第三十一鐘 祭りの刻
ロイドの家から宿に戻ったハイトとロゼ。お互いに談笑を楽しんでいた時、突如二人にミッションが送られて来る。再び訪れた恐怖に怯えるロゼを今度こそ護ろうと、ハイトは決意した。
燦々と輝く太陽の下、
「ハイト、こっちこっち!」
俺の前を走るロゼが、爛々と顔を綻ばせて俺を呼んだ。
今日は俺以外の人間が待ちに待った、シンベルの祭りを開催している。
ロゼが目指している場所は、村人が総出で作り上げた舞台だ。その上にはまだ誰もいない。
舞台の下では数人の村人が、何か話し合いをしていた。
「あー、寝む……」
朝早くからロゼに叩き起こされた俺は、何度も欠伸をしながらロゼの後を追っていた。
正直凄く眠いが、約束した以上断る事は出来ない。俺は二度寝をさせろと主張する身体を無理矢理働かせ、シンベルの祭りの中を歩いていた。
「ロゼ、よくあんな元気でいられるな……」
俺よりも早く起きたのに、ロゼの顔には疲れた表情など一切無かった。
「ほら、ハイトはやく!」
祭りの事を聞いてから楽しみにしていたからか、それとも雰囲気に当てられたのか、ロゼは今までよりも元気だった。
(もしかしたら、そう見せているだけかもしれないけどな……)
俺の為に沈んだ表情を見せられないのか。
ロゼの心情を把握する事の出来ない俺は、せめて普段通りに振舞う事にした。
「もうそろそろ始まる頃か?」
用意されたテーブルのイスに座るロゼの隣に、俺もイスに腰掛けた。
現在の時刻は六時五十四分。確か、祭りの開催時刻はきっかり七時だった筈だ。
「うん、もう少しで始まると思うよ」
ロゼがわくわくした様子で答えた。
「そうか。なら、始まったら起こしてくれ」
俺は限られた時間で二度寝をする事を試みた。
「分かった――って、ハイト寝ちゃうの!?」
ロゼが驚いた声で俺に訊ねて来た。
「現実世界で引き籠もりさんだった俺にとって、この日光は身体に悪い。よって、俺は身体を守る為に睡眠と言う防衛を――」
最後まで言葉が続かず、俺の意識は次第に暗闇へと導かれた。
「ちょ、ちょっと、ハイトってば!」
ロゼの言葉を無視して、俺は更なる深みに入ろうと意識を手放そうと――
「あ、ほらハイト。お祭りが始まるそうだよ」
「……何だと」
重い眼を開けて、俺は舞台の上を見た。
人影が一人見える。
「……タイミングを考えろよ」
まだ七時になってないのだから、今から始める必要は無いだろうが。
そんな事を思いながら、俺はゆっくりと上体を起こした。
眠りかけていた眼が覚醒して来ると、次第に誰が立っているのかが分かった。
「――お早う、皆の者。早朝からご苦労」
舞台の上に立っていたのは、シンベルの現村長、ロイドだった。
「太陽と月が廻って一年、我々は再び今日と言う良き日を迎える事が出来た」
荘厳たる声を、村人は皆心して耳にしていた。
「これも全てはこの森の自然、そして、シンベルを護って下さった神様のおかげだ。皆、祭りの最中でもその事を忘れてはならない」
(神のおかげ……か)
神は今、この状況を観察してどう思っているのだろうか。
村の平和な日常を祝う村人達。そこに紛れ込んでいる異世界からの異端者。
非日常によって侵略されたこの光景を、何も知らずに過ごす村人を見て、何を考えているのか。
(笑ってそうだな、あの馬鹿は)
「悠々と話しても仕方が無い。私の話は此処までだ」
一旦言葉を切り、
「皆の者、一年ご苦労だった。今日は己の責務を忘れ、気兼ね無く楽しんで貰いたい。今、シンベルの祭り“森幸祭”の開催を宣言する」
ロイドが締めの宣言を言うと、
「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」」」
村人の歓喜に染まった咆哮が森の中に響いた。
「で、最初の遊戯が腕相撲な訳だが……」
互いの片手を握り合い、先に相手の手の甲を試合に使用している台に付けた方が勝ちと言う、誰もが知っているあのアームレスリングだ。
試合は大人と子供、男と女に分かれて、勝ち続けた者が優勝と言うトーナメント形式だ。
当然、俺はこの遊戯に参加しない。こんな澄んだ空気の中で、むさい輩と握り合う必要性を感じない。感じたく無い。
「ハイトは出場しないの?」
既に睡眠体勢が万全になっている俺に、ロゼが訊いて来た。
「メリットが無いからな。俺は野郎と向き合うよりも睡眠学習をする方が良い」
「こういう時は楽しまなきゃ損だよ?」
「これでどう楽しめと」
野郎と汗を掻き合う趣味は無い。
欠伸をして、さあ寝ようと眼を閉じた。
「おいおいそこの少年。こんなよき日に寝るなんて人生損してるぜ? 俺達と熱いバトルを楽しもうぜ!」
閉じた瞬間、横から熱そうな声が聞こえた。
村人が俺に何気なく話しかけて来るようなったのは、昨日の祭りの準備に貢献したせいだ。
「ハイト、君に用があるらしいよ?」
「何を言っているんだロゼ? 俺には何も聞こえないぞ」
こう言う面倒臭いのは無視に限る。俺はそのまま寝続けた。
……が。
「……うおッ!?」
突然左右から上に持ち上げられ、俺は情けない声を上げてしまった。
両隣を見ると、そこには屈強な野郎共が俺を宙に浮かばせていた。
「よし、そのまま舞台の上に連れて行こうぜ!」
「おうよ」
「安心しろ。手荒な真似はしない」
「ふざけるな。誰が参加するなんて――」
言い終わらない内に、そいつらは俺を舞台の上へと運び出した。
「おい待て、話を聞きやがれ! ロゼも見てないで助けてくれ!」
こうなったら仕方無い。俺は旅仲間であるロゼに救助を求めた。
「ハイト、がんば!」
「そう来ると予想してたよ畜生!」
現実は無情である。
<?/ラナ> ※現実/ゲーム
性別:女
姿:茶髪茶眼/桃髪金眼
スタイル:大学生/銃闘士
クリフと同じく、ロゼの過去に登場した『天弧の遊楽団』の副団長。クリフとは夫婦の関係で、現実世界では既に恋人同士だった。多忙のクリフを隣で支え、まさにクリフにとって掛け替えの無い存在。ロゼより年上の女性と言う事もあり、ロゼにとっては姉のような存在だった。因みにクリフよりもラナの方が年上である。姉女房である。




