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ANOTHER REALITY  作者: マンドラゴラ
休章 もう一つの軌道
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番外編11 戻れない関係

 圧倒的強さを見せ付けるグルト。その差にロゼと団員達は、次第に絶望感を募らせて行く。そんな中、最後まで諦めないクリフの姿に団員全員が励まされ、戦い続ける事を決意した。

 戦況は熾烈を極めた。

 壁役がグルトの行動を出来るだけ止め、後衛がグルトの隙を広げ、私達攻撃役がダメージへ繋げる。戦略パターンは変わっていない。むしろ変えられない。壁役が一人でも欠けた瞬間、私達の敗北は決定してしまうからだ。

 だけど、私達だって収穫が無かった訳ではない。

 壁役の四人がグルトの行動を阻止する。

 グルトは壁役の団員達を力尽くで吹き飛ばす。

 グルトの注意が壁役に行っている内に、後衛がグルトをスタンさせる。

 その隙を攻撃役が攻撃する。が、今回はスタンが弱かったようで、一早く立ち直ったグルトは私達の攻撃を出来るだけ躱し、反撃をする。

 これの繰り返しをしている内に、私達は一つの疑問を覚えた。

 グルトは私達の攻撃を出来るだけ避けようとしている。

 HPが・・・減らないのに・・・・・・

 私達から受ける攻撃を無視して、強引に攻撃した方がグルトにとって楽に勝利出来る筈。

 その不可解な行動の裏に、勝利の鍵が眠っていると私達は確信している。


「良いぜ良いぜ、そのまま俺様を楽しませる為に動き続けろ!」


 グルトが喜々とした表情で拳を、脚を、身体全体を武器に駆け巡る。グルトの速度はあれからどんどん速くなり、壁役が翻弄されるようになっていた。

 それでもその団員達は一人も諦めの表情をせず、一心不乱にグルトを追い詰めた。


「ふん、さすがに面倒くせぇな……」


 そう呟くと、グルトは壁役団員の一人を掴み、


「飛んでこいや!」


 密集していた壁役へと投げた。

 三人いた壁役団員はその攻撃に耐え切れず、地面に倒れてしまった。


(まずいっ!)


 ダメージなら魔法で何とか出来る。しかし、体勢はどうしようもない。この単純な攻撃で少しの間、壁に穴が開いてしまった!

 当然、この好機をグルトが逃す筈が無く、その間を通って後援へと矛先を向けた。


「させるかッ!」


 私と同じ攻撃役のソールが、グルトの行く手を阻んだ。


「邪魔だ引っ込んでろ!」


 グルトが拳を振るうが、ソールは冷静に大剣で防ぐ。


「そう言われて引っ込む程、臆病じゃないんでね!」


 ソールは身に合わない大剣を上手に扱い、ダメージを受けながらもグルトを後援に向かわせない様に立ち回った。


「せあっ!」


 すかさず私もグルトの背後から攻撃を仕掛けた。卑怯だとか言っている場合じゃない。今の状況は生きるか死ぬかだ。


「チッ!」


 さすがに前後からでは不利だと感じたのか、グルトが逃げようとする。

 

「<ファントムトラクト>」


 ラナさんがグルトを逃がさないように、横から見えない弾丸を撃つ。


「<ソードソニック>!」


「<グレプション>!」


 私は七連の突きを放つ剣スキルを、ソールはクリティカルが必ず発動する剣スキルを横薙ぎに放った。

 前後からの強力なスキルのダメージは、無敵(?)状態のグルトにも恐らく効くだろう。


「……それがどうした?」


 と、抱いていた淡い希望をすぐに壊された。


「一々相手すんのも面倒だ。――死ね」


 グルトの、絶対零度の世界に凍らされたような眼で私を捉える。

 

(逃げないと――っ!)


 頭の中ではそう思っているのに、身体が言う事を聞かない。その眼で私の身体も凍らされたんじゃないのかと、一瞬思ってしまった。


「やめろッ!!」


 硬直時間から開放されたソールが私を守ろうと、再び攻撃しようとする。他の団員達も同じように行動した。


「うるせぇよ」


 声も冷たくグルトは発し、片足を思いっきり地面に叩きつける。

 大地が、揺れた。


「「「「「!?」」」」」


 その場にいるグルト以外の人達が体制を崩す。団員全員がスタンしてしまった。こんな攻撃も出来るの……!?


「安心しろよ。一瞬で終わるからよ」


 グルトが手刀を作り、私の首をはねようと横に斬った。


「………………………………………?」


 と、思って眼を瞑ったのに、一向に痛みが来ない。


(それとも、本当に一瞬で、痛みなんて感じる事無く死んじゃったのかな)


 もしかしたら、眼の前に広がる光景は死後の世界なのかもしれない。そう考えながら恐る恐る眼を開けると、そこは森の中で、周りを見渡すとクリフさんやラナさん、ソール、そして他の団員達の姿が見られた。

 ほっと息をつくのも束の間、私はすぐに疑問を感じた。


(なんで、私は生きてるの?)


 他の団員達が動いていないなら、私はグルトに殺されている筈だ。どうして息をしているのか。

 座り込んだまま上を見てみると、そこには胸を押さえ、何かの苦痛に歪めたような表情のグルトがそこにいた。


「グッ……こんな時に……」


 グルトが小さく呟いた声を、私はしっかり聞いた。一体グルトの身に何が――。


「ロゼちゃん!」


 ラナさんの叫びに、ハッと我に返る。

 そうだ。眼の前に敵がいるのに、ボーっと座り込んでいる場合じゃない!

 慌てて後ろに跳び、グルトとの距離を取る。その間、クリフさんがグルトに迫っていた。


「決着をつけよう、グルト」


 クリフさんが剣を構え走りながら言った。


「へッ、良いぜ死ぬのはテメェだ!」


 まだ左胸の辺りを押さえながらも、グルトは空いている手で拳を作る。

 これでこの戦いは終わる。グルトがクリフさんの一撃でやられるか、クリフさんが後衛の治癒がかかる前にグルトがやるか。

 私達は固唾を飲んで見守る。クリフさんを援護するのが仲間として当たり前なのに、何故か動こうとしなかった。


「<ハードブレイク>」


 グルトとの間があと一歩の差になった時、クリフさんが剣スキルを発動させた。


(<ハードブレイク>って、クリフさんなんでそんな隙の多いスキルを――!?)


 <ハードブレイク>は威力は高いものの、スキル発動の前後に大きな隙を相手に与えてしまう、状況によってはとても危険なスキルだ。グルトの体勢はほぼ直っているのに、どうして……。

 私がそんな懸念を抱いている中、両者が動く。

 その光景を、私はスローモーションで見ているような錯覚に囚われた。

 クリフさんの剣が頭上高く掲げられる。<ハードブレイク>の初撃モーションだ。こうなった以上、もうクリフさんは自分の意思で<ハードブレイク>をキャンセルする事はできない。

 グルトもタイミングを計るように、腰を落としながら相手の剣を観察している。

 その行動に、私は違和感を覚えた。

 <ハードブレイク>発動中のキャラは、このゲーム世界のシステムに従って他の動作をする事は出来ない。相手にとっては絶好のチャンスだ。

 なのに、何も起こさない。グルトは剣を持ったクリフさん・・・・・を見ているだけで、何もしない。

 そして、ついにクリフさんの剣がグルトへと下ろされる。

 その流れをグルトは――――眼を瞑って、穏やかな表情で待っていた。


「――――え?」


 私が無意識に発した一言の間に、もう終わっていた。

 グルトは確かに斬られ、地面に倒れる。それでも、やはり身体に傷は無く。血も出ていない。外見は無傷で、どこも悪いようには見られなかった。

 それなのに、グルトは起き上がらない。仰向けに倒れたまま、上を見ているだけだった。

 私はグルトから、グルトのHPバーを確認する。PKアイテムによってあれだけ黒く点滅していたHPバーが、空っぽになっていた。

 グルトのHPは、ゼロだった。


「……どうして?」


 あれだけ攻撃しても減らなかったHPが、何故今になって無くなっているのか。私は理解できず、ただ倒れているグルトと、それを見下ろしているクリフさんを眺めていた。


「それが代償だったんだよ」


 いつの間にか、私の横にソールがいて、静かにそう告げた。


「……代償?」


 代償とは何だろう。私は聞いた事が無い。

 ソールは頷いて言葉を続けた。


「PKアイテムは使用者に絶大な力を与える代物だ。それを利用してPCやNPCを殺す道具として広まったから、それはPKアイテムと呼ばれるようになったんだ」


 それは聞いた事がある。このゲーム世界には、大きな力をすぐに手に入れる事ができるアイテムが存在すると。

 

「だけど……等価交換ってやつかな。PKアイテムによって力を得た者は、それの対価を支払わなければならないんだ。このPKアイテムの効果はステータス上昇と無敵。対価は……」


 ソールは言い難そうに口を閉じたが、私が眼で続きを促すと、おもむろに話した。


「……恐らく、己の寿命だ」


 私はそれを聞いて、納得したと同時に身体が凍った。


 ――……くそ、グルトの奴なんでそんな物に……!――


 今更ながらソールのあの言葉の意味が分かった。グルトは不死身になったんじゃない。不死身の振りをしていただけなんだ。


「グルトがそれを知らなかった筈が無いんだ。PKアイテムの説明ウィンドウには、その代償が記されている筈だから」


「……なら、どうしてグルトは……」


 そんな物に、手を染めたのか……。


「それは、グルト本人にしか分からない事さ」


 ソールは首を横に振るだけだった。

 私はソールから再びグルトへと視線を移す。彼はもう眼を開けておらず、安らかな表情で眠っていた。もう、その真実を訊ける者はいない。

 視線をクリフさんへと向ける。クリフさんはもう眼を開ける事の無いグルトを見ていた。その表情は、俯いていてよく見えない。

 その身体をラナさんが後ろから包むように抱きしめていた。

 彼の身体から失いかけている温もりを分け与えるように。

 彼の分までと、その両眼からは大粒の涙が流れていた。

 周りを見渡すと、団員全員が暗い表情をしていた。ボスクラスの敵を一人欠ける事無く勝利したとは思えない程の、悲痛な顔だった。

 私はまた、グルトに視線を戻す。

 突然だけど、「天弧の遊楽団」は三つの部隊に分かれている。

 一つは、クリフさん率いる壁役。

 一つは、ラナさん率いる後衛。

 そしてもう一つは……グルト率いる攻撃役。

 グルトは、私達攻撃役のリーダーであり、クリフさんをラナさんと共に支える友だった。

 PTパーティが崩れかけた時、グルトは攻撃役なのに何時も前に立ち、私達を守ってくれた。

 その後姿は、とても勇敢だった。

 何時だったか、ラナさんが話してくれた事がある。

 この「天弧の遊楽団」は、クリフさんとラナさん、そしてグルトの三人で立ち上げたのだと……。

 私は無言でそれを思い出していた。

 もうこの世界にはいない、彼の魂。彼は今、何を思っているのだろうか。

 答えの出ない問題を私は頭から捨てて、一人静かに黙祷を始めた。

 あの時までお世話になった彼の事を想って……。

 <ブルクラッシュ>

 剣スキルの一つ。縦に斬り下ろし、返して再び斬り下ろしの計三連撃。硬直時間は約二秒。ちなみに、このスキル名の切る所は、ブル/クラッシュではなく、ブルク/ラッシュである。

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