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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第一章 少女と黒い巨人
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プロローグ いつかの時代

太古の時代、まだこの世界に文明も生命もなかったころ

二柱の神が存在した


魂神と異神


魂神はたゆたう、無の世界の静寂

異神は荒くるう、有の世界の激動


二柱は互いが理解できなかった

二柱は違っていた


二柱の神が出会った


異神は、自身が存在すると魂神に示そうとした。魂神は静寂で返した

異神は示した、されど魂神は静寂で返した

異神は悲しんだ、魂神は静寂で返した

異神は激怒した、魂神は静寂で返した


異神は教えた、これが出会いであると。魂神は学んだ、悲しみと怒りを

異神は歓喜した、魂神は学んだ、喜びを感情を


二柱の神が言葉を交わした


魂神は初めてみた美しい空と海を

魂神は初めてみた逞しい大地を


魂神は知りたかった、異神のすべてを

異神は教えた、自身の知るすべてを


魂神は理解できなかった生と死を

異神は答えた、逃れられぬ運命だと


魂神は生と死から異神を救おうと考えた

異神は魂神に恐怖した


二柱が救済のため、拒絶のために子を産み落とした


異神は恐怖する、生と死を持たぬ魂神とその子らを

魂神は誓う、異神とその子らを助けると


異神は拒絶した魂神の救済を

魂神は悲しんだ、されどこの出会いに感謝した


異神は去り、魂神は眠りについた

二柱の子たちだけが残った


そして、幾千の時が流れた

+++++++++++++++++++++++++++ツァラトゥストラ教神話 創世記


----------


・・・・・・、

・・・夢?

夢を見てるようだと、おぼろげに少女は思う。

意識のまどろみに身を委ねながら、夢の物語を見ている。

・・・広い、広い湖が見える。

大地よりも広そうだ。

空を見てみると少し暗くなっていて、日が沈んできている。

夢の中でも夜になるのだろうか?

夢の中でも寝てしまうのだろうか?

少女はそんな不安を抱えながら、眠る前に夢を見てしまおうと考え。

もう寝ているのに、眠るとはどういうことだと苦笑する。


夢の世界を見渡してみる。

広い乾いた大地と大地より大きい湖、空には変わった形の月が二つ浮かんでいた。

湖の上には、大きな島が浮かんでいる、島の周りが小さい赤い光で包まれていた。


(何だろう)

(お祭りかな?)


近くに寄ってみる、空を飛ぶように、鳥のように近づいてみる。

夢の中だからだろうか、浮遊している感覚はなく、映像を見るような感じで島が近くなる。

島が近くなってくる、その輪郭がはっきりとなってきた。

左右に大きな山を抱え、島の中心が球体となっているようだ、。

島の中心に下りようとさらに近づく。


(!?)


島は少し不気味なところだった。

おおきな黒い虫が島の周りを囲んでいた。

小さい赤い光は黒い虫が出していたようだ。

黒い虫は、上半身は人の形をしているが足が四つある。

それは人と甲殻類を合わせたシルエットをしていた。

赤く光る一つ目をギョロギョロと動かしている。

お腹が大きく膨らんだ虫もいた。

こちらは腹から直接六本の手足が生えているような形だ。

ほかのより二周りほど大きい。

自分が赤い光になって消えてしまったり、

拳ぐらいの火の礫を体から出して島の周りを彩っていた。


虫だけでなく島も黒いようだ。

島に草花や家などは見当たらない、黒い岩の塊が続いている。

岩はとてもツルツルしていて、島はすべて岩でできている。

冒険心をくすぐられ少女は黒い岩の島を歩いて回ろうと考えた。


少女は、外を歩き回るのが好きだ。

外にはいろんなものがある、新しい発見がある。

川の水は冷たくて心地よくて、木に上れば普段見えない世界が見える。

夢の中でも、いろんな発見があるはずだと、不気味さなど忘れて息巻いていた。


一時間くらい歩いただろうか。

夢の中だからか時間の流れが分からない。

やがて、細長い岩の森を抜けると島の中央に白い光が見えた。

目を凝らすと一人の人が見える、周りに、大きな神々しく光る獣たちが4匹いた。

全身が白い者、黒い者、灰色に染まっているのもいる、最後のヤツは4色でカラフルだった。

それぞれが特徴的な姿をしており、

全身が白い獣は、4匹の中で一番神々しく作り物のような四角て長い腕をして、

リング状の物を背負っている。

黒い獣は、頭から鳥の羽を生やし、女性的な雰囲気をしている。

灰色に染まっているのは、頭に鹿のような角をつけている、

毛はないようで全身の筋肉が鎧のように見える。

カラフルなヤツは、二つに割れた大きな甲羅の中に太い手足を折りたたんで収まっていた。


近づいて耳を澄ましてみる。

女の人が、4匹の神々しい獣たちと何かを話している。

女の人が何か訴えかけていた。


(・・・喧嘩しているのかな? 仲良くしないと・・・)


女の人は、白い布を体に巻きつけ、ローブを纏うように固定している。

首と額には刺繍の入った金属器を飾り、腰まである透き通った赤い髪をなびかせ、

青い目の瞳をしていた。

聖女といった象徴となるような顔立ちではなく、

母のような優しさに溢れる顔立ちをしている。

少女は自分の髪の色と同じだと少し嬉しくなる。

年齢は、少女より10歳は上だろうか、きれいなお姉さんといった感じだ。

女の人が必死に訴えている。

少女は女の人を応援したくなってきた、それだけ思いのこもった雰囲気が感じられた。

しかし、神々しい獣たちは首を横に振る。

大きな体に隠れていた神々しい獣たちの顔が見える。


(きゃっ!!)


人の顔がついていた。

たくさんついているヤツもいれば、首から上はのっぺらぼうのヤツもいた。

少女は驚きのあまり声を出してしまう。あわてて手で口をふさぐ、

・・・よかった夢の中だった。

少女は耳を澄まし話の続きを聞いていく。


どうやらこの大きな黒い島を壊すかどうかで揉めているようだ。

話によると黒い虫たちの巣だとか。

壊したら虫さんが困ってしまうと少女が思っていると、虫たちが騒ぎ始める。

やめろと言っているように、少女には聞こえた。

女の人がやめるように訴える。

ちょっと怖い獣たちは必要だと口ぐちに口を開いた。

女の人の気持ちが分かる。

そう思った少女は助けようと女の人に近づく。


細長い岩の森から物音が聞こえた。

細長い岩の森から知らない男の人が出てきた。

男の髪は雪のように白くだけど少し灰がかかったような色をしている。

髪型はあまり気にしないのか耳が完全に隠れるほど伸びていた。

動物の皮でできた胸当てを肩から巻きつけ、右手に剣を握っていた。

剣闘士のような格好といったところだ。


男は右肩に怪我をしていた。肩で息をし、どうにかここまで辿り着いたみたいだ。

少女は男を心配し駆け寄った。

少女は男を知っているような気がする。

何故かは分からない、だけど知っていると心が叫んでいた。


(大丈夫? 痛くない? あ・・・)


声をかけるも男は女の人のところに行ってしまう。

男がちょっと怖い獣たちに剣を向けた。

力強い声でやめるよう説得する。

譲るつもりはないようだ。


獣たちは笑った、嘲笑った。男の目が険しくなる。

場の雰囲気が変わる、敵意が溢れてくるのが分かる。

獣たちは貴様とは話す必要はないと態度で示している。


説得が失敗したとみると、虫たちが神々しい獣たちを襲おうと動き始める。

巣を突かれた蜂のような光景が広がる。

神々しい獣たちを包囲し赤い目から敵意をぶつける。

静寂が辺りをつつむ。

だが一瞬だった。

虫たちの一匹が合図を出すと一斉に攻撃が始まった。

火の礫が、煙を吐きながら飛ぶ筒が獣たちを捕らえる。

徹底的に叩き潰すように、凄まじい爆発と炎が吹き荒れた。

少女は、怯みながらも爆発の中心を見る、

爆炎の中、神々しい獣たちは無傷で立っていた。

その顔に、獲物を嬲ろうとする強者の笑みを浮かべながら・・・。


そこには、最初に見た神々しさはなかった。

猟奇的な殺人鬼と同じ殺すことを楽しむ姿がそこに在った。

手で引き裂き、

牙で噛み砕く、

暴力という名の蹂躙が広がる。

獣たちは嘲笑いながら、空に浮かび禍々しい白い光を生み出す。

無駄だと言いたげに力を見せびらかしていく。

黒い虫たちが白い光に飲み込まれていく。

敵意が恐怖に上書きされ、

黒い虫たちは逃げ出そうとするが次々と動かなくなっていった。

女の人が涙を流していた。

これ以上殺したくないと手を伸ばし、獣たちを止めようとしている。

少女は動けないでいた、目を離せないでいた。


ザンッ!!


空を切る音と共に、一匹の獣の首が落ちた。

何が起きたのか分からない。

しかし、黒と白の世界に赤が追加されていく。


一際大きい黒い虫がいた。

いや虫というより黒い巨人といった方が正しいだろう。

身長は5mはあるだろうか、骨に甲冑を貼り付けたような外観で、

黒い体に赤いラインが奔っている。肩幅が広く男性の体格をイメージする。

背中には長い突起が左右対称に生えていた。


右手に黒いドロドロとしたモヤがかかっている。

白を塗りつぶすように黒と赤だけの世界にするように、落ちた獣の首を掴み握りつぶす。

首が落ちた4色の割れた甲羅の獣が声なき怒りの声を発した。

少女は恐怖で動けなかった。

そうだこれは夢だ早く覚めろと頭を叩く。


獣たちが黒い巨人を敵と判断する。

獲物ではなく敵、自身の絶対優位を揺るがす存在。

それを許すわけにはいかない。

獣たちが一斉に黒い巨人に襲い掛かる。


ドゴォォッと、凄まじい爆風が吹き荒れる。

足から衝撃と振動が伝わってくる。

人智を超えた二つの力がぶつかる。


倒れた黒い虫たちが一斉に転がり始め、島から零れ落ちていく。

島が傾く、命を失うように、弱っていく。

衝撃で島がひび割れ、炎を吹き出している。

男が女の人を庇っているのが見えた。

少女は爆風に吹き飛ばされ、下に落ちていく。

少女は目をぎゅっと瞑り夢が覚めるのを祈る。


音も、感覚も、遠くなっていく。


・・・・・・、

・・・・・、

・・・、


ふと目を開けると少女は荒野に立っていた。

少女はあたりを見渡す。

砂煙でよく見えないが、先ほどいた黒い島ではないようだ。

隠し切れない恐怖を誤魔化すように少女は胸に手を当てる。

もう怖い夢でないようにと願いながら、恐る恐る足を踏み出してみる。


グシャ。


足に何か踏んだようだ。

足をどけてみると、赤黒くゴムのような感触をしている五つの突起がついたものが落ちていた。

はじめて見るものだが、違和感を感じる。いつもよく見ていたような?

使っていたような?


少女はそれを眺めた。

眺めてしまった。


・・・手だ。

これは手だ。

千切れた手が転がっている。

よく見ると一面、人の屍で埋め尽くされていた。

人だけじゃない黒い虫も大量に転がっている。

鼻を突く肉の焦げた臭いをリアルに感じ取れた。


(ッッッッ~~~!!)


頭の中をドス黒い何かが塗りつぶしていく。

記憶に焼け死んだ人と砕かれた人肉の光景がすり込まれていく。

少女の意識が遠のく。

夢が薄れて現実に引っ張られる感覚、暗闇に意識が沈む。


・・・、

・・・・・、

・・・・・・、


木漏れ日が頬をなでる。少し肌寒い感覚が全身を包む。

少女が目を覚ます。

体に力を入れていく。

目には涙を浮かべでいた。


(二人はどうなったんだろう・・・)


夢の結末が気になる。

すごく怖い夢だったと思うと少女は夢を振り返る。

もう夢を忘れてきている、子供だった頃の記憶が薄れるように、思い出せない。

すごく大事な夢だったんだと少女は思いつつ、赤い髪を揺らしながら頭を上げる。


少女は木の根元で寝ていたようだ。空は木の葉に隠れてあまり見えない。

周りを見ても木と草花しかない、見覚えのない場所だ。

起きたら自分の知らない所とは、おかしなことだと少女は思う。


少し歩いて辺りの様子を調べようとする。

足の裏に冷たい感触と木の根の硬さが伝わってくる。

・・・裸足だ。

服は白いワンピースのようなものを着ている、これしか着ていない。

無理やり仕立てた感じだ。


辺りには誰もいない、近くに人は居なさそうだ。

ここは森だろうかと少女は思う。

何故こんな所にいるのか思い出せない。

思い出そうとしても頭に浮かぶのは、ぼやけた夢の光景だけだ。

そもそも、夢のこと以外を思い出せない。

場所も、家も、家族も。

自分の名前も・・・。


少女が頭を抱えていると、森が騒がしくなってきた。

鳥たちが慌てて飛び立っている。

木の枝が揺れ、何かが近づいてくるのが分かる。


少女は様子をうかがう、胸に手を当て落ち着くように努める。

怖いのが来ないようにと祈る。

森の奥から強い風が吹く、風は少女を通り抜けていく。


風が止んだ、森が静かになる、少女は警戒するが何もいないようだ。

日が落ちたのだろうか辺りが暗くなる。

いや違う! いる、それは、森の中ではなく森の上を飛んできた。

漆黒の脚を地面に下ろし、少女を見下ろしてくる。

身長は5mはあるだろうか、骨に甲冑を貼り付けたような外観で、

黒い体に赤いラインが奔っている。


少女は目を見開く。

少女は知っている、この巨人を知っている。

黒い巨人は、何も語らず、少女に手を伸ばす。

大きな手で少女を掴もうとする。


少女は、巨人の手から逃れようと身を翻し走り出す。

少女は恐怖に怯えていた、あの怖い夢の続きが始まるのではないかと。


そう、続きが始まる。

二柱の神がいなくなった世界で、救済と拒絶の意味も忘れて、

二柱の神の子たちの物語の続きが始まる。

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