第五話 暁の美貌
サブタイ…付けてないんじゃなくて、後から数話ほど一気に付けようと考えていただけですよ!?
本当ですよ!?本当ですからね!?
ps,前話を読んでない方へ、今話からしばらくフォルたちは出て来ません、ご了承下さい。
追記 8/7 サブタイトル追加
中央に描かれた魔法陣とそれを取り囲むように置かれた蒼い光を放つ蝋燭が揺らめく王国の一室。
1人の巫女が錫杖を鳴らし呪文を唱えた。
魔法陣から薄らと光が滲み出し、やがて天高く光の柱が立った。
―――――――――
ところ変わり日本。
煌びやかなネオンが街を色取る中、一際薄暗い路地裏からセーラー服の少女が現れた。
その片手には十徳ナイフ、もう片手には+、-、2本のドライバーを携えている。
動きやすいように黒いレースのリボンで括ったロングポニーを揺らしながら歩く少女。
革製のブーツの踵がコンクリートを鳴らす音と共に僅かに調子のずれた口笛が聞こえる。
デフォルトの電子音が鳴り、少女は携帯電話を取り出し、耳に当てる。
「ええ、こっちも終わったわ。
……そう…なら、ついでに私の分も報告しておいて頂戴。『かませ』だったって。
………だって貴方の方が近いでしょ?」
要件を告げると一方的に電話を切り、背伸びをする。
その両手から十徳ナイフとドライバーは消えていた。
少女――暁 小夜の姿はネオンの中に紛れ消えた。
† † †
小夜が通う『興栄高校』2-Aの教室はある一時を迎えるまでは騒がしい。
その時間とはSHRの開始を告げる5分ほど前だ。
ガラッとドアが開き、指定のセーラー服を纏った少女が教室に入る。
最初はテレビの出ている有名人のような美貌に誰もが思い焦れた、が、彼女の他人を拒絶するような冷淡な顔つきと性格にすぐに『暁 小夜』とはどういう少女なのかを思い知らされた。
故に小夜が教室に入る。ただそれだけで騒がしかった教室は一瞬で氷点下を迎える。
小夜はそんな事はお構いなしに教室の中を進む。
窓際最後列が小夜の席だ。
肩に掛けていた鞄を机のわきに下げ椅子に座る。
――今日も来たよ――
――なんで来るのぉ?――
――いやなら来なきゃいいじゃん――
様々な陰口が小夜の耳に届く。
別段、小夜だって来たくて此処に来ている訳ではない。
早くに失った両親の代りとして育ててくれた祖父母にせめてもの恩返し程度、それだけの理由で今日も此処にいる。
見たくもない物を視界から外す様に小夜は頬杖を突き、窓の外を見る。
窓の外に広がるのは校庭と何の変哲もないただの住宅地があるだけだ。
それでも、小夜にとっては何もないだけマシだった。
「おはよう。小夜」
突然、頭上から声が掛けられる。
冷めた目つきで前の向く、整った顔立ちは俗にイケメンと称される女子たちの憧れの的。
伊集院 隼人
が立っていた。
小夜は一瞥すると再び窓の外に顔を向けた。
何時も通りのやりとりだった。
隼人はそんな小夜の様子に溜息を吐きながらもひとつ前の席に座る。
――なによ…彼奴…伊集院君が声を掛けてるってのに――
――伊集院の奴も良く毎日毎日声を掛けるよな――
再び陰口が広がりかけた所でSHRを告げるチャイムが鳴る。
† † †
「小夜…今日も行くんだろ?」
放課を告げるチャイムの後、隼人が尋ねる。
小夜は頷くとそのまま教室を出て行った。
途端、騒がしくなる教室。
「もっと仲良くなりゃいいのにな」
そんな隼人の呟きは教室の喧騒に掻き消された。
鞄を担ぎ小夜の後を追うように教室から出て行く隼人。
昇降口でやっと追いついた。
急いで靴を履き替え校庭に出た時にはもうすでに小夜は校門を抜けていた。
校庭を駆け抜け校門を曲がるとすぐそこに小夜が凭れ掛っていた。
「…何してんの?早く行きましょう」
それだけ言うと小夜はそそくさと行ってしまう。
「……だったら…少しくらい待ってろよ」
「あら、あそこで待ってたじゃない?」
「判ったよ…それで今日はどうするって?」
横に並び、横目で指摘するも返されてしまう。
諦め半分に隼人が今日のバイト(仕事)について聞く。
小夜が携帯の受信メール欄を開こうとした、その時―――――――――2人の足元から見た事のない魔法陣が浮かび上がり、光の柱となって2人を包み込む、光の柱が消えた時にはもう、2人の姿はなかった。
―――――――――
「つぅ……」
魔法陣が発していた光が収まるとそこには俯せに倒れ伏せている一組の男女の姿があった。
先に少女が片膝をつくように飛び起き、ほぼ反射的にポケットに手を入れ十徳ナイフを握った。
姿勢は低く、鋭い眼差しで周囲を探る。
暁 小夜の昔からの癖だ。
土地勘が働かない場所では全神経を周囲に向け敵意を剥き出しにする。
何時ものようにその癖が入った事に気付き自嘲する小夜、その時初めて足元に転がっているもう一人の男の〝存在自体″に目を向けた。
自分と同じ境遇だったくせに何時でも明るく、自分とは違う道を行く人だった。
憧れていたのかも知れない。
それ故に、こんな知らない所まで来て呑気に寝てるこの男…伊集院 隼人に腹が立った。
摺り足で隼人に近づき革製のブーツのつま先で脇腹を蹴る。
「さっさと起きなさい」
「っ!?……小夜……此処……は?」
「私に聞かれても困るわ」
蹴られた脇腹を抑えながら立ち上がった隼人が呻く。
小夜は周囲を警戒しながら素っ気無く答える。
「…あの…すみません――――」
「私の声が届いたようでなによりです。勇者様」
その場から動こうともしない小夜に見かねた隼人が声を出し掛けた時、錫杖を持ち白い三角形の帽子を被り白い装束に身を包んだ少女が声を出した。
「はぁ?」 「へっ?」
小夜の不機嫌な態度を其の儘出表したような声と、隼人の間の抜けた声が見事に被った。
「……ゆ、勇者って…俺が…?」
「はい、『勇者召喚の儀式』によって貴方がこの場に呼ばれたのは、それ相応の意味を成すという訳です」
「……要するに?」
「え、コホンっ、古の封印が解け《魔神》が復活したのです。3000年前と同じ危機に陥った今、当時と同じくエルフは見つかりました。そして勇者様の召喚に成功致しました」
小夜の鋭い眼光に軽く身を竦ませるも、微笑みを浮かべ説明する巫女。
「…申し遅れました。私は《戦巫女》エリオール・セント・オルトラージュと申します」
「あ、俺は伊集院 隼人…でこっちは――」
「――暁 小夜。私は勇者なんて大層な人間じゃないわ」
小夜は自己紹介の最後に真っ向から自分を否定し、全ての責任を隼人に任せる。
そんな魂胆が見え隠れするように言い切る。
「――だから、さっさと私を元の世界に戻しなさい。〝烏賊″巫女」
嫌われるのは得意よ。
昔、小夜がそう言ったのを隼人は鮮明に覚えている。
今も昔も小夜はこうやって他人と拒絶してきた…だからこそ隼人は、たとえ誰もが小夜を拒絶しようとも自分だけは味方でいられるようにしてきた。
「す、すみません!俺たちまだこっちに来たばかりで不安も一杯あるんで少し考えさせて貰ってもいいでしょうか!?」
そして、それは今回もまた同じだった。
錫杖…銅や鉄などで造られた頭部の輪形に遊環が6個または12個通してあり、音が出る仕組みになっている。このシャクシャク(錫々)という音から錫杖の名がつけられたともいわれる
それではまた次回~