第三十八鐘 望まぬ戦
ウィルを襲撃者だと疑ったハイトは、道中で気になった点を上げていきウィルに真相を迫る。ハイトの疑問に答える為、ウィルは己が襲撃者としてミリアを襲った理由を話す。聞き終えた後、ハイトはふと現実世界にいる両親の事を思い出した。周りからは厄介者扱いだった己を捨てずに育ててくれた両親の姿を想像し、ハイトは互いが殺し合う事をウィルに促す。ハイトの言葉でウィルは覚悟を決め、二人の殺し合いは始まった。
ウィルとの距離が無くなった瞬間、俺は漆黒の刃を彼の首に向かって放つ。
「そんな攻撃では、私には通用しませんよ」
予想通り、ウィルは左手に装備している盾で剣の進行を妨害した。
俺はその結果に構わず、弾かれた剣を無理に戻さず流される勢いのまま回転して裏拳のように再度攻撃する。
また、盾で弾かれた。
「だから、その攻撃では通用しませんて。スキルを使用したらどうですか?」
「冗談じゃない」
スキルを使用したとしても、かなり強力なものでなければウィルの守備力を通せはしない。逆に、俺が無駄に硬直時間を受けて危険になるだけだ。ウィルにダメージを与えられる程の強力なスキルを使用しても、避けられれば意味が無い。
俺が今するべき事は、ウィルの体勢を崩す事だ。
「<ニーアス>!」
俺がちまちま攻撃している内に、ウィルが槍スキルを発動した。効果は<ストロウ>と同等だ。
「…………」
通常よりも突く速度が速くなるが、俺の俊敏値なら躱せる。
俺は巨槍を紙一重で避けて、そのままの位置で縦斬りにウィルの頭を狙った。
「甘いです」
短い硬直時間が消えたウィルは、盾で俺のカウンターを防ぐ。
まだ、お互いダメージを受けていない。
「はあッ!」
ウィルががら空きの脇腹に巨槍を打ち込む。
「…………ッ」
俺は地面を蹴って跳ぶ事で、巨槍を避けた。
「空中では不利ですよ?」
ウィルが言いながら、視線で俺を追う。身動きの出来ない所を攻撃するつもりなのだろう。
「そうだな」
俺がそんなヘマをする訳無いだろう。
俺はまだ盾に付いている剣を支えにして、ウィルの頭上に移動した。
「!?」
盾の上から掛かる俺の重みのせいか、それか予想外の行動に出たからか、ウィルは動きを止めていた。
俺はその間に盾を蹴ってより高く跳ぶ。
「くッ……」
ウィルは視界に俺を入れようと、慌てて振り返って巨槍を構えた。
(そうだ。それで良い)
「<ストイスロー>」
俺は服の内側にある投剣を空いている手に装備し、短剣スキルを発動した。
左手から放たれた投剣は一寸の違いも無く直線を描いてウィルの顔へと向かって行った。
「……ッ!」
ウィルはその投剣を盾で間一髪で防いだ。
スキルを使用した事で硬直時間が訪れるが、それを見通して高く跳んだ為、無様な着地を晒す事無く地面に脚を付けた。
「……流石ですね。今のは危なかったですよ」
ウィルが苦笑しながら俺に賛辞を与えた。冷や汗を掻いている所を見ると、世辞では無いようだ。
(今ので入らないか……)
これは想像以上に固い。今の不意打ちは結構自信があったのだが。
(矢張り、あれを何とかしない限りは通らないか)
俺が思案している間に、ウィルは攻撃を仕掛けて来た。
「ハイト君、一体何を考えているのですか?」
巨槍を連続で繰り出す攻撃をしながら、ウィルは俺に訊いて来た。
「何の事だ」
次々と避けながら、俺は訊き返した。
「恍けないで下さい。先程から決定打に欠ける攻撃しかしていませんが、貴方の事です。何が企んでいるのでしょう?」
ウィルが俺の内を見抜こうと眼光を強める。
「さあな」
俺はウィルの言葉も、巨槍も受け流し、作った隙を狙って間髪を容れずに顔を剣で突き刺す。
「おっと」
ウィルは慌てる事無く盾で自分の顔を護った。
(此処だ)
俺はウィルから離れず、盾によって発生する死角から彼を転ばせようと脚払いを試みた。
が……。
「<シールドアタック>」
それをする前に、俺は突き出された盾によって後ろに突き飛ばされた。俺は勢いのまま地面を転がり、丁度俯せになるような位置で停止した。
「拍子抜けするような動きですね……。それも演技の内ですか?」
ウィルが訝しがる声色で訊きながら、俺に近付いて来る。その足音は、何が起こっても対処出来るように慎重に歩むものだった。
(焦るな。集中しろ)
俺はウィルの言葉に耳を貸さず、横転している時に不自然に見えないように内側に入れた左手の人差し指を動かす。
下手に動けない為、それを見る事は出来ない。それでも、失敗する事は許されない。自分の記憶と勘でそれを探り当てる。
トン、と大きい足音をたてて、ウィルは立ち止まった。
「これで終わりですか? もし、そうだとしたら……呆気無いですね」
ウィルが幻滅するような声色で言う。が、俺は何も反応せず、そのままの体勢を保っていた。
隠れた指だけが、高速に動く。
「…………」
上から溜息が聞こえ、金属が擦れ合う音が響く。恐らく、ウィルが俺の頭を貫く為に、巨槍を持ち上げたのだろう。
ウィルのその行動と、俺がそれを選択するのは同時だった。
「せッ!」
「……ッ!」
ウィルが巨槍を突き下ろすと同時に、俺は腕と脚を使って右に全力で跳んだ。
左側の頬を巨槍が掠め、僅かなダメージを俺に与えるが、そんな事はどうでも良い。
俺は直ぐに左手にある物を懐に仕舞い、その行為が気づかれないようにする為投剣を取って投擲した。
「諦めて無かったようですね」
ウィルが投剣を盾で防いで、俺に言った。
「元から諦めるつもりは無い」
ウィルを殺す準備は整った。後は、機会を計るだけだ。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
ウィルの言葉が終わった瞬間、俺は彼を攻撃する為に駆け出した。
数歩駆けて俺とウィルは衝突した。
スキルを使わなくとも、俺は先程より速く、強く剣を振った。
「どうしたんですかハイト君。積極的ですね?」
盾を巧みに動かして全て防ぎながら、ウィルは俺に訊ねた。
「もう十分だからな」
「…………? 何を言っているのですか?」
訳が分からないと言う風な表情で、ウィルは俺に訊ねた。
「直に分かるさ」
俺はあやふやに応え、斬り続けた。
ウィルは盾で攻撃を的確に防ぎながら時々俺へのアタックを狙って来るが、俺は最低限の回避をするだけにして攻撃に集中した。
我武者等に盾を斬り続ける所為で“イロージョンナイト”の耐久値が多く削られていくが、俺は気にせず腕を動かす。
「<シールドアタック>!」
俺との距離を取る為か、ウィルが再び盾スキルを発動する。
だが、それは俺にとって好機だ。
俺は後ろに下がってそれを避け、ウィルが硬直時間によって固まっている時に、俺は自分の懐に手を入れた。
菱形の形をした小さい瓶を握り、それをウィルが装備している盾に投げつけた。
狙い外さず菱形の瓶は盾に当たり、その衝撃で割れた瓶から中に入っていた紫色の液体が盾に掛かった。
「これは……!」
紫色の液体が――いや、浴びせられた盾が蒸発するかのように煙を出す様子を見て、ウィルは俺の行為の意味を理解したのか眼を見開いた。
「<ラストディキビィ>」
俺はその盾にこの戦闘で初の強力なスキルを叩き込んだ。
今まで所有者を護り続けて来た頑丈な盾は――
バキン……――
「ッ!」
派手な音をたてて粉々に砕け散った。
「これでアンタにダメージが通るようになった訳だ」
硬直時間から解放された俺は、そう静かに告げた。
「……“酸蝕液”ですか。これまた稀有なアイテムを持っていますね」
空いた左手を眺めて、ウィルは俺に訊いた。
「魔物を殺しまくれば、多少は手に入るものさ」
“酸蝕液”とは、武器や防具の耐久値を最大値の70%削るアイテムだ。これも通常は販売しておらず、ドロップ等で手に入れるしかない。
「何時の間に実体化したんですか? ……まあ、思い当たる節は一つしかありませんけどね」
ウィルは苦笑しながら俺に訊いて来た。
「想像の通りだ」
ウィルに盾スキルによって飛ばされ、俯せになっていた時に、俺は隠していた左手を動かしてウィンドウを操作していた。殺そうと近付く敵の前で、無防備にウィンドウを動かすのは中々肝を冷やした。
「ウィンドウが見えたとは思えませんが……」
「アイテムの順序を記憶していれば問題無いだろ」
見えなくても、操作する事は出来る。それだけで十分だ。
「……貴方の行動には感服しますよ」
ウィルは溜息をついて俺を褒めた。その顔には、まだ苦笑があった。
(……何だ、この感覚は)
何故だか分からないが、俺は彼の表情に悪寒が走った。
ウィルは盾を失って防衛手段が一つ無くなった。“騎士”の俊敏では剣豪の攻撃を避けるのは難しい。同様に守備特化型の戦士スタイルでは俊敏の高いスタイルに攻撃を当てる事も然り。この状況は、俺に確然な優位を与えている。
その筈なのに……何故、焦りが見えない? どうしてそこまで余裕を見せられる?
(何かある……)
俺はウィルの些細な挙動を見逃さないように、油断無く眼を凝らして構えた。
ウィルは俺の疑惑を読み取ったのか、教える為に口を開いた。あの不気味な笑みのままで。
「構える必要はありませんよ。何せ――」
ザスッ――。
「――避けられませんから」
左肩から鈍い痛みを感じる。段々と熱も覚える。
ゆっくりとその原因を確認すると……其処には紫紺に光る矢が貫いていた。
<ミリア>
性別:女
姿:茶髪茶眼
スタイル:無名
“シンベル”で出会った少女。村長の娘であり、次期村長でもある。素直で正義感の強く、誰にでも優しい性格な為、村の皆から慕われている。




