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第十二話 表裏の暁

すみません。短いです

ちょっと書けるかな…と思ってたらこれですよ…

しばらく、こんな感じが続くかもしれません…

終り方も無理矢理ぶった切った感じですし…

ホントすみません


ps. 9/24 小夜の台詞を一部変更しました

シン・マクスウェルは駆ける、大蛇の頭を9つ持つ怪物――ヒドラの足元を。


視界に入っているのは2本の大蛇の頭。


死角に回ろうとも9つある頭に死角などあるはずのない。


首を伸ばしシンを喰らおうとするヒドラの凶悪な牙が迫りくる。


瞬時に判断したシンは数歩後ろの跳躍し、それを避ける。

先程までシンの目の前を、ガチッと凶牙がかみ合わさる。

シンはその頭を踏み付け首を駆け上がった。


もう一方の頭がシンに襲い掛かる。

凶牙の間に鞘を押し込み、難を逃れるが体制が崩れヒドラの首から落下する。

その最中に体制を整え、無事に着地する。


「チッ…面倒な相手だな」

「表面は硬いし、首は多いし、ホント厄介だねー…ま、魔女サンは何か策があるみたいよ?」


ヒドラの表面には『龍鱗』と呼ばれる魔族上位種に相当する魔獣が幾数千年生き抜いた末に現れる希少な物が全身を覆い尽くしている。

その性質は堅牢。

並大抵の武器では傷一つ付かない。


そんな中、小夜はヒドラの周り一定の距離を走っては頻りにフィンガースナップを繰り返していた。

その度に小夜の左手は消え、今は左手首までしかない。


「…彼奴が何を狙っているかは不明だが、少なくも今の状況をどうにかするつもりだろう。おそらくその準備期間と言った所か」

「って事は俺ら囮に使われてない? はぁーぁ…世知辛いね」

「さて、無駄話は終わりだ。囮でも何でもやってやるさ。それで生きて帰れるならな」

「お、おい。剣闘士…此処、危険だ。赤冠レッドキャップ全力が来る・・・・・


2人は左右に展開し側面から攻撃する。

ラミアの4連魔術砲撃の範囲から外れるためにも。


シンは噂程度にしか聞いていなかった。

『齢12にして赤冠レッドキャップに入った少女が居る。その少女は陣魔術を4つ同時に展開できる』

が、自分には関係ない事と割り切って聞き流していたが、まさか今こうして、その魔術を見る事になるとは思いも知らなかった。


「陣魔術最大展開フル・オープン……魔力充填チャージ……行きますっ!」


短杖を正面に構えたラミアの目の前に展開された魔法陣が放つ


雷撃が天を焦し

風哮が蒼穹を裂き

光鎖が地を這い

岩盤が地を穿つ。


4種の魔術それぞれがヒドラに向かうが、それでも龍鱗に傷は付かない。


「おいおい、あれでも傷つかねぇのかよ!?」

「……全く、規格外だな」


思わず声を荒げる二人。


「シン、ちょっといいかしら? 陣魔術の水って氷にも成り得るの?」

「ああ、高密度で魔力を練り込めば成る」

「O.K. なら、私が後3回指を鳴らすまで魔力を溜めていて頂戴。4回目が鳴ったらアレの真上に開放して」


シン後ろから尋ね一方的に要件を伝えると小夜は再び走り出した。

もう、左腕の漆黒に衣装は肘から下が風になびいている。


「全く、こちらも無茶を言う……避けながら魔力溜めは難しい物があるんだが――」


悪態を吐きながらも一指し指と中指を縦に切り、蒼い魔法陣を展開する。


その瞬間、ヒドラの9つの首の喉元が膨れ上がった。


「――マズイ!!全員、ヒドラから離れろ!!」


シンの怒号に尋常じゃない何かを感じ取った小夜とヴィンセントは戦線離脱に成功したが、ラミア1人だけが逃げ遅れた。


それに気づいた小夜は走り出し狼狽えているラミアの元へ急ぐ。


小夜がラミアに手を伸ばし、その手をラミアが握り返した瞬間、ヒドラが9つの口から放射状の溶解液を吐いた。


ヒドラが居た闘技場のフィールドの端は焼け爛れ、未だに石段を溶かしつつある。

小夜とラミアの姿は濛々と立ち込める煙で確認できない。


煙が晴れつつある中、1つに重なった2つの人影が姿を現す。


ラミアを庇うかのように全身で抱しめた小夜。

漆黒に衣服はボロボロで無地の白いブラジャーの肩紐が見え、ショーツが破れかけていた。

今にも泣きだしそうな顔をしているラミアの碧髪を軽く撫でると立ち上がり、ゆっくりと右手を動かし、親指と中指を合わせ張力を掛ける。


「―― I do not forget. The occurrence of that day (私は忘れない。あの日の出来事を)」


声を張ると同時に中指を掌に勢い良く打ち当て、今まで以上に乾いた鋭い破裂音が鳴った。


巨大な泡が弾ける様な気配が大気を波打ち広がり衣服を残して・・・・・・小夜の姿が消えた・・・・・・・・


瞬間、闘技場と言う隔離されたこの空間の地面から、壁から、ありとあらゆる処から水球が飛出し一ヵ所に集まる。

それは徐々に人の形を成す。

渦巻き大河の如く奔流する水の中心に立つ、1つの人影。

黒のゴシック&ロリータ衣装を纏い、長いフリルスカートと下された黒髪を水流にはためかせていた。


首輪のように繋がれた小夜と同じ黒いレースのリボン。

その服も小夜が着ているものとほぼ同じ仕立てであるが、一点だけ違う。

小夜は白いブラウスを着ているが、その〝白″がない。

純粋な黒。全てを包む闇夜のように漆黒を纏う。

小夜とよく似た美貌を持つ少女は嗤う。

凄絶な、純粋な悪意が込められた嗤い。


――――――あかつき 常夜とこよ


『うふふ、やっと出て来られたわ……久しぶりの晴れ舞台ね…』

「戯言は良いから、あの蛇をどうにかして。姉さん」

『はぁ~い。可愛い妹の頼みだもの、すぐに終わらせるわ』


小夜の姿は見えない。

が、冷やかな声だけが闘技場に響き渡る。

常夜はそれに呼応するように空へ向けて言った。






  †  †  †






『ルーンは意志を継ぐ。例えば、志半ばで逝った者、愛する者の為に逝った者。様々な意思がルーンの中を駆け巡り鬩ぎ合う。循環する運命の円環の導きによって選ばれた者が、だ』


小夜がそれを聞いて数日が経った時だった。

突然、言い換え様の無い違和感に苛まれたのは。

周期的なアレとは違う、まるで自分の中を何かが蠢く違和感。


頭の片隅で気にしながらも仕事の最中、何時も通りフィンガースナップをした瞬間、それは姿を現した。

自分の体の一部が水に変わる能力、としか認識していなかった小夜は狼狽した。

気が付いたらまるで、自分じゃない何かの内側から外を眺めているような光景があり、誰かの声が直接、頭に入り込む。

だが、その声は何故か愛おしく、懐かしい物だった。


――私が、誰だか判る?――


問い掛けられ、途惑った。

以前にもこんな問い掛けをされた事があったからだ。

生前の姉、まだ心が壊れていない姉が突然言い出した。


――もし、私が私じゃなくても小夜は、私が、誰だか判る?――


まだ幼い小夜は意味も判らないまま満面の笑みを浮かべて、大きく頷いた。

姉は満足気に頷き、小夜の頭を撫でてくれた。


そんなもう遠い過去の記憶が色褪せる事無く思い出され思わず涙が一筋流れた。


「…姉……さん?」

――当・た・り。今、小夜は私の内側にいる。普段、私が居る所に、ね。 小夜に刻まれた刻印が私と小夜を繋いでいる――

「…………」

――うふふ、まだまだ子供ねぇ……まぁ、これを倒すまでには泣き止んでいてね――


小夜は感情の赴くままに涙を流した。

単衣に嬉しかった。

もう二度と逢えない物だと思い込んでいたのに、思いもよらない所で再会できた。

その事実だけが、真実だった。






  †  †  †







暁 常夜はまるで指揮者のように両腕を振るう。


渦巻く水の奔流は太い鞭の様にしなり、ヒドラの龍鱗に叩き付ける。

雨粒程度の大きさの水弾が兆速で落下し、ヒドラの表皮を龍鱗を穿つ。

激流を無理矢理一つに束ねた槍は踊り狂うように蒼穹を舞う。


水流に乗り、上空へ向かった常夜は水に大量の圧力を掛ける。

加圧された細い水流ウォーターカッターは地を削り、いとも容易く傷だらけにしたヒドラに完全に止めを刺した。

しかし、常夜は止まらず肉塊と化したヒドラを中心に円と奇怪な図形を組み合わせた魔法陣を彫刻する。


『うふふ、大した事ないわね…』

「判ったから、身体を返して、こうしてる間にも――」

血は減って・・・・・行くんだから?』

「………判ってるなら早くして」

『うふふ、愚かで愛おしい妹の願い、確かに聴きいれたわ……ラグズに宿る魔女の片割れは姿を消しましょう…』


そう言うと、常夜は振り返り唖然としている3人に向け、スカートの裾を軽く持ち上げ会釈する。

次の瞬間、まるで風に流れるようにして大河と共にその姿は消えた。

途端にラミアが慌てた様子で声を上げる。

抱えていた衣装に小夜が憔悴しきった表情で力尽きたように気を失っていた。


「………勝った…のか?」

「…らしい、な」


張りつめた緊張の糸が解れたのかその場に倒れ込むヴィンセントとシン。

暫く、闘技場は小夜の胸元に顔を埋め静かに泣くラミアの嗚咽だけが包んでいた。


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