第十三話 運命の環
書き方が……書き方が迷走しましたっ!
これは…事件ですよ!!
暁 小夜は静かに眠る。
胸元で指を組む様はまるで死んでいるかのように見えた。
微かに胸が上下している以上、死んではいない事が見て取れる。
そのベッドの傍らに置かれた椅子の上に座り小夜を見守る一人の少女、ラミア・ネル・フィアンネ。
片時も目を離さず、ただ見守る。
自分にはコレしか出来ないから、ただ見守り祈る。
ラミアが泣き弱ってる間にシンが小夜を運び、ヴィンセントが医師を呼んできた。
泣き止んだ後に何か出来る事はないか、と考えた。
しかし、自分には余りにも出来る事が少なすぎた。
回復系陣魔術を使おうとも小夜に目立った外傷はない。
料理をしようとも小夜は食べれない。
魔力が人より多くても、陣魔術が同時に4つ扱えても、何一つやれる事は無かった。
普通の人とは違っても、その違いが結局の所、何も生まない。
いくら優遇されようがその倍は嫉妬され、いくら力を認められようが劣等感は募り、その不安感がどうしようもなく、ラミアと言う齢15の少女を戒め苦しめていた。
周りの人々は今回の事件の追究を始めている。
その事実もまた、ラミアにとっては自分自身が無力だと思い知らされてるかの様に思えてくる。
だから、ラミアは祈る。
そんな不安感に押し潰されないように、目をきゅっと強く瞑り、手を組み指を絡め、灰色の双月に向けて祈る。
――どうかサヨさんが一日でも早く目を覚まします様に――
「おい、お前も少しは休んだ方がいいじゃねーの?」
ドアが開き、外から赤毛の少女――ウィン・アルゼンが姿を現した。
その片手には毛布を持っている。
「ううん。私はいいんです…私には傍にいる事しか出来ませんから」
「そう言う事言ってんじゃねぇよ…何の為に『魔女』が体張ってお前を護ったのか? 話を聞いただけのオレでも判ったんだ。お前は少し考えれば判るだろ!!」
ウィンは今にも泣きそうな悲痛な貌をしているラミアの胸ぐらを掴み、声量を抑えた、しかし、よく響く声でラミアをなじった。
その動作と共に猫の尾のような三つ編みが左右に揺れた。
† † †
月明かりに照らされる王国闘技場の端、ヒドラが破壊した入場門を見上げるようにシンはいた。
「…ふむ。やはりおかしいな」
「何がだ?」
「ダン……! 久しぶりだな」
「おう!元気してたか?」
突然、シンの肩を叩き声を掛ける青年。
振り返ったシンの視界に入ってきた声の主――ダン・クローザー。
王国闘技場の武器職人で、シンとの交流が深い。
2人は親友とも言える関係だった。
深緑のエンジニアスーツの袖を両肘まで捲り上げたダンは、豪快な笑顔を浮かべる。
「まぁな。そっちはどうだ?」
「ボチボチって所だな。お前さんが居なくなってから武器を壊してくれる奴が減って清々してるってのもある」
「フッ…相変わらずのようだな」
「そっちこそ……で、何が変だって?」
「ああ、これを見てくれ」
「ヒドラが破壊した入場門の破片じゃねぇか」
シンが手に取った物…それは一本の鉛の棒。
何の変哲もないそれを手に取る以上、何かあるとダンは思う、が、何かは判らない。
「で、それが…?」
「…この入場門はヒドラが体当たりで壊した物だ。それは鉄柵を見れば判る。が、体当たりで壊したにしてはこの鉄…切り口が平面すぎる」
「……確かに。あっちの方はひん曲がってんのに、ここいらに転がってるの全部、切り口が平面じゃねぇか…」
「そういう事だ。だからおかしいと言っている」
「つまり…アレか…誰かが意図的に鉄柵を切ったってか?」
「それは無理だろう。王国闘技場には大勢の観客が居た。仮にいち早く魔女とエルフが戦うと聞いてもそこまでの事をする時間はないと思われる。故に…精々傷をつける程度が限度だろう」
「ふむ…じゃあ、誰が?」
「そこまでは知らん……が、他人に見られず且つ鉄を切る事が出来る人間はいる」
「ん? 誰だ?」
「――――ダン…お前を含む、王国闘技場関係者だ」
シンの感情を抑揚の低い声が静かな王国闘技場に響く。
† † †
「……どうした良いのでしょうか…」
「フォル…?」
「…私には小夜さんが皆思っている様に悪人と思う事はできないのです」
『エルフ』――フォル・モーントは判らなかった。
暁 小夜は一体何を考え、何を為そうとして行動しているのかが。
今朝の邂逅では仲間を、他人を信用していない口ぶりだったが、ヒドラの一件で仲間を護ると言う行動に出たのがどうにも腑に落ちないのだ。
信用していないのならば、見捨てればいい。
斬り捨てて別のモノを用意すればいい。
彼女ならやりかねないと想像していた、それなのに、物の見事に期待を裏切られた。良い意味で。
「…自分にも判りません。ただ…一つ言えるのは、彼女は皆の目に偽りの姿を見せている、のかもしれません」
「偽り…」
「はい。自らを偽り、その上で向けられる敵意総てを受け止めている。そんな風に見えます」
…ヒュースの言葉にしばし、驚いたフォルは、ふふ、と笑った。
不安気だった表情が一変、嬉しそうになったのを目の前にし、ヒュースはドギマギする。
「……『勇者』さんとも逢って見なければ彼女の事は判りそうにないですね」
フォルはバルコニーから自身の名を決める象徴となった灰色の双月を見上げ、静かに呟いた。
† † †
ヴィンセント・クラインは1人樹園に立つ。
薄い2枚の円盤を合わせた様な機械と思しき道具を耳に当て、虚空に向け、独り言のように呟く。
「………ああ、『魔女』は油断できない。指を鳴らして、身体の一部、左腕を中心に水と変換する能力を持っている。ヒドラを圧倒するほどの力を隠していたのだから、まだ何か隠していてもおかしくはないと思われる………了解。引き続き任務に当たる」
上下にスライドしていた2枚の円盤を元に戻すと、深紅の外套の中に戻す。
「………はぁーぁ……どっちがホントの俺なんでしょうかね…」
しばしの逡巡。
溜息と共にその姿を闇に紛れる様に城内へと戻った。
かくて運命の環は廻り始め、世界を超え、英雄は集う。
目覚めた悪意は、総てを飲み込まんと強欲にひた走る。
絡み合う、数奇な運命は、蒼空を翔け、総てを隔てる悪意を払う光となる。
序章 廻る運命 了
仄めかし過ぎてますね…
これ全部、伏線って言えるんでしょうか?
そもそも回収できるんでしょうか?
とても不安です
どうなる事やら…くわばらくばわら…
んんっ…
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でわでわ