第二十八鐘 一時の休憩
起きたハイトはロゼからのメッセージを読み、村では祭りの準備が行われている事を知る。ロゼを探す為、宿の外に出るハイトだが、そこで村人に準備の手伝いを任されてしまう。嫌々ながらも、ハイトは祭りの準備を手伝った。
「おぉ〜い! これで祭りの準備は全て終わった! 皆楽にしてくれ!」
今度は邪魔な荷物を片付ける作業をさせられていた時に、野太い男の声が村中に響き渡った。
(やっと終わったか……)
腕で汗をかいた額を拭って、俺は溜息をついた。
村の人々もお互い手を握ったり、肩を組んだりして分かち合っていた。
「お疲れ様でした。よかったらこれどうぞ」
横から女の声が聞こえた。視線をそっちに移すと、右手に持っている革袋を俺に差し出していた。
「どうも」
軽くお礼を言い、俺は中身が分からない革袋を受け取った。
俺に革袋を渡すと、女は何処かへ行った。
受け取った革袋を見てみると、縦長の形をしていて、先に細い筒のような者が付いていた。
(このゲーム世界での水筒と言ったところか)
軽く揺らす事で伝わる液体独特の感覚が俺の予想を証明した。
周りを見てみると、皆一様に革袋に口を付けて飲んでいた。
俺は少しでも人気の無い所を探すと、人の輪から離れた所に木陰があった。
そこに向かい、俺は木を背にして座った。
革袋の筒に口を付け、俺は中に入っている液体を飲んだ。
(あの時飲んだのと同じか)
喉越しの良い、スッキリとした味のする飲料水を飲むのは二度目だ。
水分を欲しがっていた身体は、革袋の中身の半分を取り入れた。
一息つき、俺は村人を眺めた。
革袋の飲料水を飲みながら、村人はお互いに笑いあったり、肩を叩き合ったりしていた。
あの時だけは、俺を見ても怖がる村人は一人もいなかった。
(それだけ祭りを楽しみにしていると言う事か)
本当は次期村長の為に行う事なのに、他の奴らが楽しみにしてどうするんだ。
そんな事を思いながら、俺は眼を閉じた。
そよ風に身体を預けていると、それに足音が混じっていた。
俺に近づく人間は一人しかいない。俺はある人物の顔を思い浮かべながら眼を開けると、
「こんにちわ。今日も良い天気ですね」
金髪茶眼の男が俺に笑みを浮かべながら近づいて来た。
ああ、そういえばコイツもいたな。
「アンタか」
「はい、昨日ぶりですね」
ウィルは俺の隣に座り込んだ。左手には俺と同じく革袋の水筒を持っていた。コイツも祭りの手伝いをしていたのか。
「何しに来たんだ」
「つれない言葉ですね。特に用事はありませんが、貴方の姿が見えたので」
「用も無いのに俺に関わるなんて、アンタ相当の変わり者だな」
殆どの人間が俺を避けるというのに。
「そうですかね? 昨日会話をした人に声をかけるのは、さほど変では無いと思いますが」
「俺にとっては変わっているよ」
そんな面倒な事をする人間の思考が理解出来ない。
「ふむ、中々難しいですね」
思案するように手を顎につけて、ウィルは眼を閉じた。
「会ったその時からお互いは家族、と言っていた日本人がいたんですけどね」
「――――!?」
俺はその言葉に驚きを隠せなかった。
会った時から家族とか、そんなどうでもいい話にではない。
(何故、コイツの口から日本人なんて単語が出てくるんだ……?)
「アンタ……PCか?」
でなければ、日本人と言う単語を知っている筈が無い。
「あ、そういえば言ってませんでしたね。そうですよ、私は現実世界からログインさせられた、歴とした地球人です」
「…………」
油断していた。外見が日本人では無かったから、ここの村人かNPCの旅人かと思っていた。
(阿呆か……幾ら外見が日本人じゃ無くても、外国からだってこのゲーム世界にログインさせられるんだ)
ウィルの外見がここの村人に良く似ていたから、勘違いをしていた。
「…………」
「警戒しますか。無理も無いですよね」
俺の心中を読んだのか、ウィルは苦笑した。
「信じてもらえるかどうか分かりませんが、私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
真剣な顔でウィルはそう言った。
「……まあ、嘘を言っているようには見えないな」
「分かって頂けてなりよりです」
安堵した顔をするウィルに、
「今はな。今後どうなるかは分からないだろ」
俺は真実を突き付けた。
「それでも、今は納得して頂けるのでしょう?」
「……そういう解釈もあるな」
(前向きと言うか、ポジティブと言うか……)
俺が呆れていると、
「ハイトぉ〜」
聞き慣れた声が遠くから聞こえた。
そっちに眼を向けると、ロゼが手を振りながらこちらに向かって来た。
「よう」
立ち上がって俺はロゼを迎えた。
「ハイトもお祭りの準備を手伝ってたの?」
「手伝ったと言うか、働かせられた」
「あはは、断る事が出来なかったんだ?」
「勝手に話を進めるからな」
「……あれ?」
そこでロゼが俺の隣にいる存在に気づいた。
「ハイト、そちらの人は?」
「ああ、コイツはウィル。ただの通行人Aだ」
「あながち間違いでは無いですが、流石に変更を所望します」
「ただの人間だ」
「まあ、合格ですかね」
これで良いらしい。
「よく分からないけど、ウィルさんとは仲がいいんだね。よかった」
「…………?」
何が良いのだろうか。
……まあ、良いか。
「ウィル、こっちはロゼ。俺の旅仲間だ」
「初めまして。ハイトの相棒であるロゼです」
……否定しない方が良いんだろうな。
「こちらこそ。宜しくお願いします」
ロゼとウィルが握手を交わした。
(もう交遊を深めているな……)
俺も今後を考えると、見習った方が良いだろうか?
「それで、ロゼは俺を探していたようだが、何かあったのか?」
「あっ、そうだった。ハイト、一緒に来て。村長さんが私たちに会いたいって言ってたから」
「村長が? 俺何かしたか?」
村人から俺に対して苦情でも来たか。
「違うよ。お礼が言いたいんだって」
「お礼……?」
言われるような事をした覚えはないが。
「恐らく、祭りの準備を手伝った事ではないでしょうか?」
「そんな事でか?」
確かに疲れたが、大した事では無い筈だ。
「ウィルさんの言う通りだよ。無下にするのも失礼だから、会いに行こう?」
「……はぁ、分かった」
面倒だが仕方が無い。面会しに行きますか。
「ウィルさんにも用があるみたいですから、一緒に来ませんか?」
「分かりました。お供します」
ウィルは嫌な顔せずに、ロゼの意見に同意した。
「よし、じゃあ行こう!」
そう言って、ロゼは俺達に背を向けてスタスタと歩いた。
俺もロゼを追おうと、一歩脚を踏み出した時、
「良い人ですね」
ウィルが話しかけて来た。
「まあな」
「プレゼントの相手はあの方でしょう?」
「ああ」
「もう渡しましたか?」
「……いや、まだだ」
あの時に渡すタイミングを失ってしまい、あの翡翠のネックレスは今尚俺のアイテム欄にある。
「そういうのは早く渡してしまった方が良いですよ」
「元よりそのつもりだ」
何の為に買ったのか分からなくなるからな。
「ハイトー、ウィルさーん、早く行きましょうよー」
遠くからロゼの声が聞こえた。もうあそこまで歩を進めていたようだ。
「それでは行きましょうか。あまりレディーを待たせる訳にはいきませんから」
ウィルが微笑み、先に歩みを進めた。
俺も二人の後に続き、村長の家へと向かった。
<ブラストカーテン>
風魔法スキルの一つ。詠唱者の周囲に風のカーテンを発動させ、一時的なバリアーを作る。スカートを着用している方は要注意。属性は風。禁止時間は1,8秒。




