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第六話 庭園の性悪説

追記 8/7 サブタイトル追加

「全く!なんで小夜は何時も喧嘩腰なんだ!?」

「…貴方の警戒心がなさすぎなのよ」


王国の一室に招かれた暁 小夜と伊集院 隼人は口喧嘩にも似た今後の話し合いをしていた。


「見ず知らずの世界に来ていきなり勇者やれって言うのもおかしいと思う、だけど、いくらなんでも『烏賊巫女』はないよ!?」

「…そんな事より…貴女今幾つぐらい隠してる?」

「!……一応、常備しておけって言われた4種類は持ってるよ、小夜は?」

「8種。流石に常に全部持ってるわけにはいかないから」

「小夜はこれからどうするのさ?」

「貴方は勇者として活動したら?お似合いよ」


小夜は皮肉交じりにそう言うと、紅いベッドの上に身を投げ出した。

豪華で優美なそれは以外にも柔らかい。

仰向けになると、煌々と蒼い炎を燈しているシャンデリアが少し眩しく、右手で目元を覆う。


「俺はそうしたいよ…でも小夜を一人にするのは心配だから――」

「何時も言ってるけど、私の身の安全より、貴方は自分の安全を考えた方がいいわ」

「俺は――」


そういう意味で言ってるんじゃない…と言い掛けて止った。

何を言っても小夜は1人になりたがるだろうからと悟ったと言うのもある。

だが、少なくとも1人にはさせない方法を思いついたのだ。


「判った。俺は勇者になるよ、でも、その代わり小夜も付いてくるんだ。従者としてね」

「ッ!? 貴方、それ本気で言ってるの?」


こう言えば小夜は絶対に嫌がるだろうから、半信半疑の賭けだったがそれでも小夜には効果的だったわけで、上半身だけ起き上がらせると睨みつけ言う。


「ああ、それが嫌なら小夜も勇者になるんだ」

「……少し考えて来るわ。気になる事もあるし」


隼人は最後の一押しも兼て言ったつもりだったが、思いのほか小夜は早足で部屋を出て行った。






  †  †  †






部屋を出た小夜は巡回する衛兵の警備の隙を突き掻い潜るように自分たちが召喚された部屋を目指し走っていた。

足音を消しながら走る方法は習っている、たとえ部屋に厳重な鍵が施されていてもある程度ならピッキング法も会得している。そのための道具も常備してある。


また一人、衛兵の巡回を躱し走って行く小夜。

壁から突出した金の先端に掲げられた蒼い炎を燈す蝋燭が廊下を照らすがそれでも少し薄暗く、こんな道を走っていると、隼人と逢う前の自分に戻っていく感じがした。


何処までも薄暗く、自分が今何処に居るのか、自分は何処を向いているのか、自分は何処を目指しているのか、何もかも判らなくなったあの日――世界が『色』を亡くしたあの日――全てを失ったあの日――色褪せる事無く記憶に刻まれた『色』の最後――――気が付いたら小夜は庭園にいた。

見た事のない美しい花々が燦々と花を咲かせ、蛍のような淡い白光が辺りを漂っていた。

美しいはずの光景に小夜はおぞましさにも似た寒気を感じていた。

心臓は早鐘のように高なり、呼吸が荒くなっている。


おかしい。確かに自分はあの部屋に向かっていたはず。

なのに、どうして?私はこんな所に?


言いようのない疑惑と不安で胸が張り裂けそうになる。

しかし、足は止まらず、花々の間、舗装された通路を歩く。

先程まで消していたはずの足音が静かに鳴り響く。

天然の花のアーチを数回潜る。

奥に見える開けた場所へ足が進む。


白い華の円環の中央に『それ』はあった。

中央に白く十字が彫られた黒い棺だ。


手を伸ばして何なのかを確かめようとした――――――


「成りませんよ、『それ』に触れては」

「ッ!」


声が耳に届くと同時に反射で手を引込め、振り返ると同時に-ドライバーを取り出し声の主に向けていた。

声の主は燕尾服を着こなした老執事で両手を上げている。


「危険ですから、その物騒な物を仕舞って頂けますか?」


軽く舌打ちをするとドライバーをポケットに仕舞い疑問が生まれた。

先程まで感じていた感覚が何時の間にか消えている。

それにこの男は何時の間に背後に居たのだろうか?

小夜は手に滲んでいた汗をスカートで拭い聞く。


「この棺…何?」

「王家の栄光の象徴……とでも言うべきでしょうか?」

「……中身は?」

「私めが言えるべき事ではございません。さ、此処は些か冷えるでしょう。僭越ながらお部屋へ案内させて頂きましょう」

「……………判ったわ」






  †  †  †






「……1つ、聞いても宜しいでしょうか?」

「何?」


老執事と小夜は互いに無言で歩いていたが、その静寂を破って執事が声を出した。

それに対し、小夜は素っ気無く答える。


「サヨ様は本当にご自身に勇者の資格がないとお思いで?」


その問いに小夜は眉を吊り上げ、見るからに不機嫌な雰囲気を放つ。


「当り前よ」

「…私はこう思います。例え万人に疎まれようとも、蔑まれようとも、望まれなくとも、1人を救えば、その救われた者にとっては『勇者』では、と」

「愚問ね。人の根幹は『悪』なのよ。その上で行う『善』は、所詮『偽善』よ」

「つまり、サヨ様は『勇者』その物が『悪』だと」


部屋に着いた小夜は、ドアノブに手を掛け振り返る。

不機嫌な態度は何処かへ消え去ったようだ。


「ええ、貴方とはまた今度ゆっくり話したいわ」

「何時でもどうぞ。では、お休みなさいませ」


後ろ手でドアを閉めた小夜はベッドに座る。

シャンデリアに燈されていた蒼い炎は既に消え、大きい窓から、灰色の双月の月明かりが広がる。

不思議と頬が緩みを帯びる。

これまで話が合った人物はそう多くはない。

元々、人と仲良くなること自体少なかったし、最低限のコミュニケーションが取れていればいいと思っていた。

ふと、隣りのベッドに顔を向けると、呑気に寝ている隼人が居る。



こいつは…いつも私の傍に居るけど…本当に何がしたいのか判らない。


構ってくれなんて頼んだ覚えはないし、偶々、バイト先が同じで、ほぼ同期なだけであって、それ以外は周りの奴らと何ら変わりない。



腑抜けた寝顔を見てると段々と不機嫌になり、


「……やっぱり、私は貴方が嫌いよ」


と、虚空に向け、呟いた。


活動報告にも書きましたが、pixivで活動中のたいにぃ様に私の前作…と言ってもにじファンの方に投稿していた作品のオリジナルキャラのデザインを書いて頂きました。


前作を読んで下さった方も、そうでない方も、ぜひ!ご覧になってください!!




ps: リアルの方でも多少お付き合いのあるjojoさんの作品『目が覚めたら俺は外交官だった。』とコラボをする事になりました!詳しい事はまだ決め兼ねてますが、お互いの作品がある程度進んだらifストーリーを書く、と言う話です!!乞うご期待を!!

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