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式神使いのVRMMO漫遊記  作者: ナイアル
序章:チュート(はんぱに)リアル
2/19

2.非公式チュートリアル

「いやあ、怒られた怒られた」

 まだ痛みの残る頭をさすりながら、陰陽師の初期スタート地点である陰陽寮の廊下を歩く。

 僕たちの頭の上に雷(物理)を降らせたおっさんは、なんとこの陰陽寮のトップ、陰陽頭だったらしい。

 いやはや、とんでもない人に目をつけられてしまった……いやまあ、所詮はNPCだから、次会った時にはリセットされてたり……してるといいなあ。

「当然でありましょう。厳粛たるべき陰陽寮の秘室であのような狼藉を働けば、破門にならなんだのが不思議というもの」

 眉間をもみながらはあっとため息をつくその姿すら様になる、我が式神というか狐娘・クレハ。結構本気で怒ってるらしく、しっぽの毛が逆立っているのがまたモフ感を強調して素晴らしい。

「うん、このゲーム始めて良かった!」

 ありがとう、懸賞に応募した半年前の自分!ありがとう!当選させてくれた運命の神様!

「主様!」

「あー、うん。でもね、あれはクレハもいけないと思うんだよ。こんな素晴らしいケモ耳&しっぽ……傾城とまで呼ばれるのは伊達じゃないね」

「それは女性の魅力としての話で……はあ、いえもう言うても詮無きこととは骨身に沁みました」

「わかればいいんだ、わかれば」

「ううっ、なぜ妾の主殿はこんな……」

 があっくり、と肩と耳と尻尾を落として嘆く姿も実にかわいい。ごはんのお預けを食らった大型犬を見ているみたいだ。

 うん、あとでもう一回もふろう。

 僕の心の声を察知したのか、しっぽが一瞬ピクリと揺れた。



「やあやあそこ行く少年……少女?いや、衣装が男物だし少年だよね?」

 唐突に掛けられた声に振り返ると、楼門の陰に座っている女の人がひらひらと手を振っていた。

「……少年です」

「おっと、気を悪くしちゃった?ごめんね……んっと、初心者だよね?式神使い?」

 へらへら笑いを浮かべる姿には、謝罪の意思が微塵も感じられない。そりゃまあ気にしてないけどね?気にしてなんかないけどさ。

「ええ、まあ。そちらも?」

 彼女の背後にたたずんでいた女性がぺこりと頭を下げる。

 すらりと背の高い体に、人間離れした水色の髪に、同じく水色の三角模様の着物をまとった美女……と思いきや、妙に光る襟巻だなと思っていたのが、真珠色の鱗に包まれた彼女自身のしっぽだったりする。

「式神使いのハルナです、今後ともよろしくう!」

 右手を挙げてすちゃっと敬礼するハルナさんは、ミニ丈の袴に藤色の水干という妙な服装。頭につけてるのは烏帽子じゃなくて八角形の……たしか兜巾とかいうんだっけ?山伏が頭にのっけてるあれだ。そんな奇抜な恰好と快活な態度が栗色のショートヘアには妙に似合ってはいるんだけれど。

「青紋蛇のミヅハと申します」

 着物美人さんは案の定式神だったようで。

「あ、どうも。今日始めたばかりのトーヤと言います」

「狐精のクレハと申します」

 そろってぺこぺことお辞儀してみたり。うん、人間関係の始まりはまず挨拶からだよね。


「で、あの……ハルナさんはここで一体何を?」

 ぐるりと見回してもほかに人影はなし。

 威圧的なほどに大きな建物なだけに、がらーんとした空気が実に物悲しい。

「うむ、君のような迷える新米式神使い君に先輩として道を示してあげようかと!」

「ちなみに、何人目か聞いてもいいですか?」

「……まあこの一週間待ちぼうけだったわけだけどね!」

 はっはっは、と大笑いするハルナさんの態度がうそ寒い。ミヅハさんは気まずそうに視線そらしたりするし。

「式神使いって人気ないんですか?」

「こ、このところは新人君自体が少ないし!」

 そりゃ微妙なセールスのMMORPGを、一年も経ってから始めようなんて物好きはそうそういたもんじゃないよね。

「それにしたって一週間ぶりっていうのは……」

「うーん、後衛職だけに、今更選択する人って前衛のあてがある人とか……ぶっちゃけ誰かのセカンドってのが多いんだよね。……まあ、その中でも式神使いは『レアポップ』とか言われてたりするけど」

「……人気ないんですか?」

 やばい、もしかして不人気職引いちゃったかなとちょっと焦る。もふの魅力を体感した以上、他の職を選ぶ気にはなれないけども。

「いやあ、弱くはないよ?自分の成長自体は結構すぐ頭打ちになるけど、式神と組んでこその強さだしね」

「……いえ、ですから人気の」

 人気の有無っていうのは強い弱いだけじゃない。パーティを組んだ時の安定度とか効率とか、そういうのも響いてくるんだってくらいは僕だって知ってる。

 弱くないならつまりそういう……パーティに不利益をもたらす形の何かがあるんじゃないかと。

「不人気とか地雷って言うなら弓術師とかのほうが泣かせるレベルだし、そこまで偏ってもいないはずだけど……うんまあ、少年もしばらくしたらわかるよ」

 にひひ、と笑うのがむしろ不安で仕方ないんですが!

「しっかし、狐精かー。揃って後衛向けってのは結構序盤きつくない?最初は火行オンリーになっちゃうし」

「え?ダメなんですか?」

 ぴくりとクレハの肩が震える。予想外のところから攻撃を受けちゃった気分だ。

「んー、後衛寄りのバランスタイプって位置づけだから、クレハちゃんを前に出してもいいんだけど。できれば早めに前衛の盾役はほしいとこかもねえ。京の周辺に水行の敵が多いのもあって、最初は土蜘蛛を選ぶのが安定ではあるかな」 

「蜘蛛ですか……」

 うーん、モフれないのはさすがにちょっと。

 あれ?

「水に対抗するのに土? 水の反対は火じゃないんですか?」

「おおっとお、そこからかあ」

 首をかしげた僕に、ハルナさんが額をおさえた。



「んじゃまあ、相克からかな。君たちの使える火行は、金行に強い。」

「……金属が属性なんですか?」

「もっと広い概念だけどねー、まあ大体そういう認識でいいか。で、金行は木行に、木行は土行に、土行は水行に、そして水行は火行に強い……と」

 門横の地面に座り込み、どこからか出した木の棒で「火>金>木>土>水」と円を描くようにガリガリと図を描いて説明してくれるハルナさん。水と火の間を「水>火」とつなげて円が閉じた。

 じゃんけんの三すくみに似てるけど、数が五つと多い。っていうか、木とか金を「属性」っていうのはぴんと来ないなあ。

「火行の狐精など、水行の私の敵ではないということです」

 ふふんと鼻で笑ったミヅハさんを、クレハが悔しそうににらみつける。

「くっ、そのような起伏に乏しい口縄風情が何を偉そうに」

「あら?この滑らかな肌のほうがよほど魅力的ですよ?」

 クレハがたゆんと胸を揺らせば、ミヅハさんが自分の腕をなでさする。

 主を無視して式神同士の間で戦いが勃発しそうな一触即発の空気が漂いだした。

「ミヅハ!」

「はい、ご主人様」

 そんな空気を吹き払うほどの迫力を秘めたハルナさんの呼びかけに、ミヅハさんがびくんと飛び上がって居住まいを正す。

 僕とクレハまで一瞬凍りついたりして……なんだかうやむやになった。

「……ま、相克にあるとどうしても仲が悪かったりするわけ」

 そーゆーもんなんだろうか、なんかもっとめんどくさい何かが漂ってたような気もするんだけど……うん、胸とか関係ないよね。

「ミヅハさんは水行なんですか」

「ほんとは蛇は木行のはずなんだけどねー。そのあたりは結構いい加減ってえか、使う術ありきで変わってるみたいね」

「ああ、青紋蛇だけに」

「……ん?」

 あれ?またなんか間違えた?確かそんな種族名だったよね?

「うーん、まあ、青はちょっと微妙なんだけどねー。五行の色――五色では『あお』、蒼はこっち。木行なのよ」

 地面に書いた「木」のわきに、「蒼」と書く。

 そのまま引き続いて他の色も。

 金――白。

 火――赤。

 水――黒。

 土――黄。

「……こ、これはわかんないですよ!」

「古語の『あお』は、緑のことなのよね。ほら、『あおあおと生い茂った草』とか言うでしょ?」

「そう言われればそうですけど」

「ま、最初は相克関係だけ意識してればいいと思うわよ。負ける属性でも無効にまでなるのは稀だし」

「はあ」

「んで、初期はあなたたちはどっちも火行だから、金行に強くて――」

「水行に弱い、と」

 問題は、何が水行のモンスターだかわかったもんじゃないところなんだけどね!

「平たく言えば、ある程度の実力がつくまではなるべく水辺に近寄るなってことで」

「いやちょっと待ってください。かなり無理難題ですよね、それ?」

 スタート地点の京の町、現実のそれをそこはかとなく模したそれは、東西を川に挟まれている。

 東の川は北と北東から流れてきたのが一本に合流、南の平野で西の川と合流して一本になって……うん、わかりやすく言うとあれだ。

「山ん中って印象の割に、ぐるりを川で囲まれちゃってんだよね、京の町ってさ」

「……ですよねー」

 うん、「火行オンリーはきついよ」って話が今骨身にしみました。

 なんでこんなに水場だらけのところに都なんか作ったんだよ……恨むぞ、昔の人。




「しかし、人を見かけないねえ」

「……裏口からこそこそ出るのに、人を見かけるはずもありますまいて」

「いや別にこそこそ出ていこうとしてるわけじゃないんだけど」

 ハルナさんがお勧めしてくれた初期狩場は京の北西、今だと五山の送り火で舟形がともるあたりってことになるんだろうか。

 陰陽寮がある内裏から裏口通って外に出て、一条大路とは名ばかりのさびれた通りを越えたところにある小さな門をくぐればすぐそこ。

 たしかに近い、近いのはいいんだけど。

 門を守る屈強の武士さんたち以外、PCどころかNPCのモブの影すらないさびれっぷりは、ここが本当に当時の日本の中心地なのかと疑いたくもなるくらい。

 南側、朱雀大路の方へ出て、羅生門に向かえばもうちょっとは賑わいもあるんだろうけど……もしそこもこんな感じに寂れてたらショックで立ち直れないかもしれない。

 ま、微妙な売り上げのまま一年経過したMMOの初期町なんて、どこもこんなもんといえばこんなもんか。

 むしろハルナさんに出くわしたことのほうが奇跡に近いんだよね。


 ……ていうか。


「彼女がなんであんなとこに一人でいたのかなとか考えると、だんだん怖くなってくるんだけど」

「……き、気になさらぬほうがよろしいかと!」

「そ、そうだよね!気にするようなことは何もないよね!?」

 実は彼女がぼっ……とか、やっぱり式神使いってふぐ……とか、恐ろしいワードが脳内に浮かびかけるのを全力でシャットアウトする。

 ミヅハさんを後ろに従えて、バイバイと元気に手を振る姿が、背後のでっかい陰陽寮の建物との対比もあって何とも物悲しい感じだったのも多分気のせい!

 考えちゃだめだ考えちゃだめだ……

 

「よし、切り替え完了!中断しちゃったチュートリアルの続きからやっていこうか!」

「切り替えに四半刻ほどかかったのは……」

「この際不問で!」

 いちいち悩んでても始まらないしね!もう一生分悩んじゃったような気もするけど!

「と、とりあえずはクレハの能力の確認から、かな」

「御意」

 クレハが小さく頭を下げて居住まいを正すと、僕の目の前にステータスがポップアップする。

>名前:紅葉

>職業:式神/狐精

>技能:妖術/狐精・序-火行術・壱

「あ、相変わらずステータス情報が少な過ぎると思うんだ」

 よくある筋力とか耐久度とかの数値表示どころか、HPやMPの表示もないとか、どうやって管理しろっていうんだろうか。

 しまったなあ、ハルナさんにその辺も確認しておくんだった。今更戻って質問して「え?そんなことも知らなかったの?」とか言われたら、立ち直れない気がする。

 ……ひとまずいろいろ試してから考えるとしよう。

 とりあえず、表示されてる部分で気になるのは、「火行術・壱」の親スキルが「妖術/狐精・序」となっていて、僕の「陰陽術・序」とは違っていること。

 確認するため、タップしてみる。

>習得技術:〈狐火〉

 なるほど、親スキルが違えば覚える技術も変わるってことかな。

「この、〈狐火〉っていうのはどういう技?」

「お見せいたしましょうか?」

「うん、お願い」

 クレハがフィールドのそこここををうごうご蠢く芋虫――最初のチュートリアルで倒したあれによく似ている――にくるりと向き直り、右手を差し伸べる。

 呪文もなにもなし、手のひらの上の空気がゆらりとゆがんだかと思うと、ぽっと小さな灯がともった。

「――〈狐火〉」

 炎は、〈火箭〉とは全く違うゆっくりとした速さで手近な芋虫にゆらゆらと近づいてゆく。

 接触した、と思った次の瞬間。

「ぎゅいいいいい!」

「……うっわ、グロっ」

 芋虫に火が付いた。いや、ついたというよりも〈狐火〉の炎がまとわりついたままになってる。

 芋虫の体表からぶすぶすと煙が上がり、体中に焦げたような跡が広がっていく。

「ぎゅうう、ぎゅううう!」

 苦しそうにのたうちながら、どうやってか自分を苦しめている炎の出所を察したらしく、燃える姿のままずりずりと這いずってくる芋虫。

 しかし、さすがに体力の限界が来たのか、道程の半分程度まで進んだところで

「きゅう」

 かすれた声とともに砕け散った。

>1文を手に入れた。

 ちゃりーんという、やけに軽い金属音とともにドロップ入手のシステムメッセージ。

 さっきまで芋虫がのたうち回ってたような跡はどこにもなくなっていた。

「いかがでございましょう?」

 こちらを振り返ったクレハはすまし顔、でもぴくぴくしている耳としっぽが「どや?」と得意げな内面を全く隠せていない。

「う、うん。すごかったよ」

 すごかった……しばらく夢に出てきてうなされそうなほどには。

「それは重畳」

 目を細めて袖で口元を隠すしぐさは余裕ぶってるけど、しっぽは風でも起こせそうなほどにわっさわっさ振れている。

 ああ、モフりたい。思う存分モフって癒されたい……。



「〈火箭〉との違いは一定時間持続ダメージ、っていうところかな」

 モフり過ぎて毛羽立った尻尾を手ですいてやりながら、〈狐火〉の効果について考える。今度ブラッシング用の櫛を買おう。

 時折ぴくぴくと震えるクレハの背中に流れる柔らかそうな髪の毛を手に絡める。ふわりといい香りが漂うのは、何か香水でもつけているのか……手触りといい、匂いといい、低予算なのにもかかわらずこのクオリティ、VRって本当にすごい。

「となると、次は威力の確認、かなあ」

 立ち上がって、袴についた土ぼこりを払う……草原に座ってる感触が自然すぎたから無意識にそういう仕草をしちゃったけど、少しも汚れてなかったって事実が、改めてゲームだってことを思い出させた。

 慌てて立ち上がろうとしたクレハを手で押しとどめる――裾を払うふりしてしっぽを隠そうとしたのは見逃さない。大きすぎてまったく隠せてないけど。

「まずこっちの威力を試すから――〈火箭〉」

 手近な芋虫に〈火箭〉を飛ばす。呪文はなし。

 ハルナさんに教えてもらって、デフォルトの呪文――このゲームだと口訣って言うらしい――詠唱をオフにした。これからも羞恥プレイとか死んじゃいそうだから、これは本当に助かった。

 口訣を唱えないからと言って発動までの時間が短縮できるわけでもなく、技能選択経由じゃなく早口で唱えたりして短縮を狙えるから詠唱オンのほうがお得らしいんだけど……なんか上位の術はさらにアレ度が増すとか聞いては速攻でオフにせざるを得ない。


「ぎゅいいい!」

 勢いよく突き刺さった炎の矢は芋虫をうがった穴ごとすぐに消え去って、残るはこちらへすごい勢いで這いずってくる芋虫のみ。

 チュートリアルの敵と違って、〈火箭〉一発じゃ死なないようだ、

「もう一回、〈火箭〉!……ってうわっ!」

「主様!?」

 危ない危ない、危うくとびかかられる寸前だった。

 衝突寸前に二本目の矢に貫かれた芋虫は、さっきと同じ死亡エフェクトともに消え去り、

>1文を手に入れた。

 やっぱり愛想のないシステムメッセージだけが空しく表示される。


 それからしばらくは、使う順番を変えてみたりタイミングをずらしてみたりと実験実験、また実験。

 これが現実なら焼け焦げた芋虫が小山のごとく積みあがってるんじゃないかってくらいの殺戮を繰り返して、大体つかんだ。

 芋虫の体力は、おおよそ〈火箭〉二発分。威力か敵の体力に若干の振れ幅があるのか、たまに二発で死なないことがあるのでほぼぎりぎり二発とわかる。瀕死でのたうつ芋虫は、なまじ外傷が見当たらない分気持ち悪いんだけど。

 〈狐火〉は着弾時に〈火箭〉一発分くらいのダメージを与えた後、火が持続している間継続ダメージ。

 こっちがちょっとうらやましくなる攻撃力だけど、連発のできる〈火箭〉と違い、維持している間は次のが打てない模様。

 維持自体は任意で切れるから、継続ダメージをあきらめれば〈火箭〉みたいに使えなくはないけど。

 ……あれ?これって完全に上位互換じゃない?

 もしかしなくてもクレハのほうが強いんじゃあ……たまに討ち漏らした芋虫の突進を避ける動きなんかも、僕よりよっぽど洗練されてる感じがするし……うん、下手に怒らせたりしないよう、これからモフモフは少し控えることにしよう。 

「モフモフは一日一時間!」

「……できればなさらぬようご決断願いとうございますが」

 それは無理、こんなスベスベフワフワの手触りをあきらめるなんて不可能だよ。

「もう、言うたそばから主様は!」

 気が付いたら無意識のうちにしっぽに頬ずりしていたという……恐るべき狐の魔性の魅力!


 もう一つ確認できたのはMP――クレハは「呪力」と呼んでたけど、陰陽術と妖術でイコールのものなのかは微妙に不明――の限界。

 ほとんど気にせずパカパカと術を使ってると、突然どっと疲れが襲い掛かってきた。とても集中できそうにないほどふらつく。

 これがいわゆる「MP切れ」って表現なんだろう。もうちょっと段階的に教えてくれてもいいと思うんだけど、そこまでに乱射した〈火箭〉が50を軽く超えてることを考えると、大技を使わない限りはあまり気にしなくてもいいかもしれない。無理する気はないし。

 MPの回復はこうやってぼーっと座ってるしかないので、手持無沙汰に双方のステータスを確認したりしているんだけど。

「お互い火行・壱はもうちょっとで終わるか。そこまでは狩りを続けよう」

「少々飽きては参りましたが……ご随意に」

 熟練度がたまっているのはクレハ自身にもわかるのか、若干嬉しそうだ。

 どうやら最初にもらえる式神というのは、修行の一環として式神使いとともに経験を積むために契約を交わしているらしい。

 僕からしたらもう十分すぎるほど強いよね?と泣いて問い詰めたくなるけれど、はなっから人外レベルの人たちの強さの基準はやっぱり違うんだろう。

 こうしてほとんど作業同然のレベル上げと実験に文句も言わずに付き合ってくれてるだけでもありがたいんだけどね。

「その先はいかがなさいますか」

「取れるのは火行の弐か、他の五行の壱になるんだっけ……クレハが火行の弐、僕が土行の壱、かな」

「理由をうかがっても?」

「どうせ頭打ちになるなら僕のほうがいろいろ小技使って、クレハには一本伸ばしで火力を確保してもらうほうがいいかなってね」

「御意」

 平板な口調からだけでは納得したのか不満なのかわかんないな。ただ方針を確認しただけともとれるし。せめて尻尾の動きを見れば……って僕が抱きかかえてたらわかりませんよね!

 


 ともあれ方針さえ決まればやることは一つ、新たなスキルを身に着けるため再び焼き芋虫の山(ただしすぐ消える)を構築開始する僕たち。

>紅葉の「火行・壱」技能が習熟しました

>新しい技能:「火行・弐」

>透夜の「火行・壱」技能が習熟しました

>新しい技能:「土行・壱」

 続けざまに出たシステムメッセージに当初の予定通りのスキルを取って……

「まーそーなるよねー……」

 クレハが手を振ると、その軌道を示すようにぽんぽんぽん、と三つの火の玉が浮かぶ。

 〈狐火・連星〉。同時発動できるようになった〈狐火〉の上位術っぽいけど、単体の威力も上がった上に、複数にぶつけてよし、一体に集中砲火してもよしの柔軟さで、属性が変わっただけで変わり映えしない〈飛礫〉で石つぶてを投げつけてる僕との火力差はさらに広がった。

 うん、わかってた。わかってたんだけどね。

 ……これは先が思いやられるなあ。


「レア」ではなく「レアポップ」な理由はいずれ。


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