第四話 傷痕
追記 8/7 サブタイトル追加
※注意※
性的、残酷描写があります
気分を害されそうな方は前半を飛ばしてください
それでは、どうぞ
物心ついた時からオレはそこに居た。
鉄檻のように閉ざされた薄明りすら届かない幽閉された部屋。
むさ苦しい獣達の匂い。
繰り返される凌辱の日々。
抵抗心なんてとっくの昔に消え去ったと思っていた。
しかし、身体に刻まれた心的外傷はその凌辱を忘れていなかった。
鉄檻から抜けたオレは自由になったと思っていたが、実際はそうじゃなかった。
今度が全身を黒いローブで覆った陰気臭いババアの元に引き取られた。
ババアの名前はバードラと言うらしい。
バードラは奴隷商だった。結局、鉄檻を抜け出しても何一つ変わる事はなかった。
オレは、バードラにある裕福な家系に売られ下働きをしていた。
最初の頃は料理を運んだり掃除をしたりと普通の仕事だった。
ある日、領主に呼ばれ部屋に向かった時にオレは犯された。
それから毎夜、部屋に呼ばれては身体を弄ばれた。
ある時は領主の知人たちにも輪姦された事もある。
…そんなある時だ。
オレは領主に接吻を近寄られた。
堪え切れずにオレは近くに立て掛けてあった模造剣で殴っていた。
何度も何度も、骨を砕く鈍い音がして、血の匂いがして、気が付いたら領主を殺めていた。
当然バレて、バードラの元に連れ戻される最中だった。
オレが救われたのは。
初めは何が起きたか判らなかった。
ただ、一組の男女がバードラと交渉しているって事だけは判っていた。
それと同時に、俺はまたあの生活が始まるのか、と苦悩していたのに、気が付くと女がオレを抱しめ頭を撫でていた。
何が起きたのか…全く判らない……ただ…女の声は優しくて心地よくて癒しを与えてくれた。
折れかけていた精神が、磨り減らしていた感情が歓喜の声を上げたが判る。
男が走り去った後、女はゆっくりとオレを抱き上げると歩き出して何処かへ向かった。
尤も、オレの意識は限界を迎えたらしく女の腕の中で眠りに落ちて行った。
―――――――――
ヒュースの姿が完全に見えなくなった後、私は紅毛の子を抱き上げ宿泊している宿に戻ろうとしていた。
あそこには確か公衆浴場があったはずだから。
まずはこの子にこびりついている栗の花のような臭いと煤を洗い流さなきゃね。
薄茶色の服も破れている所や、赤黒い斑点……血?が付いてるからヒュースには良い服を買ってきてもらわないとね。
「すみませーん。風呂場をお借りしてもよろしいですか?」
「あいよ。アンタ……昨日から泊ってたね。2階に上がる階段の奥の右が女湯で左が男湯だよ。はいさタオル一式」
「ありがとうございます」
今思ったけど、エルフの特徴的な耳に付いて誰も聞いてこないんだけど…どうしてだろう?
まぁ、いいや。
今はこの子の件が最優先事項だよ。
風呂場の中は簡易的な木造の脱衣場と磨り硝子で隔てられた湯船が薄らと見える。
脱衣場に入った時点で腕の中で睡魔と闘っていた子が起きる。
「は………なせっ………」
おおう、中々の力で暴れて来るけど…子供の力じゃぁねぇ…
軽々とあしらう事が出来る。
まぁ、降ろすんだけどさ。
「おはよう。今から君をお風呂に入れるから自分で服を脱いでくれるかな」
渋々ながらも脱いでる所からすると根は素直な子なのかな。
私も服を脱がないとね。
肘から下を包んでくれていた服は肘にある紅い紐を解くとすぐにはだけ落ちて行った。
ワンピースも脱がないとね。
………
風呂場はどういう仕組か湯気が濛々と立ち、前が少し見えるくらいだ。
紅毛の子はその体中に見るに堪えない青痣をいくつも作っている。
女の子なのに………やっぱり…奴隷商も潰すべきだったかなぁ………
ハッ!いけない、いけない。
つい変な事を考えちゃった……
「さ、まずは体を洗いましょう?」
「い……や――」
問答無用。
両手を脇の下から回し抱きかかえて、逆さになっている木桶に座りその上に乗せる。
固形石鹸を手に取り泡立て全身をくまなく洗う。
…下の方が………白濁液でぐっしょりだったからね…うん。
悪いとは思うけど…指で掻き出させてもらうよ。
この年でこんな辱めを受けるなんて…可哀想に。
念入りに体を洗い、流そうと思った時にシャワーがない事に気付いた。
蛇口の無いのにどうやって洗い流すんだろう……
ガラッと横開きの扉が開き、お婆さんが入ってきた。
ナイスタイミング!
このお婆さんの行動を見よう。
お婆さんは人指し指を縦に振る。お婆さんの目の前に藍色の魔法陣が現れるって…え?
何それ、陣魔術ってやつ?
お婆さんが描いた魔法陣から透き通った水が流れ出る。
それを木桶に溜めているらしい。
つまり、魔術を使えって事?
精霊術でも応用は利くかな…?
あ、いやでも今使役してるのフクス(雷)しかいないや。
見よう見真似でやってみようっか?
人指し指を縦に振る。
こう言うのってイメージが大事だと思うんだ。
イメージ…イメージ…水が出るイメージ。
「ぷ…はぁっ」
………うん。
結果としては水が出たよ。
頭上から激流だけどね。
気を取り直して頭を洗おうか。
………
はぁぁぁっ。
お風呂気持ちいいぃぃ…
頭を洗った後、水を出す時だけど…上手く出来たよ。
木桶の中から湧き出るイメージでやったら上手くいった。
ああ、もちろん自分の体も洗った。
「なんで…助けた……?」
ん?この子もだいぶ呂律が回るようになってきたね。
よかったよかった。
それにしても…なんで助けた…かぁ…………
「強いて言うなら…偶然でしょうか?…もし、あのお婆さんに連れてかれてるのが君じゃなくとも、私はその子を助けてたと思います」
―――――――――
「強いて言うなら…偶然でしょうか?…もし、あのお婆さんに連れてかれてるのが君じゃなくとも、私はその子を助けてたと思います」
偶然?
今目の前の女は偶然、オレを助けだと?
ふざけんじゃねぇ……結局、コイツもアイツらと同じじゃねぇか…オレを物としか見てねぇ
胸の中が憎悪にも似た黒い感情でいっぱいになる。
俯きかけた瞬間、女はオレを抱しめた。
不思議なモンで…どうして…女がオレを抱しめるだけであれだけ憎かったのが愛おしく感じる。
「でも、君と逢えて、君を助けられてよかった」
ああ、ダメだ。コイツはダメだ。
磨耗したオレの感情に潤いが宿る。
ずっと前に枯らしたはずの涙が眼から滴り落ち憎たらしいほどデカイ双丘に零れる。
「そうでした。君の名前は?」
「……ウィン。ウィン・アルゼン」
微笑みながら問いかける女にオレは自分の名を告げていた。
―――――――――
ふむ。
適当な品を買ってきたが…サイズは合っているのだろうか?
いや!合っていてもらわないと困る!!
金銭が尽きてしまうからなぁ…
「やめろって、くすぐったいからっ」
「ふふ、先の仕返しですよ」
ドアを開き部屋に入ってすぐ目に入ったのは仲睦まじくじゃれ合う2人の姿だった。
と言うか、何時の間にそこまで仲良くなったのだろうか?
「あ、ヒュース。お帰りなさい」
「よう、ヒュース・クラストだっけか?オレはウィン・アルゼン。よろしく」
「あ、ああ、よろしく」
フォル…教えていたのか…
まぁ、自己紹介の手間が省けた分マシと思っておこう。
「あと――『紳士』なんだってな」
「へ?」
「あ、えっと…忘れてくださいっ!」
何だろう?ものすごく失礼なことを言われたような気がするが、気のせいだろうか?
まぁきっと些細なことなのだろう。
「…公衆浴場に行ってきます。それとウィンの服です。では」
何時までも濡れたままでいるは不味いと思う。
紙袋を渡し部屋を出て行こうとした矢先に呼び止められた。
「あ、あの、ヒュース?この服…少年物…ですよね?」
その通りだが…何故わざわざ尋ねられたのだろうか?
首を傾げているとウィンが肩を震わせている事に気付いた。
僅かに頬も紅潮している……まさか!サイズが合わなかったのか!?
「………オレは……オレは女だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
全く油断していたため飛び蹴りが見事に顔に当たり、床に仰向けに倒れこむ。
視界が途切れる前に僅かに見えたのは焦った様子のフォルと腕組みしながら怒っているウィンの姿だった。
………
気が付くと同時に顔面に激痛が走り、濡れた布のような物が顔を覆っていた。
ああ、そう言えば…思い切りのいい蹴りを貰ったんだったな。
痛みに顔を顰めながらも布を退けて目を開ける。
「…………」
絶句した…と言うのはこういう事だろうか?
眼前に美女が居て、眠っていたのだ。
数瞬後、自分が彼女に膝枕をされて居た事に気付く。
「……気が付いたようですね…まだ動いてはいけませんよ…」
「は、はい……フォル、ウィンの事なんですが…これからどうなさる御積もりですか?」
「…責任を持って私が育てます」
……はは、何故だろう、大体予想通りだ。
彼女ならこう言うと思った。
同時に彼女なら任せられるとも思う。
ならば…俺には何が出来るのだろうか?
「もし、もしよろしければ…私も手伝ってよろしいですか?」
「ええ、勿論です………そうでした……あの子が起きたらちゃんと謝って下さい」
そう言うと、彼女は再び眠ってしまった。
元々、目が閉じ掛けていたし、もしかすると、あの後ウィンを宥めていたのかもしれない。
手を伸ばせば届く距離に居て、それでも手を伸ばしただけでは伝わらない想いがある。
なら、声に出そう。眠っている彼女にきっと届くと信じて。
「……ありがとう」
これにて、一旦フォル側は切ります
次回は召喚された勇者のお話