第三十鐘 悪夢来訪
ロゼを先頭に村長の家へと向かうハイトとウィル。家の前で待っていたミリアと軽い挨拶を交わし、村長の所へと歩を進める。村長のロイドとミリアから、祭りの準備を手伝ってくれた事を謝礼された後、ロイドからあるクエストを頼まれる。次期村長であり、巫女でもあるミリアを儀式の洞窟まで護衛して欲しい、と言うクエストだった。断る理由が無い三人は、このクエストを承諾した。
「良かったのか、あのクエストを受けて」
日も暮れて夜空に散りばめられた星が輝く時間、宿に戻った俺は、ベッドに座っているロゼに訊ねた。
「どうして?」
ロゼは首を傾げた。
「あれで祭りに使う時間が削られたからな。ロゼは楽しみにしてたんだろ?」
祭りの準備を手伝うほどだったしな。
「それはそうだけど……困っている人をほおっておけないよ」
「そう言うと思った」
「もしかして……勝手に決めちゃって迷惑だった?」
ロゼが申し訳なさそうな顔をしたので、
「いや、ただロゼらしいと思っただけだ」
俺は自分の意思を正直に伝えた。
「私らしい……か」
ロゼはそう呟くと、何かを考え込むように俯き、
「ねぇ、ハイトは私の事をどう思っているの?」
俺に訊ねて来た。
「……え?」
ロゼの突発的な質問に、俺は眼を丸くした。
「俺がロゼの事を?」
「うん。答えたくないなら無理して答えなくてもいいよ」
そう語るロゼの眼には、真剣と期待の色に染まっていた。
(何か言わなければならないが、下手な事は言えないな)
「そうだな……」
俺は慎重に言葉を選ぶ為に、ロゼを見ながら真剣に考えた。
(……まず初めに思いつくのは、綺麗だよな)
燃えるような紅い髪、澄んだ蒼い瞳、女神と見間違うような容姿は、行動自体は可愛いが外見は綺麗と言う表現が相応しいだろう。
(……こんな事、面と向き合って言える訳無いだろ)
何考えてんだ俺……。
(なら……何て言う?)
そもそも、俺自身ロゼの事をどう思っているか分かるのだろうか?
(俺にとって……ロゼはどういう存在だ?)
このゲーム世界で初めて会った女性。
このゲーム世界で生き残る為の術を教えてくれた恩師。
このゲーム世界で――
――俺が護るよ――
――誰かを護る事を思い出させてくれた大切な人。
(俺にとってロゼは……)
「綺麗で、可愛くて、ずっと護り続けたいと思う大切な人……かな」
自然とその想いが言葉となって口に出た。
(……あれ?)
よく考えたら……俺、かなり恥ずかしい事言ってないか?
我に帰ってロゼの様子を見ると……。
「あ、あ、あ、あああありがとぅ……」
俯いている顔は、髪と同じくらい朱く、何と言うか……。
(……スゲー可愛い……)
恥ずかしがっているロゼの姿の破壊力は、想像を絶するものだった。
「いや、何と言いますか、今のは無かった事にしてください」
ヤバイ。恥ずかし過ぎて死にそうだ。物凄く顔が熱い。
「無かった事にしてくれって事は……本当だって事だよね?」
墓穴を掘ってしまった……何してんだ俺は……。
「あー、まあ、嘘では無いけどな……」
「…………」
何とも言えない雰囲気の中、俺達は視線を交わさず無言のままでいた。
(何か……この空気をぶち壊す出来事が起きないものか……)
俺がそう願ってしまったからだろうか。
それは前触れも無く聞こえた。
――……ゴーン……ゴーン……ゴーン……――
「「――――!!」」
俺達は鳴り響くケータイを愕然とした眼で見た。
忘れもしない。二度と聞きたく無いメロディーが、俺の耳を貫いた。
「……嘘」
ロゼが虚ろな声で否定するが、それを嘲笑うかのように、一通のミッションが届いていた。
『ミッション 絶対死守
古の伝承に従いしき神の矢を欺き、儀式の洞窟に赴く巫女、ミリアを死守せよ
クリアー:クエスト 巫女の護衛 の成功
ミス:クエスト 巫女の護衛 の失敗
タイム:クエスト 巫女の護衛 の終了迄』
「これが、今回のミッションか……?」
前回のよりも格段に難易度が下がっている気がするのは、俺の気のせいだろうか。
(何か裏があるのか?)
そう感じずにはいられないほど、前のミッションは酷かった。
(何かあるとすれば……古の伝承に従いしき神の矢を欺く、と言う文章か?)
神の矢と言うのが何なのかは分からない。欺く、と言うのだから味方では無さそうだが……。
(何にしても……これでクエストを白紙にする事は出来なくなったな)
するつもりは無いがな。
ケータイを閉じながら溜息をついてロゼに視線を移すと……。
「…………」
彼女はケータイは固く握り締めながら震えていた。
(……何してんだよ俺は!)
ロゼがミッションに人一倍の恐怖を抱いているのは俺も知っているのに、何もせず物思いに耽るなんてどうかしている。
自分の配慮の無さに苛立ちを覚えた。
「ロゼ……」
今更、俺はロゼに声をかけた。
ピクッ、と身体の震えが止まり、ロゼは顔を上げた。
「……大丈夫……私は大丈夫だよ……」
無理矢理笑みを作り、ロゼは俺を安心させるように言った。
「……無理をするな。俺の前で我慢しないでくれ」
ロゼの頭を撫でながら、俺は出来るだけ優しい声で言った。
その言葉を聞くと、ロゼは俺に抱き着いた。
「…………」
俺は何も言わず、ただ頭を撫で続けた。
「私が怪我をしたり、死ぬのはまだいい……君が私の隣からいなくなるのが、堪らなく怖いの……」
「ロゼ……」
こんな時でも俺の事を気遣ってくれるロゼに、心が暖まった。
「安心してくれロゼ。俺は死なない。ロゼと共に生き残るみせる」
どんな事があっても、ロゼを護る。あの時に誓った約束を違え無い。
(ロゼは大切な仲間だからな)
俺はロゼの背中に回した左腕を強めた。
<?/クリフ> ※現実/ゲーム
性別:男
姿:黒髪黒眼/茶髪緑眼
スタイル:大学生/万能士
ロゼの過去に登場した『天弧の遊楽団』の団長。二十歳を超えたばかりの若手だが、優れた判断力と並外れた統率力で、仲間からの絶大な信頼と支持がある。『天弧の遊楽団』を創立したのはクリフとラナ、グルトであるが、それにはある出来事が関わっている。その話を書くかどうかは、作者次第である。
<追伸>
久しぶりにキャラクターの説明を書きました。今回はだんちょーです。因みに、このキャラの由来は某人気ラノベのキャラから取っています。察しの良い人なら分かるかもしれませんね。




