意見を否定されたルフタのテンションは下がった。

訳の分からない物にはあまり触れたくないのだが、訳の分からない物ほどマルクは興味を示すのだ。


もうかなり注いだか。

ルフタが術式機械の様子を窺っていると、ランプが完全に点灯し駆動部分が動き出した。

まるでポンプのように内部で何かを圧縮し管に送り込んでいる。

その送り込まれた何かが管から顔を出した。


管から垂れて来たのは赤い液体。


「赤い水? いや、これは血!?」


マルクが液体の正体が血であると気付いたと同時に、血だまりが膨張した。

赤い血を呑み込み膨れ上がるそれは肉だ。


「な、何だ!? セフィラ因子を血肉に変える機械なのかね?」


「違う! これは!」


ルフタがマルクを弾き飛ばした瞬間、その肉は口となり腕を吐き出してルフタたちを殴り飛ばしてきた。

棚に叩き付けられ、研究機材が散乱する。

バカでかい口を大きく開け舌の代わりに腕を伸ばすそれは、ルフタたちを襲撃しさらにアズラと森羅に飛び掛かろうとする。

その謎の物体をアズラは見たことがあった。


「これは・・・!」


「二人とも下がってください!」


アズラとフローラの前に森羅が飛び出し蠢く腕に手の平を押し込んだ。

その直後にグロテクスな腕が大きく膨れ飛散していく。

森羅の魔力が内部より破壊したのだ。

腕を破壊された術式機械はその動きを止めて警戒を崩さない森羅に拾い上げられる。


「これは、セフィラ因子を制御する術式機械で間違いありませんね。帝国軍が独占する技術のはずですが、なぜこんなところに?」


「悩むのは後ですわ二人を医務室に。森羅その機械は厳重に保管を無理なら破壊してくださいな」


騒ぎを聞きつけた騎士たちが二人を運んでいく中、アズラはこの機械がどう使われていたのかが想像できた。

アズラは納得するように呟く。


「エウクレイデスはこれを使ってあの体を得ていたのね・・・。」


「アズラ、この術式機械に心当たりが?」


「はい、少し前なのですけど・・・」


アズラはベスタ公国であったジグラット支部の暴走について話す。

エウクレイデスが起こした信徒たちの暴走。

自分たちもまきこまれた狂気の渦を。


「なるほど、そのエウクレイデスという者が使用していたと。確認はできませんが筋は通っていますね。しかし、そうなるとこの術式機械を持ち出した人物が背後にいるということになりますね・・・」


「・・・エウクレイデスに手を貸した奴がいる」


あの件には、まだ続きがあったとアズラは怒りを覚えていく。

セトを苦しめ、リーベを狙った奴らの仲間がまだいると。

そんな怒りをあらわにしていくアズラに森羅は一言。


「アズラ、あなたの目的は騎士団統一戦です。それを忘れてはダメですよ」


「あ、はい・・・、すみません」


森羅の一言で我に返るアズラ。

だが、それでも気になる。誰が何のために、クリファを生み出す機械なんてものを渡したのか。

一歩間違えればクリファが大量に町に解き放たれてしまう代物だというのに。

グロテクスな血肉の怪物、クリファは魔獣と大差ない存在なのに。


二人の会話を聞いていたフローラはある確信を得ていた。

エウクレイデスの件には確実に帝国に所属していた何者かが手を貸していたと。

それがジグラットの神官か帝国の軍関係者かまでは分からないが、エウクレイデスたちを粛清に来たヴェヒターという神官の口ぶりは裏切り者を殺すと聞こえたのだ。

裏切り者とはエウクレイデスたちのことではない。彼らは、壊れてしまった駒だ。

裏切り者は駒を壊した人物。

それがまだどこかにいる。



----------



ある町の広場でギャーギャーと騒ぎながらあっちでもない。こっちでもないと困っている二人組がいた。

その二人組は、ローブを被り顔を隠しているが声と体格から少女であることが誰の目からでも分かる。

その少女の一人がいう。


「あーれ? カラグヴァナってどっち?」


参った。道に迷ったと首を捻る。


「もう、疲れたゾ! あっちは寝る」


もう一人は不貞腐れて広場のど真ん中で寝っ転がり出した。

ローブがはだけて、おへそが見えてしまっている。


「もーぉ! 寝っ転がらないで考えてよー」


「だからあっちは言ったゾ。乗合馬車に乗ろうって」


「だってー、みんなへんな目で見てくるしー」


「角があるから当たり前だゾ」


寝っ転がった方がもう知らんとプイッと背を向ける。

そんな二人のやり取りを見ていた商人が助けてやろうと声を掛けた。


「やぁ、お二人さんカラグヴァナに行きたいのかい?」


「そーだよ? おじさん行き方知ってるー?」


「ああもちろん。王都アプスでいいのかな」


「そう! そこに行きたいんだゾ」


商人は優しい顔をしながら答えていく。

困っているなら助けてあげる。それが彼の生き方だ。


「なら、お二人さん、うちの馬車に乗りなさい。丁度、王都近くの町まで商品を運ぶ予定だ」


「王都まで行ってくれるとうれしいゾ?」


「はは、すまないが用事があってね。代わりに知り合いに王都まで送ってもらうよう頼んでみよう」


「おじさんありがとー」


「ありがとうだゾ!」


優しい商人に二人組は元気にお礼をいう。

王都に行けると二人してハイタッチだ。

商人は二人を馬車に乗せて町を進んでいく。


「そういえば、お二人さんどうして王都に?」


「でっかい大会があるんだゾ。そこで皆殺しだゾ?」


「ダーメだよ。殺したら失格だよー」


「ほほぉ、騎士団統一戦に出るつもりかい。一般枠はとても厳しいと聞くよ」


商人は驚く。こんなに小さな少女たちが騎士団統一戦に出場しようとしていた。

騎士の称号でも狙っているのだろうか。とても戦えるように見えないが。

だが、その華奢な少女は笑いながら。


「あっちたちなら楽勝だゾ。なんたって最強の亜人だからね」


肌の白い黒髪の少女がエヘンと胸を張る。張る丘もないのだが。


「最強とは大きくでたね。これは優勝候補様を乗せてしまったかな?」


「おじさんいい人ー。亜人っていっても変わらないー」


商人の反応を見て、肌の黒い白髪の子が懐いてくる。

この少女は心を開いた人には、自分も心を開くようだ。


「おじさんはヒギエア出身だからね。亜人の知り合いも多いのさ」


そんな優しい商人にお世話になりながら二人組の旅は進んでいく。

騎士団統一戦に参加するために。

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