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式神使いのVRMMO漫遊記  作者: ナイアル
序章:チュート(はんぱに)リアル
1/19

1.キャラメイキングとチュートリアル(途中退場)

突発的に思いついちゃったネタ供養のVRMMOもの。

もはや何番煎じだというところには突っ込まないのがやさしさです

 VRマシンが世に出てもう四半世紀。

 最初はいろいろな大騒ぎとともにもてはやされたそれも、生まれた時から見慣れた僕たちにとっては当たり前の道具……とはいかず、普通はVRマシンとは名ばかりの3Dゴーグルとバイノーラルヘッドホンを組み合わせたヘッドセットで疑似体験するくらいが関の山。

 触感や体の動きまで再現できるフルダイブ型はゲームセンターなんかではちょくちょく見かけはするものの、家に買って揃えようなんて言うのはまだまだお金持ちか好事家のマニアくらい、って代物。

 だから、とあるフルダイブ対応MMORPGのPR企画にうっかり当選しちゃった僕がどれくらい舞い上がったかなんて……言うまでもない。


「さて、と」

 僕の部屋に不釣り合いな、妙に未来的なデザインのVRマシンを設置しにきた業者の人を見送るのもそこそこに、さっそく横たわる。

 正直、今まで使ってた――長年連れ添っていた相棒だけど、このマシンと入れ違いにお払い箱になってしまった――パイプベッドよりも快適な寝心地に、「ベッドとしてもお使いいただけます」という謎のうたい文句がハッタリじゃなかったことにあきれた。もしかして、このばかでっかい機械の値段の半分くらいはベッド代なんじゃないだろうか?

 取り出したヘッドセットは、頭半分をすっぽり覆う、ヘッドセットというよりはヘルメットに近い形で……やっぱり新製品の高級品は着け心地からして違う。

 ゲーセンでちょっと遊ぶのとは違い、自宅で長時間利用ともなればこういうところにも配慮が必要なのかとか、妙なことに感心しつつ、電源投入……寝入るときにも似たふわっとした感覚とともに、VR世界へとダイブする。


 ゲーム連動アイテムだからか、ホームメニューの環境背景はどこかの料亭を思わせる高級な内装の和室。

 座布団に座る僕の前にある漆塗りの文机に触れると起動アイコンが浮き上がって、そこだけが現実離れして――いやうん、この空間自体が現実のものじゃないんだけど――ちょっと面白かった。

 妙に見慣れたパソコン風のホロ画面――一応本当にパソコン代わりにも使えるけど――のほか、いくつかのプリインストールアプリと一緒に浮き上がってる怪しげな五芒星、こいつがこのVRマシンを送ってきたPR企画の大元になったMMORPG「戦国異伝オンライン」。

 日本の戦国時代に題材を採った、和風なVRMMO。

 VRMMOにはファンタジー世界を題材にした名作やら大作やらいわゆる「定番」の作品がそれなりの地位を占めている中、所詮テクスチャや雰囲気を和風にした程度で目新しさがあるわけもなく、下馬評通りの地味ーな、運営会社の広報いわく「順調に落ち着いた滑り出し」を記録して、一部のマニア以外の記憶からはすっかり忘れ去られかけたそいつが、運営開始一周年企画として――口さがない人たちいわく「一年よく生き残れたお祝い」として――最新の超高級VRマシンとともに一名様限定一年無料券までお付けしての大懸賞!を発表したのが……要するにここにあるわけだけど。


 正直、ネタとして応募しました、はい。

 当選発表を受けても半信半疑で、本当に搬入作業の問い合わせが来たときは「これでドラファン(某社の最新MMO)できる」とかぬかよろこびして……通常版とは二ケタ違うフルダイブ版のお値段に軽く絶望したりしました。


「……ま、礼儀だよね」

 というかもったいないというべきか。

 だってほかにプレイできるゲームないしね!

 我ながら実に失礼な理由と情けない表情とともに、「いい加減起動しろ」とばかりにくるくる回りだした五芒星を軽く弾く。



>ユーザー認証完了

>キャラクター名を入力してください


「……タイトル画面もなしとか!」

 ユーザー設定自体は接続に来た業者さんと済ましてるし、ネット接続のアカウントがそのままユーザー登録されてるのはわかる、わかるんだけど……なんの説明もなくキャラクター作成画面に飛ぶのはどうなんだ、おい。


>キャラクター名:タイトル画面もなし

>よろしいですか?

「いいわけないでしょ!」

 律儀なんだか融通が利かないんだかよくわからないシステムメッセージに怒鳴り返す僕の目の前には、身長よりもちょっと大きいくらいの姿見。

 その鏡面には怒鳴り顔の少年が映ってる……いやつまり僕なんだけど。

 パンツ一丁なのは、まだ職業とか設定してないからなのか。背丈も横幅もいろいろ足りてない、時々女の子と間違われたりもする華奢な体躯がいやになるほどリアルに再現されてる。

 もーちょっと背丈があればなあ……と思ったら、姿見の中の自分がにょっと伸びた。

 いや、同時に自分の視点も少し高くなった気がするから、これは本当に僕の体――アバター――が伸びたんだろう。

 これはいいや、と思ったのは一瞬。

 自分の体に触れてみようとしてすんごい違和感に気持ち悪くなった。

 竹馬とマジックハンド付けたまま動いてるみたいな、自分の体が自分のものじゃなくてなんか危ういバランスの上でふらふらしてるような感覚。

 あ、だめだこれ。

 思った次の瞬間にはしゅるしゅると元のサイズに。同時に違和感もウソみたいに治まる。

 身体感覚の変更を伴うVRアバターの変更は、すぐに適応できる人とできない人がいるっていうのはよく知られてるけど、僕はどうも適応できないタイプらしい。

 ゲームの中くらい高身長のイケメンで活躍する計画、ここに終了……うん、大きくなっても女顔のせいで「美人さん」になっただけだったとかそういうのが理由じゃないよ、ないんだからね?


>キャラクター名を入力してください


 ……はあ。外見がリアルそのままなら、名前変えるのもなんかめんどくさいや。

 うっかり知り合いに出会って「なにその名前、中二病?」とか笑われたら一生立ち直れなくなりそうだし。


「トーヤ、で」

 ……せめて漢字くらいはもじっておこうかな。

>キャラクター名:透夜

>よろしいですか?

「うんそれで」

 うなずくとともに、姿見の横にぽこっと和風な装飾がされたウィンドウが開く。

>名前:透夜

>職業: 

 これがステータスウィンドウになるんだろうか、そうすると次は職業?


>職業を選択してください

 案の定なメッセージとともに、目の前にリストが表示。 

 武芸者・神職・僧・陰陽師・忍者……なんというかもう勘違いジャパンな空気漂う職業名を指でなぞれば、姿見の中の僕の服装がころころ変わるのがちょっと面白い。

 黒い水干と烏帽子をつけた僕の姿の胡散臭さに苦笑しつつも「陰陽師」をタップすると、さらにサブメニュー。

「……副職業?」

>選択職:陰陽師の中からさらに特化したい分野を選択することが可能です。

 疑問の声に答えるように、説明と各副職業の説明がポップアップした。


 基本的には術=魔法でダメージを与える遠距離攻撃職、というのは職業名から想像した通り。中でも攻撃術に素直に特化する「五行師」、各種呪術=能力低下を与えるデバフをばらまく「呪禁師」、どれも平均的に使える「符術師」、そして――

「いわゆる、召喚士かな?」

 妖怪や霊と契約し、彼らを式神として使役する「式神使い」。

 明らかに他の副職業とは毛色の違うそいつを思わず選んじゃったのは、一時の気の迷い。

>職業:陰陽師 副職業:式神使い

>よろしいですか?

「はいはい」

 ……ま、チュートリアルでしっくりこなければまた選びなおせば……


>名前:透夜

>職業:陰陽師/式神使い Lv1

 ステータスウィンドウの変化を視界の端に捕えるのがやっとの刹那。

>それでは、戦国異伝の世界をお楽しみください

 システムメッセージとともに、僕の視界はホワイトアウトした。

「って、ステータス確認もないの!?」

 ……抗議の声に返事はなかったのである、まる。




・・・



『目を開けよ』

 どこからともなく、声が響いた。

 

 壁の見えない真っ暗な板の間、僕の目の前にぽつんとともる灯明の明かりだけが周囲をぽつんと照らす。


『前へ出よ』

 さらに声が。

 言われるままに一歩前へ。灯明に触れられそうな距離にまで近づく。


『火を消せ』

 ……うーん、と。これは要するに基礎動作のチュートリアルってことでいいんだろうか?

 消えろ消えろ、と念じてみる……消えるわけもなく。

 手でつまんで消す……のは熱そう、っていうか、手を近づけたら熱かった。おお、こんな感覚まであるとか、やっぱフルダイブはすごいなあ。

 息を吹きかけて消そうとしたら、灯明の皿に入ってた液体が生臭くて顔をしかめることになった。

 そういえば、こういう明かりは安い魚の油とか使ってたんだよね。猫又が油をなめる、なんてのはその辺が由来とか聞いた覚えが……って、ゲームの中でそんなこと思い出させてくれなくてもいいんだよ!

 顔があぶられて熱いのを我慢しつつ、ふっと息を吹きかける。

 灯心の炎は揺らめいたけど、それだけじゃさすがに消えるほどのことはなかった。

 代わりに、背後でぼっともう一つの炎が燃える音。


『次の炎のもとへ行け』

 ……いいの?


 振り返ると、少し離れたところに新たな灯明が点っていた。


『己の力を確認せよ』

 そこにたどり着くと次の指示。

 これはステータス画面を見ろ、ってことなのかな?

 意識を向ければ目の前にぽんとステータス画面が開く。

 ウィンドウの背景が和風な漆塗りテイストなのはいいけど、こうしてVRを意識させる画面でそういうデザインされても、変なだけだよなあ。


 名前、職業欄はキャラメイクで見た通り、装備欄にきらめく「なし」の羅列がちょっと悲しい。下に目を向ければ水干を着たままだから、これは装備というほどの効果を持たない、ってことかな。

 あと残るは技能欄、「陰陽術・序」と「式神使役・壱」、それぞれの名前の後ろにバーがあるのは、経験値か熟練度ってとこか。

 陰陽術・序のほうは、ツリー状になった下にもう一個「火行術・壱」とあって、同じくバーがある。

 えっと、「陰陽術」のサブ技能として「火行術」があるって認識でいいのかな。

 どのバーも真っ黒で、今はまだ微塵も経験値が入ってないのだけはわかるんだけど。

 あれこれ試してると、「火行術・壱」だけがタップに反応。

>習得技術:〈火箭〉

 さすがにこれはわかった、「火行術」の技として、これを覚えてるってことか。いわゆる初期スキル、ってやつだな。

「……で、これを確認させたってことは」


『戦え』

 ぼっぼっと、小さな円周を取り囲むように灯明が幾つも点り、その中央に置かれていたお札がぽんと煙を立てて、30cmほどの大きさの芋虫に変わった。

「やっぱりね」

 思考トリガでさっきのスキルを選択、と、

「『火行疾く依りて打て、〈火箭〉』」

 自分の口が勝手に呪文を唱え、手を突き出したと思ったら、炎の矢が飛び出して芋虫に当たる。

 〈火箭〉は「かせん」と読むらしい、うん、一つ賢くなったね!……ってこれは恥ずかしいぞ、おい!

 僕の煩悶とは無関係に、〈火箭〉の当たった芋虫は、ガラスみたいに砕けて消え去る。燃えたりしないのはゲームっぽい。正直芋虫が燃える様子とか見たくないからありがたいけれど。

 

『進め』

 いつの間に現れたのか、装飾のかけらもない襖がたんっと小気味よい音を立てて開くと、歩く間もなく周囲の景色は八畳敷きほどの和室に切り替わった。

 周囲の障子からは光が漏れて……って背後はふすまじゃなかったっけ? そもそも部屋に入る動作をした覚えがないんだけど。

 部屋の中央には、ホームメニューで見たような文机がぽつんと一つ。その上には赤青黒白黄の、五色の御札が一枚ずつ並べられていた。


『選べ』

「と、言われても……」

 何を選ばされるのか、選んだらどうなるのか、まったくもって指針がないんだけど!

 えっと、さっきのが陰陽術とその行使のチュートリアルだとすると、今回のは式神使役のチュートリアルってことになるので間違いないのかな?

 ということは、この五枚の御札は式神召喚のお札ってところで、初期召喚獣を選びなさいと言われてる……と、思おう。

 色はつまりいわゆる陰陽五行に対応してる……んじゃないかなあ?

 赤は火、青は水(作注:違います)、黄は多分土?……くらいしかわからない。


 ここは無難に赤選んでおくことにしよう、主人公っぽいし、自分も火行使えるわけだし……何より何もわかんないし。

 

 身をかがめて赤いお札を手に取る。

『名付けよ、それが契約なり』

>式神の名前を入力してください

 ……うんまあね、推測が当たってたのは素直にうれしいんだけどね。ここでシステムメッセージ出るとちょっと間抜けだよね?

 

 こう、連続して名前を考えろと言われても困るというか、いやそもそも赤い御札ってだけで名前を決めろと言われても困るんだけど。

 赤い、赤い、赤いのは……紅葉?

 紅葉じゃひねりが足りないような気もするけれど。

「クレハ、紅葉と書いてクレハで」

>式神の名前:紅葉

>よろしいですか?

 うなずく。なんだかどっと疲れた。



 僕の体から、何かが吸い出されるような気がしてお札を見ると、ぼっと火がついて燃え上がった。

「うわっとぉ!?」

 慌てて払い落としたそれは、地面に落ちる前に芋虫のときみたいな煙を吹き出して。

「妾は狐精。紅葉の名をいただき、これよりは主様の式としてお側ちこうお仕えしてまいります故、以後良しなに」

 深々と頭を下げる美人のお姉さんへと姿を変えた。


「……あの?」

 すらりと高い身長、腰は折れそうなほどくびれていて、その反動か、胸は巫女装束を改造したような和服の襟元から零れ落ちそうなほどに大きく、金綾の縫い取りのついた緋袴に隠されてなお、むっちりと大きなお尻が丸みを帯びたフォルムを主張する、ナイスバディ。

「も……」

「も?」

 僕の口から洩れた言葉に怪訝そうな表情を浮かべる顔は、人形のように整っていて、金の瞳の目のふちに刺された紅が色っぽさを増す。

 傾げた首に釣られるようにふわりと動いた淡い橙色の髪の毛の上には、ぴょこぴょこ動く狐の耳が。狐の耳が!

「もふ……」

 お尻の後ろでぱたんと揺れるのは、筆のような柔らかな膨らみを持つ、髪の色と同じく淡い橙の狐のしっぽ……しっぽっ!

「もふもふううう!」

「きゃあああ!?」


 さすが高級毛皮の一つに数えられるだけはあるこの滑らかな肌触り!つかもうとするとつるりと逃げる、だが、手の中を逃げるそのこすれる感触すら絶品!

「ぬ、主様!?そ、そこはあん!?」

 ぎゅっと抱きかかえればのたうちながら暴れる、もふふわっとしてぬいぐるみにも似た、しかし確かに生命を感じさせるぬくもりと動き!

「や、ちょ、ご、ご無体なっあっ!?」

 顔を押し付けて息を吸い込めば、獣臭くはない、おひさまの香りと何か花のようないい香りが鼻孔を満たす!

 


「実に良いもふもふでした」

「うう……あまりといえばあまりな……これが乳やら尻やらに向かうなら、わが身の魅力とまだしも納得も致しましょうものを」

「いやいや、尻尾も耳も実に魅力的だよ?」

「……ううっ」

 ほふうっと一息つく僕の足元に、しどけなくくずおれながら畳にのの字を書くクレハ。

 ぺにょんと力なく伏せられた耳と、すっかりつやを失って垂れ下がるしっぽが……これはこれで、うむ。

「ああ、よしよし」

「あ、あの、主様?……で、ですから、そうではなく」

 なだめるように頭を撫で……るふりをしてキツネ耳をさわさわと。くすぐったいのかぴくぴくと跳ね返そうとするその手触りがたまらん!


「おっほん!」

「うわっ!」

「ひゃっ!?」

 突如聞こえた咳払いに驚いて飛び上がって振り返れば、怒りで顔を真っ赤にして腕を組んでいる水干姿のおっさんが一人。

「お前ら、いい加減にせえよ?」

 声からするとさっきまでのチュートリアルの指示の主の背後に揺らめく炎におびえながら、ゲームとはいえ人間のこめかみに血管が浮くとか本当にあるんだなあ、なんて、場違いな感想を抱いたのでありました。


気が付くと主人公が重度のモフリストになっていました。

一応先々に必要なんで、仕方ないね


悪堕ちのほうをお待ちの方は……えっと、この後書きます。

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