第二十九鐘 村長の頼み
祭りの準備が終了し、人の輪から離れて休憩するハイトの元に、同じく準備を手伝っていたウィルが近寄る。会話の途中でウィルは、自分が地球人である事を明かした。一先ず敵味方どちらになるかを判断する為に、ハイトは様子を見る事にした。その後、ロゼがハイトの前に姿を現し、村長が呼んでいる事を二人に告げ、一向は村長の家へと向かった。
ロゼに案内されて数分。他のよりも一回り大きい家が見えた。
「あれがそうか?」
「うん、あれが村長さんの住居だよ」
やはり、あれが村長の家のようだ。他の家よりも色々な所が立派なその姿は、初めて見る俺でもこれだと分かる。
家の前にまで来ると、一人の少女がこちらに向かって来た。
「ロゼ、やっと戻ったか!」
嬉しそうに喋りながらロゼに向かって突進し、そのままの勢いでロゼに跳び付いた。
「ミリアちゃんお待たせ~」
ロゼは避ける事無く、その少女と抱擁した。
道理で見覚えがあると思った。その少女は、あの時俺を怖がらなかったミリア本人だった。
てか、ロゼはもうミリアと仲良くなっているのか。俺には出来ない芸当だ。
「おお、ウィルも来たのか!」
「久しぶりですね。昨日ぶりでしょうか」
ウィルが俺に会った時と似たような事を言ってミリアに微笑んだ。どうやら、ウィルもミリアと面識があるようだ。
そうなると、ミリアとあまり面識が無いのは俺だけか?
案の定、ミリアは俺の姿を確認しても、さして笑顔にはならなかった。
「お主は確か……ロゼと一緒にいた……」
顔は覚えていたらしい。
「ハイトだ」
交友を深める気は無いので、俺は簡潔に自己紹介をしただけで終わらせた。
「それでミリアちゃん、村長さんは何処にいらっしゃるか知ってる?」
一通り全員との会話が終わったところで、ロゼが話を切り出した。
「うむ、父様は家の中におる。家の中に上がってくれ」
そう答えると、ミリアは先に家の中に入っていった。少し歩いた所で、ミリアは俺達を待つように脚を止めた。
「では、行きましょうか」
ウィルが俺達に声をかける。
あまり待たせるのも意味が無い。俺はそれに頷くと、村長がいる家の中に入っていった。
俺は無言で、ロゼとウィルは「お邪魔します」と一言断って入った。
「私について来てくれ」
俺達全員が家の中に入ると、ミリアはまた歩を進めた。
どうやら、俺達を案内するらしい。
ミリアの後ろを追いながら木製の廊下を進んでいると、一室に辿り着いた。
「父様、連れて参りました」
ミリアが父様と言った男性は、穏やかな顔付きをして、優しいイメージを抱いた。
「ご苦労だったミリア。旅の方もここまでのご足労、感謝する」
なのに、言葉には荘厳の雰囲気が漂っていた。
「初めまして、村長さん。私はロゼと申します」
初めに、ロゼが村長に挨拶をした。礼儀正しく一礼を忘れない。
「お久しぶりです、ロイドさん」
次に、ウィルが村長に一礼をした。どうやら、村長の名はロイドと言うらしい。
「ハイトだ」
最後に、俺がぶっきらぼうに、一方的に挨拶をした。
「は、ハイト……」
ロゼが俺の言葉を咎めるように小さな声で窘めた。
「気になさるなロゼさん。どうぞ、寛いでくれ」
ロイドは俺の態度に気にした風も無く、俺達に座る事を許可した。
俺達はロイドに従い、その場に腰を下ろした。
「私はロイド。ここ“シンベル”の村長を務めている者だ。どうか、心行くまでシンベルに滞在して欲しい」
俺達が座ると、ロイドは一礼をして俺達に挨拶をした。
「私はミリアだ。皆、仲良くして欲しい」
ロイドの隣に座っているミリアが、父親同様に挨拶をした。
「まずは礼を言わせて欲しい。明日行われる祭りの準備に精を出してくれた事、心より感謝する」
そう言って、ロイドは深くお辞儀をした。
「私からも言わせてくれ。皆の為に身を粉にしてくれた事、真に感謝する」
ミリアも俺達に礼を言った。
「いえ、そんな……。大した事はしてません」
ロゼは慌てたようにそう述べた。
「ロゼの言う通りだ。それに、俺はその言葉を聞きに来たんじゃない」
俺はこの場の空気を凍らせるような発言をした。
「ハイト……?」
隣で戸惑った声が聞こえた。
「……と申すと?」
ロイドが俺に静かな声色で訊ねた。
「礼を言いたいなら、述べる方が出向くのが筋と言うものだ。アンタだってそれは分かっている筈。なら、どうして俺達を此処に呼んだのか」
俺は視線を逸らさずに述べる。ロイドはそれを真っ向から受け止めた。
「俺の早合点なら謝る。アンタは何か祭りに関して重大な事を俺達に話す為に、村人から離れた場所に呼び寄せたんじゃないのか?」
「えっ……?」
「…………」
ロゼの驚きに満ちた声、ウィルの待つような無言が室内に舞った。
「……ふむ、君は聡明な頭脳を持っているようだ」
ロイドの顔に笑みが宿った。
「では、ロイドさんが私たちを呼んだのは……」
「無論、君達に礼を言いたかったのは確かだが、その他に私から頼みたい事があったからだ」
ロイドは俺達一人一人の眼を見て、
「私から君達に頼むクエストがある」
そう述べると、ロイドと俺達の眼の前に小さなウィンドウが現れた。
『クエスト 巫女の護衛
儀式の洞窟に赴く巫女、ミリアの護衛を務めよ
クリアー:特定人物の儀式開始
ミス:特定人物の死亡
特定人物の儀式不発
タイム:祭り終了迄
リウォード:1000G
ミドルキューブ×3』
宙に浮かぶウィンドウにはそう表示されていた。
「ミリアちゃんの護衛……ですか?」
ロゼがロイドに確かめるように訊ねた。
「左様。君達は明日行われる祭りが、娘の為だという事をご存知か?」
「はい、知っています」
「私も知ってますよ」
「同じく」
この祭りが次期村長、つまりミリアの為に行われるのは既知の情報だ。
「ならば話は早い。明日の夕刻、ミリアは次期村長として、そしてシンベルの巫女として、シンベルの北西にある儀式の洞窟に赴くのだが……」
そこでロイドはやや視線を下げた。
「ミリアの護衛を務める筈の二人が、先日の魔物との戦闘で負傷してしまった。シンベルにはまだ魔物と戦える者はおるが、村の護衛に回らなければならん」
「なるほど、俺達に行かせようと言う事か」
「如何にも。このクエスト承けてくれるか」
「…………」
俺はその言葉に返事をしなかったが、もう決まったようなものだ。
何故かと問われれば、
「分かりました。私に任せてください」
ロゼが威勢良くクエストを承諾するのを、予期していたからだ。ロゼが困っている人をほおっておけない性格なのは、あの時から分かりきった事だ。
ロゼはロイドに意思を伝えた後、ウィンドウに表示されている『はい』を押した。
「私が断る訳無いじゃないですか」
ウィルも笑顔でそれを引き受け、ウィンドウに表示されてい(ry。
「左右に同じく」
ロゼが行くならば、何もしない訳にはいかない。俺もそのクエストを承諾する為、ウィンド(ry。
「恩に着る」
それを見届けると、ロイドとミリアは深く一礼をした。
「クエストの開始時刻は、明日の十七の時だ。それまでは、我々の祭りを楽しんで頂きたい」
「分かりました。ありがとうございます」
ロゼは礼儀正しく礼を述べた。
「シンベルのお祭り、楽しみにしています」
ウィルが楽しげな声色でそう告げた。
「…………」
俺は話す事も無く、無言のままでいた。
何はともあれ、俺達は村長からのクエストを引き受ける事になった。
<スタイル>
このゲーム世界「ANOTHER REALITY」においてのスタイルの意味は、その人物の特徴を客観的に区別したものである。必ずしもその人物の全てを象徴している訳ではない。スタイルは例外を除き、己の意思で選択する事が出来る。なお、スタイルは三段階に分けられていて、一段階目は「ルーディ」、二段階目は「テリクス」、三段階目は「アテイン」と呼ばれている。それぞれの段階になる条件は、ルーディは、Lv10かつどのスタイルにもなっていない。テリクスとアテインは、それぞれのスタイルによって決められている。一度決めたスタイルを変更する事は不可能。その為、スタイルは職と同等の重要性を秘めており、今後の人生を左右する分岐点でもある。




