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第二話 現象確認

追記 8/7 サブタイトル追加

軍馬の手綱を引き、歩を進める俺――ヒュース・クラスト。

平民出の騎士だ。

軍馬の後ろのは、さっき森で出会った〝エルフ〟を乗せて城へ戻っている。

肥満腹を揺らしながらの上官から言われた時はどうなる事かと思ったが、無事に出会えてよかった。



「……つまり……この世界…『エレンシア』は……3つの国に分かれて……それぞれの国に……大体…1つの種族が……栄えている……という事ですね…」


〝エルフ〟は俺の腰に回した腕をぎゅっと強める。

軍馬を見たとき若干驚いていた様だったが…まさか馬に乗った事が無いのだろうか?

それでも〝エルフ〟は質問をやめない。

貪欲にこの世界の知識を求めているのか、はたまた、恐怖から逃れ様としているのか…俺には判らないが。


「はい、その通りです。尤も、一つ一つの種族が独立していますが、共存している部族もあるそうです」

「そ、その…もう少し…………いえ、魔法は………万人に扱える………と言うのは?」


今にも消えそうな声で呟いていたが…途中から凛とよく通る声で言った。

その後、より体を密着させてくる。

背中に当たる押し潰れた双球が俺の理性を襲うが、剣の道の師匠に叩き込まれた鉄の心得で抑える。

おそらく〝エルフ〟の世界では、俺たちが抱く後ろめたい感情など生まれないのかもしれない。

〝エルフ〟を安心させるためにも、軍馬の速度を緩め答える。



「魔法には2種類あるのです。一つは我々でも扱える、陣魔術。

言葉通り魔術陣を描いて発動させる魔術です。

もう一つは、精霊術。

精霊との密接な関係を築いている者のみに扱える魔術。

私の知る限り、これを扱えるのは〝エルフ〟様のみにございます」


「そう……です…きゃぁっ!?」


舗装が行われていない道路の岩肌は突端している部分が多い…そして、軍馬はそれを避けるように訓練されている。

では。その回避方法は?

簡単だ。上に跳びあがるだけ。


一瞬の浮遊感の後、着地の衝撃でガクンと身体が激しく上下する。

やはり〝エルフ〟は馬に乗るのは初めてなのだろう。

気品に満ち溢れていた表情からは想像できない甲高い悲鳴が耳元で上がった。

何ともいえぬ浮遊感に再び恐怖が舞い戻ったのか、更に腹部に回した腕がぎゅっと固くなる。

ポスンと〝エルフ〟は俺の背中に頭を落とす。

吐く息が荒い。これもまた俺の理性を襲う。


初々しい少女のような〝エルフ〟の様子に思わず、故郷に残した妹の姿が思い浮かんだ。

〝エルフ〟の見た目の歳と丁度同じくらいだろうか?

今も元気にやっているだろうか?

いや、よそう。

こんな考え事をしている暇があるなら、一刻も早く奴らを討伐し世界を救わねば。

まずは日暮れ前には街に着きたい。







―――――――――







はぁ……馬怖いよぉ。

ああ、でもこうやって目を瞑って、この男……ヒュースの背中に頭を預けると不思議と不安感は消えていくなぁ。


一緒に魔神を倒してくれ!


なんて言われた時は吃驚したけど…なんとなく予想は出来てたよ?

自分自身がファンタジーだったし、ペンギン?とか喋る綿毛とかね。

ああ、うん。この白い綿毛喋れたんだ。



……



「お願いです!〝エルフ〟様。どうか我々に御力添えを!!」

「モキュー!モキュー!」

「………………」

完璧(?)な土下座で私に頭を下げている男。

何を言ってるか判らないペンギン?

無言の綿毛。

さっぱり状況が飲み込めない私。


まずいね。

色々まずい。

ええい、儘よ。この際、ペンギン?たちは無視だ!!


「…御力添え…とは?…まず、状況を説明してほしいのですが?」


「失礼しました!!遥か太古に封印された魔神が復活したのです。」


説明長かったから要約するね。

まぁ、私が質問した内容もあるけど…


①魔人復活→この世界ピーンチ!

②Q1復活って事は前にもあった? A.およそ3000年前に封印された。

③3000年前は、勇者と1人の〝エルフ〟とその仲間たちで封印。

④3000年前の勇者もこの森で〝エルフ〟と出会う。

⑤この森で〝エルフ〟ってか私に会う→土下座。

⑥付いてきてくれますかッ!?

↑今ここ。


はぁ…だからっていきなり土下座は…ねぇ。

若干、冷やかな目線を送りながらこの男を観察する。

見窄らしいけど丈夫そうな黄土色のベスト。

その下に白いシャツ…まるで狩人ね。



不意に感じる視線?

掌サイズの黄色の毛並みに黒の縞模様が入った狐が飛び出してきた。

ペンギンと狐でなんか話してるから…意思疎通できてるっぽい。


『我々…精霊は皆、共通の言語を持っているのです。《マスター》、そしてこの言語を理解できるのは我々、精霊と〝エルフ〟…つまりは《マスター》のみです。』

『吃驚するからさ…急に喋らないでよ!綿毛!!』


両手を振りおろし抗議をする。綿毛に。

はぁ…この男から見たら変に思われるんだろうな?

いや、でも言語を理解できるのは私たちだけらしいから、喧嘩してる?程度に思われるぐらいかな?


『…言語を理解できるのが私たちだけって事を人間は知ってるの?』

『はい。この世界《エレンシア》に住む4つの種族。

この青年のような平人族。

獣の耳、毛、尾、を兼ねる獣人族。

鳥の翼、趾を兼ねる有翼人族。

忌むべき魔族。

全てがそれを既知としています』


成程。

色々判った。

ん?〝エルフ〟は?


『そして、それら4種族の上位種に当たるのが《マスター》、エルフなのです。

生命力、魔力、筋力…全てにおいて他種族を上回ってる且つ、なにより最大のメリットは我々、精霊との意思疎通能力。

精霊とは言わばこの世界の起源、莫大な力を持っています。その精霊を使役する事が可能です』


なにそれ?反則でしょ?

それはこの男が土下座する訳だわ。

しかし…このペンギンに狐に綿毛、全部が精霊ねぇ…。


『精霊は他にもいるんでしょう?それら全てを使役することが私には可能なの?』

『…此処に居る我々以外にも精霊は居りますが…《マスター》。

貴女が我ら全てを使役できるかは判りかねます。

それは〝エルフ〟1人1人によって変わりますが故に、

まずは此処に居る我ら3精霊のうち1精霊を選んだのちに、数を増やしてゆくと言うのは如何でしょう?』

『……精霊って何処にも居るの?』

『然様にございます。先も言った通り精霊とは世界の起源。何処にでも顕現は可能です』


成程。

なら、この綿毛の言う通りにした方がいいと思うな。

いきなり3匹使役して、ぽっくり逝っちゃった。

みたいな事はしたくないからね。

使役するのはもちろん、狐だよ。

え?もふもふしたいじゃん!!

つぶらな瞳も可愛いし、尻尾が体より太いってのも可愛いじゃん!

ペンギンはともかく綿毛はない。絶対ないからね!


さて、青年に話を戻そっか。

元の世界に帰る方法が判らない以上、此処で立ち止まるなんてできるわけがないっしょ。

「判りました…貴女方と共に参りましょう」



……



夕日が沈みそうだね。

もう一日が終わりそうだよ。

それにしても、この短時間で色々あったなぁ~

異世界に来たり、エルフ(♀)に成ったり、精霊と使役関係を結んだり、馬の上で男の後ろに座ったり…幸先いいのか、不安ばかりだよ。


ああ、精霊の狐……『フクス』って名前にしたよ。

使役関係になるときに必要だったからね。ドイツ語でキツネって意味だったと思う。

『シュヴァンツ』…尻尾って意味のドイツ語とも迷ったけどね。


この際だ…もう僕のエルフとしての名前もドイツ語にしちゃおうか…

森か水に因んだ名前がいいな~

この世界で最初に見た風景だし……うーん…

『ブリューテ』…樹木の花…違うなぁ。

『ブルーメ』…花…これもなぁ。

『クヴェル』…泉…う~ん。

『トレーネ』…涙…泣いてないよね…?


「おい!てめぇら!!金目のモン置いてけ!!」


え?

なに?盗賊?

初実戦が盗賊ですか?


「ヒュース、振り切れますか?」

「判りません。急ぎたい所ですが…何分数が多くありますので…」

「…仕方ありませんね……戦いましょう」


軍馬から降りて、カットラスを出す。

ヒュースも騎士剣を両の手で構える。

2対10ぐらい、かな。

リアルな戦いなんて初めてだけどね――――だから、他力本願で行くよ!


「フクス!力を!

《轟け、稲妻。穿て、雷光!》―――ブリッツ!!」


2、3人倒れてくれればそれでいいよ!!

肩に掴まってたフクスが頭をあげ、一声、鳴く。

そりゃもう、可愛い声で。

瞬間、フクスの頭にある六角形の黄の珠が光りを放って、盗賊団を襲う。


……え?

これはフクスが強いの?精霊術が強いの?盗賊団が弱いの?

2、3人どころか、6人は飛んだよ?

呻き声を上げてるよ?あ、止った!

不味いって、これは不味いって。

ほら、他の盗賊たちが逃げ出してるじゃん!!

ヒュースも目を丸くしてるし…


「ヒュ、ヒュース。先を急ぎましょう?日が暮れます」

「そ、そうですね」


お互い無言のなか軍馬は走る。

でもやっぱり怖いからヒュースに抱きつく。

一番近かった街…『ピーケン』に着いた時にはもう完全に夜の帳は降りていて灰色の双月が煌々と私たちを照らしている。

王国騎士団の管轄らしく騎士団関係の詰め所があるらしいけど、丁重に断った。

理由?

そりゃ騎士全員がヒュースみたいな紳士だったら行ったと思うけど…未だに信用し辛いからねぇ。

だから民間の宿舎を取り、部屋に入る。

ヒュースは一連の報告をしてくると、詰め所に向かう。

よほど疲れていたのかベッドに入るとすぐに深い睡眠が訪れた。


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