第八話 魔女のぱーてぃ
サブタイトルは誤字ではありません
あの子をこっちで使っても何も問題ないはず……ですよね?
中庭の樹園の中にぽつりと佇む、白いの円テーブルに座った黒いゴシック&ロリータ衣装に身を包んだ少女、暁 小夜は脚を組み頬杖を突いた状態で現状整理を交えた上で今後、何をすべきかを考えていた。
静かに考え事が出来る場所はない?と老執事に聞き、提示された場所が此処だった。
剪定された樹木の枝は丁度良く陽光を遮り木洩れ日をもたらす。
静かに吹き抜ける風が心地よく、集中していなければ寝ていてもおかしくはない。
小鳥のさえずりを聞きながら小夜は思考に没頭する。
――私が今為すべき事は…?決まってる、元の世界に戻る事。
――私がそれを為す為に必要な事は?この世界の知識。
――その情報源は?あの老執事から引き出せるだけ引き出す。
――元の世界に戻る方法は?並行して探る。3000年前も同じって事は必ず何処かの文献に載ってる筈『勇者』のその後が。
「おーい、小夜ー」
思考の途中で遠くから自分の名前を呼ぶ声がした。
小夜はそれを無視して自問自答を続ける。
――戦力は?敵は勇者サマが殲滅するだろうから、素直に肖る。
――止む無く戦闘時は?十徳ナイフ、ドライバーで対抗できない場合なら奥の手を使うざるを得ない。
「小夜!おい、小夜!」
「何?」
声の主は近づいて小夜の肩を揺らす。
流石に呆れてきたのか、小夜は不機嫌に片目を開き、声の主――伊集院 隼人を睨む。
思考が邪魔された事もあるが、そんな事よりも後ろにいる数人の視線に気が付き不機嫌になったのだ。
昨日、諸見の間で最後に向けられていた様々な視線、それら全てをないまぜにした様な複雑で気味の悪い視線。
尤も、小夜はその視線に気付き、またその理由を知っているから不機嫌になるだけなのだが。
それと同時に、ああ、またなのね。と思う。
「あの部屋に行ってきたよ。うん、俺もあの文字はルーンだと思う……だけど解読までは無理だったよ」
「まぁ、そうでしょうね……それで、後ろの人たちは?」
「ああ、国王から推薦された仲間だよ。小夜の所にも手配してあるって聞いたけど?」
隼人と話をしている間もその視線は変わらず、むしろ強くなる一方だ。
そんな視線に嫌気が指す。
誤解を解こうにも相手にその気が更々なさそうなので無駄だ。
「…聞いてないけど、まぁいいわ。知ってると思うけど、『魔女』暁 小夜よ」
小夜は椅子からは立ち上がらずにそのまま自己紹介をする。
嫌気が指す気味の悪い視線を送る者にしっかりと見据えながら。
「ヴァルバトス・アッシュヒーだ。見ての通り獣人だが、忠はこの国にある」
「エリオール・セント・オルトラージュです。その節はどうも、今後ともよろしくお願いしますね。『魔女』さん?」
「クーリヒルト・アスガルン。王国の騎士だ」
腕組みをする薄い胸当てと腰巻をした黒豹の獣人ヴァルバトス・アッシュヒー
白い三角帽子を被り白い装束に身を包んだ《戦巫女》エリオール・セント・オルトラージュ
意味深な視線を小夜に送る白い甲冑を纏った女騎士クーリヒルト・アスガルン
この3人が隼人に仕える事となった従者だ。
小夜は流し目で全員を見る。
――少なくとも…獣人は強い。単純な力だけじゃなくて『武』が何たるかを完全に理解してる。国崎とまともにやり合えるぐらいじゃないかしら?烏賊巫女も、それなりに力を感じるし。騎士は…まぁ…誤解されてる以上、近寄らないが吉って事でしょう。
「そう。なら、私も従者を聞きに行くわ」
「うん。その方がいいと思う、大広間にエルナ王女様がいるから」
小夜は円テーブルから立ち上がると隼人の肩を軽く叩き脇を通り抜ける。
クーリヒルトが向ける視線など意にも介してない様子で樹園から出て行った。
その後ろ姿を見たクーリヒルトが小さく歯軋りをした事を今ここにいるメンバーは知らない。
「さすれば、ハヤト。一度、手合せ願いたいのだが…?」
「ええっ!?そ、それは無理です、ヴァルバトスさんと真剣勝負なんて」
「……拙僧では、貴殿の相手は務まらぬ、と申されるか?」
「あ、いや…そうじゃなくて…俺は『仲間』と戦いたくないんだ」
「ハヤト様。武人の世界では勝負を申し込まれたら受けて立つのが礼儀なのですよ」
「そ、そう言われても…」
「ふっふ…巫女殿は話が判るようだな。ハヤトよ。どうしても手合せする事はかなわぬだろうか?」
「………やっぱり、俺にはできません。特訓ならまだしも仲間と本気で戦うなんて、俺にはできない」
「どうしても、か。成程、意志が固いようだな」
「ああ、俺にとって、ヴァルバトスさんや、みんなは大切な人だから。例え、どんな理由があっても俺はみんなとは戦えない」
「そうか。そこまで言うのであれば、無理強いはしない」
「すみません。ヴァルバトスさん」
「いや、謝らずともよい。むしろ拙僧は感服致した。貴殿の仲間を想い遣る志にな。今後とも、よろしく頼むぞ。『勇者』ハヤト」
「ああ、こちらこそ、よろしく!勿論、エリオールもクーリヒルトも!」
† † †
「来たか。勇……ンン、『魔女』よ」
「ええ、こんな所まで呼び出して何の用かしら?」
大広間へ出た小夜を迎えたのは小夜とは正反対の純白のドレスを纏った麗しい女性――エルナ・フォン・バジール王女。
王国のトップに近い人物に会っても普段の口調で話す小夜。
双方の間に僅かに沈黙が訪れる。
「っふ、ふふ…ふふはははははははっ!……いや、確かに、こう相対し話をしてみれば…はは…お父様が気に入るのも判る。まさか、王族の者と話す時に畏縮すらせず、悪びれる様子もないと来たか…」
やがて、王女が笑い出す。静寂は掻き消され大広間に笑い声が木霊する。
「さぁ、此処に居る3人がお主の従者となる者だ」
「私には従者なんて必要ないわ」
「はっは…まぁそう言うな。3人ともマアトが選んだ者たちだ」
「マアト?」
「ん?なんだ、彼奴まだ名乗ってないのか…あれだ。お主がよく喋っておる執事の名だ。ではな。私は行くぞ」
それだけ言うと王女は奥の螺旋状の階段を上がって行く。
しばらく階段を上がる王女を睨んでいた小夜は舌打ちをすると大広間における数10本ある支柱のうち、一番近かった柱に背を預け腕組みをする。
そのまま、近づいてくる3人の従者を冷淡な表情で待つ。
正直な所、小夜はあの老執事を完全に信用している訳ではない。
そもそも『信用』と言う言葉とは無縁だった。ずっと自分だけを見てきたから。
協調性の欠片も持たない。だが、近づいてくる3人を見ているうちにある事に気付く。
3人とも自分が危惧していた事を打ち破る方法を持っている事に。
1人は、この世界の知識に。1人は、この世界の歴史に。1人は、今後の戦力に。
『ラグズ』のルーンによって常人の数倍まで高められた直感がそう告げていた。
「王国魔導院赤冠所属、ラミア・ネル・ヒィアンネです。よろしくお願いしますっ!」
「王国神祇官、ヴィンセント・クラインだ。よろしく頼む」
「王国剣闘士、シン・マクスウェル。以後、宜しく頼む」
「…知ってると思うけど、『魔女』暁 小夜よ。貴方達なら歓迎するわ、ようこそ『魔女』の仲間へ」
自然と口角が緩みを帯びるのを必死に抑え、不敵な笑みを浮かべて小夜は言い切った。
ヴァルバトスのような忠誠心溢れる方は大好きです
次話はそろそろ大嫌いな戦闘描写です
上手くなってるといいけどなぁ…
誤字、脱字など報告していただけるとうれしいです
それでは。