番外編10 死闘開始
PKアイテムを使ったグルト。その強さに押されそうになるロゼとソールだが、タイミング良くクリフとラナ、団員全員が二人に合流した。
「戦闘配置はBだ。落ち着いて行動してくれ」
クリフさんの指示の元、私たちは決まった位置に瞬時に移動する。戦闘配置Bは一対全員で戦闘を行う時のフォーメーションだ。壁役が敵の周りを囲み動きを抑え、攻撃役が隙を突いて攻撃、後衛が後方で仲間を援助する。これは他の人たちもやっている基本の戦術だ。
「はッ、何をするかと思えば、ただ俺様の周りに立つだけかよ」
グルトが周りを見渡しながら言う。口では軽い事を言っておきながら、眼は真剣そのものだった。流石と言うべきか、クリフさんやラナさんと一緒に戦っていたのは伊達じゃない。
あいつは強い。それはこの前まで仲間だった私たちが一番知っている。
油断や、情けは死に繋がる。敵だと決めた以上、全力で戦わなければならない。
私が最後の決意を固めた瞬間、グルトが動いた。
「こんな紙壁、スキルを使う程でも無い!」
グルトは適当に壁役の一人をただの拳で叩く。
ドォン、と激突音が響き、エフェクトを撒き散らしながらその壁役は後ろに吹っ飛んだ。
「嘘……」
私は思わずそう呟いた。今吹き飛ばされた団員のスタイルは“騎士”だ。“騎士”は、全スタイルの中で最高峰の守備力を誇る超防御型の戦士スタイルだ。当然、装備している物も“騎士”専用の盾、鎧を装備していて、敵の攻撃を受け止めるのに十分な守備力があるはずだ。
なのに、ただの通常攻撃でこうも簡単に吹き飛ばすなんて……。
私は今更ながらPKアイテムの力を思い知った。甘く見ていた。まさかこんなに人を強くさせるなんて……!
「き、<キュア>!」
後衛の一人の意識がこちらに戻り、慌てて治癒魔法を詠唱する。今の魔法で何とかその団員のHPが全回復する。
「<レスレイション>!」
他のもう一人が違う魔法を詠唱した。今は<レスレイション>と言う治癒魔法の一種で、対象者の装備している武器防具の耐久力を全回復する、この戦術では必要不可欠な魔法だ。
「おらおらどうした、こんなんで俺様を止められると思ってんのか!」
グルトの攻撃は止まらない。そのまま一人、また一人と壁役の団員たちを次々に吹き飛ばす。あわや隊列が崩れるといった寸前で、クリフさんが止めに入った。
グルトの蹴りを盾で防ぎ、そのまま剣でグルトに攻撃を仕掛ける。
グルトはその攻撃を難なくかわすが、流石にクリフさん相手に無茶な行動はしないのか、そのまま距離をとった。
「クリフよぉ。お前一人で戦った方が良いんじゃねぇのか? こんなザコ共と一緒に戦ってもお荷物が増えるだけだぜ?」
グルトが周りにいる団員たちを見下ろすような眼で見ながら言い、最後にクリフさんを見た。
悔しいけど……私はその言葉を否定する事が出来ない。私は攻撃役なのに、全然グルトにダメージを与えていない。何の為にクリフさんや壁役の団員たちが身を張って攻撃を止めているのか。
「そんな事は無い」
俯きかけていた私に、クリフさんのまっすぐとした声が聞こえた。
「私が団長をやっていられるのも、ここまで強くなれたのも、全て仲間が私を支えてくれたからだ。私はそんな団員達を荷物だなんて思わない」
その言葉が弱気になっていた私の心を励ました。
そうだ、俯いている暇は無い。そんな事をしているなら、敵の隙を逃さないように眼を凝らせ。
「そして――私の仲間を侮辱するのは誰であろうと許さない」
怒りも含んだ声を放ちながら、クリフさんはグルトとの距離を一気に殺す。
クリフさんは“騎士”専用の巨大な盾を装備しているせいで俊敏が低いと感じるけど、クリフさんのスタイル“万能士”は元々俊敏は比較的高い方なので、初見のプレイヤーはその速さに驚く。
「チッ!」
生憎グルトは元「天弧の遊楽団」の団員だったから、まったく驚きもせずクリフさんの攻撃をかわす。
「ハッ、そんな幼稚な攻撃しかできねぇのかよクリフ!」
次々と繰り出される剣筋を危なげなく交わし続けるグルトは、余裕綽々と挑発を言う。
「君に無い力で君を倒すのが、私の戦術でね」
「あ? 何言って――ッ!」
グルトの疑念に思った声は、戦場に響いた銃声によって止められた。
「私のスタイル、忘れた訳じゃないでしょうグルト?」
両手にそれぞれ装備した片手銃をグルトに向けながら、ラナさんは不敵に微笑んだ。よく見ると、二つの片手銃の銃口からは煙が出ている。
ラナさんは“銃闘士”というスタイルで、名の通り銃を駆使して戦う人だ。遠くからの攻撃を得意とするスタイルで、前衛の人に気を取られている敵を不意に攻撃し、隙を作る事に長けている。
「<ファントムトラクト>」
追い討ちをかける様にラナさんはスキルを発動する。見えない弾丸を放つ<ファントムトラクト>では、さすがのグルトも避けられなかったようで、大きな隙ができた。
それを確認した瞬間、私は全速力で前進した。この好機を逃す訳にはいかない。
他の団員たちも見逃しはしないようだ。ある者は私と同じく剣や槍、斧などの近接武器を携えて接近し、またある者はラナさんの様に弓や銃、魔法などで遠距離攻撃を図る。つまりは一斉攻撃だ。
私たちがグルトの元に着く前に、後衛の遠距離攻撃がグルトに炸裂した。魔法による煙を撒き散らす中、私たちはそれに気にぜず各々のスキルをグルトにぶつけた。
「……ハッ、さすが「天弧の遊楽団」だ。一糸乱れぬ行動は尊敬に値する」
まだ煙が立ち込める中、そんなグルトの声が聞こえた。それには一切の嘲りなどは無く、本当に尊敬の念が込められていた。
「だが……悲しいかな。俺様も認める集団でもこの程度しかダメージを与えられないんだからな!」
どうっ、と煙が何かの力で吹き飛ばされたかのように一気に消えた。
そしてそこには――ズボンのポケットに両手を入れ、何事も無かったかのように佇むグルトの姿がそこにあった。
「嘘……だろ……」
団員の一人が虚ろに言葉を発した。その眼には、言葉同様どの感情も映してなかった。
「お前らに宿るのは絶望か? はたまた諦観か? 安心しろよ。俺が直ぐ感じなくさせてやるからよ!」
グルトは再び勢いよく駆け出した。
「がはッ!」
と、思った瞬間団員の一人が攻撃を受けていた。
(……え?)
私は呆然と人が飛んでいる光景を見ていた。私がグルトが駆けたと視界に入れた直後、もう誰かが攻撃を受けていた。つまり……。
(明らかに俊敏値が上がっている!)
しかも普通ではない。私の想像を超えた量のステータス補正がグルトにかかっている。正直眼で追うのが厳しいぐらいだ。
「早く止めないとコイツ死ぬぜ!」
無常にも私たちが固まっている間も、グルトは攻撃の手を休めるつもりは無く、眼を疑うスピードで団員のHPを削っていった。
「<ダンシングスラッシュ>!」
一足早く意識が戻ったクリフさんが、急いで剣スキルを発動して救出する。助け出された団員は一割を切っていてギリギリだった。
「<キュア>!」
再び団員の治癒魔法が癒すが、その間グルトは何もせず、その行動を見守っているだけだった。
(……手加減している)
それは私の、団員たちの闘争心を再び掻き消そうとする。グルトはこの戦闘で手を抜いても勝つ事が出来るほど、優位に立っているのだ。
(私達に、勝機はあるのかな……)
だめだ。弱気になっちゃだめだ。
そう理解してるのに、意思がそれを上回る。身体が震える。剣を握る力が弱まる。
「さてクリフ、こんな状況でもまだ俺様に刃向かおうとするのか? 諦めるなら楽に死なせても良いんだぜ?」
それは甘い誘惑だった。このまま絶望的な戦闘を続けるよりも、いっそ一思いに殺してくれた方が苦しまずに済むのではないだろうか。
(どうせ、私達がこんな化け物に勝つなんて――)
「断る」
断固とした意思を持った声で、クリフさんはその誘いを撥ね除けた。
「私は諦める事が嫌いな性格でね。君も知っているだろう?」
「……ああ、知ってるぜ。お前の諦めの悪さは天下一品だ。そのせいで俺様がどんなに危険な目にあったか」
「それはお互い様だろう? 君の無謀に近い行動を何回も支えたんだ。それぐらいの我侭は聞いてもらいたいものだ」
「テメェの我侭なんて聞きたくもねぇよ。……その諦めの悪さで仲間が死んだら、どうするつもりだ?」
「私がそこまで仲間を巻き添えにすると思うか? いざとなったら、団員達を逃がすまで君と戦うさ」
……クリフさんは諦めてない。クリフさんはまだ負けるつもりは無い。
なら、部下である私達はそれに従うべきじゃないのか。この状況の中でも私達を気遣う団長に、私達は……少なくとも私は最後まで共に戦いたい。
(もう、覚悟を決めろ。ここまで来たんだ。今更逃げるなんて格好悪すぎるでしょ、私?)
「……こいつらもお前に似てきやがったよメンドクセェ……」
溜息をついて面倒くさそうに首を振るグルト。周りには、私と同じ思いを持った団員たちが各々の武器を構えていた。
「……良いのか?」
クリフさんが最後の確認をする。
「ああ、覚悟は決まったぜ」
「僕も役に立てるように精一杯頑張ります」
「最後まで戦い抜きますよ、団長」
皆笑顔でそれに答える。私も笑顔で頷いた。
「……そう言う事だ。我々は君を倒すまで諦める事は無いぞ、グルト」
「ああ、そうみたいだな」
グルトが眼を瞑りながらまた溜息をついた。
そして――
「なら、俺様はこの場にいる敵全てを殺すまでだ」
開いた眼には、燃え盛る炎の如き敵意があった。
<ラストディキビィ>
剣スキルの一つ。最高クラスの威力の単撃を放つ。硬直時間は約3秒。
<追伸>
本当はこの話と次の話を一つにする予定でしたが、あまりにも長くなったので二つに分割しました。なので、次の話も早く投稿出来ると思います。たぶん。おそらく。




