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第十六話 色褪せぬ記憶

トリック・オア・トリート!

何とか間に合いました!!

Qもう遅いよ? A気のせいです

やっつけ感の迸る過去編第2弾!!(※1弾は小夜です)


気が付けば、シンは其処に居た。

眼前の巨大なスクリーンに映された自分が共に歩んできた仲間達との姿を見ていた。

走馬灯でも見ているのか?そんな疑問を浮かべながらもスクリーンを覗く。


「…これで終わりだな」

「意外と呆気無い物ねぇ…」

「では、報告に戻るとするか」


灰色の双月が浮かぶ澄み渡った星空の足元、切り立った丘の上に佇む3つの影。

かつて、シンが傭兵ギルドに所属していた時のチーム『千塵』

自分達から名乗った訳でもなく、昔は『千首』と言う名だった。

文字通り千の首を刈り取り名を上げる、そんな理由で作ったチーム名だった筈が、何時しか自分らが行った後の戦場には塵1つ残らないと言われ始め『千塵』になった頃の映像だ。


リーダーのアイン・クセルセスカとヴァルバトス・アッシュヒー、そしてシン・マクスウェル。

まだ、道が違えなかった時代の自分達。


3つの影が丘の上から姿を消した瞬間、スクリーン全体にノイズが走り、別の映像が映された。


「お帰り~今日も速かったね」

「まぁ、ただの殲滅だし」

「お前の情報が適切だったのも功を奏したな」


傭兵ギルド居住区の一角をシン達『千塵』は住処にしていた。

『お帰り』と返したのは『千塵』のもう一人のメンバー。


《情報屋》シキ・リオハーツ


ボリューム感が多い艶やかな黒い髪と同色の獣耳の生えた猫の獣人。

黒いワンピースの上に薄紅色のパーカーを着て、白基調にピンクのストライプが入っているスカートを履いている。

飄々としている半面、何処か人懐っこい笑顔を絶やさない。

時に危険な綱渡りをする事もあるが、引き際を心得ており、仕入れてくる情報は殆どが的確だ。


「あら、良い匂いね…今日の晩御飯は何かしら?」

「はいはーい。もう少しで出来上がるから座っててもいいし、手伝ってくれてもいいんだよ?」


スクリーンに映される他愛無い会話がシンの中で色褪せない思い出を呼び起こす。


しかし、次のスクリーンで総ては夢物語だという事が嫌でも思い出される。


その日は、珍しく4人でオーダーを解決する為にグランゼン王国に訪れていた。

オーダーの内容は大型魔獣の討伐。

至ってシンプルだが、この手のオーダーが一番多い。


「アイン、シン、ヴァル、気のせいだといいんだけど…嫌の予感がするから気を付けて」

「…気に留めておくわ。まず、予定通りに――」


打ち合わせ通りに魔獣が住処にしているらしい崖に亀裂が入った事により生まれた縦穴に着いたシンは合図を待った。

縦穴の中にはアインとヴァルバトスが先に潜り込んでいる。

シンの隣りには黒い歯車の空洞を一本の棒で繋いだ柄から銀の刃が一筋飛び出ている一本の小剣を持つシキの姿がある。


「…シン、おそらくだけど合図までまだ時間はあると思うから、1つだけ聞いてもいいかな?」

「何だ?お前から質問とは珍しい…」


縦穴の様子が窺える茂みに隠れているシンの後ろから声を潜めたシキが言った。

普段の何でも知ってるイメージしかないシンにとっては彼女の質問は新鮮な物だった。


「うん。ちょっと、ね…まぁ、質問ってのは、どうして傭兵ギルドに入ろうと思ったの?」

「傭兵をやっている中でも最も多い理由、仇討ちだ……俺の場合は家族のな」


進んで傭兵に成りたがる者はそう多くはない。

故郷を捨てたならず者やゴロツキ、後ろめたい過去を持つ者もいれば、家族、友人、恋人を失った者が憎しみを糧に立ち上がる例も珍しくはない。

シンとて、理由はそこいらの傭兵と何ら変わりない。


「そっか…ご苦労様だね…」

「労いの言葉などいらんさ、俺はただ私利の為に魔獣を狩っているだけだからな。そういうお前はどうして傭兵ギルドに?」

「…私、こう思うんだよね。どんな理由であろうと、私達は、名前も知らない何処かの誰かを救うために今此処に立ってるんじゃないかなって。だから、私は何処かの誰かを救うために傭兵になった。なんて理由じゃ綺麗事かな?」

「いいんじゃないか?綺麗事でも立派な理由だ」


不謹慎かもしれないが、目標を目の前にして不覚にも緊張の糸が解れるのが判った。


「そっか…えへへ…そうだよね。ねぇ――」


自ら嫌な予感がすると言った割にはおそらく屈託のない笑顔を浮かべているだろう後ろの猫の姿を思い出すシン。

彼女が何かを言い掛けたその瞬間、縦穴から獣の雄叫びと共に黒い影が飛翔した。


「…さて、無駄話は後だ。オーダーを終わらせるぞ?」

「うん。今日も何処かの誰かを助けよう!」


シン達が隠れていた茂みの数メートル先に影の主――翼竜は降り立った。

首を高く持ち上げ咆哮する緑色の翼竜、恐らく匂いでシン達に気付いたのだろう。

背中に棘を持ち、毒針が突き出ている尻尾。

間違いなく今回の討伐対象だ。


頷き合ったシンとシキが走り出した瞬間、スクリーンが揺れ、別の映像を流す。


…駆け付けたアインとヴァルバトスの加勢により苦闘を末に翼竜を討伐した。

皆が皆、満身創痍と言った様子で座り込んでいる。

それもそのはず死線を潜り抜けたのだから仕方がないだろう。


歩ける程度まで回復した後に、王国へ戻る最中に事件は起きた。

翼竜の血の匂いを嗅ぎ付けたのだろう、銀混じりの茶毛を悠々と風に靡かせる獅子がまるで、王国へ行かせぬように、そこに居た。

獅子のその真紅に染まった眼に見透かされ、恐怖とはまた別の一種の畏怖を感じた。


スクリーンはそこでプツッと途切れた――――――






  †  †  †






「――ッ……」


反射的に体を起こした。

ズキリッと頭部に痛みを感じ、思わず片手で米神を覆う。

指の隙間から体を見れば、全身に包帯が巻かれていた。

頭を押さえながらを覚ます前、最後のスクリーンの記憶を探る。


あの後、確か――


「――ようやく、目が覚めたのね? 人の隠れ処いえに押し掛けておいて3日も眠るんですもの、はた迷惑もいい処よ」

「…それについては謝る。だが、先に助けたのはお前の筈だ――シキ・リオハーツ」

「と・も・か・く、久しぶりね。シン・マクスウェル」

「ああ、相変わらずで何よりだ」


首を動かし、声の主を視界に捉え、片手を上げ、勢いよくハイタッチをする。

昔と変わらず、黒いワンピースの上に薄紅色のパーカーを着て、白基調にピンクのストライプが入っているスカートを履いている猫の獣人――シキ・リオハーツ。

ただ、その右耳は少し欠けていた。

それでも旧友との再会を喜び、楽しそうな笑顔を浮かべている。


――あの時、初めて『開眼』したんだったな……


曖昧な記憶を辿る。

今度は、意識を失う前の事を。

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