番外編9 優しくない会話
無事クエストを完了する事ができ、休憩を取っていたロゼの視界に、元仲間のグルトの姿を捉える。妙な胸騒ぎを覚えたロゼは急いでグルトを追う。グルトの傍まで来ると、グルトの狙いは自分である事を知り、大人しく従う事にしたロゼの後ろから、仲間のソールが止めに入った。その後グルトはソールの挑発に乗り、PKアイテムを使用した。
私の視界を塗りつぶしていた漆黒の光が、徐々に弱まっていく。
やっと眼を開けられるようになった私の眼に映ったのは、漆黒の光を纏ったグルトだった。
「なんだ……いったいなにが……」
ソールが状況を把握しきれず、その場に立ったまま何もしない。私は一体何が起こるのかと、神経を限界まで研ぎ澄ませて様子を伺った。
「――――良いねぇ」
突然、顔を天に向けているグルトが静かに言った。その静けさに、私は悪い予兆を感じていた。
「……ロゼ。一体何が起ころうとしているんだ? アイツは何を使用したんだ?」
ソールが微かな声で私に尋ねてくる。そうか、ソールはグルトが持っていたアイテムについて何も知らないんだ。だから、あんな挑発を……。
「グルトが使ったのはPKアイテムよ」
「――――!! ……くそ、グルトの奴なんでそんな物に……!」
私はソールの発言に引っ掛かりを覚えた。彼はそんな物『を』ではなく、そんな物『に』と言った。それはまるで、グルトの身を案じているかのような……。
「お別れはすんだか? ならとっとと始めようぜ。楽しい楽しい残虐をな!!」
そう叫ぶや否や、グルトは信じられない速度で私たちの距離をつめた。
「ちッ!!」
私は反応出来なかったが、ソールがグルトの攻撃を防いでくれた。ソールはその細い身体には似つかない程の両手剣に対し、グルトは素手だった。なのに、ソールが押されている。
「おらおらどうしたァ! その剣は飾りかよ!」
「くッ……。ロゼ、皆を呼んできてくれ!」
ソールが私を見ずにそう指示した。
ソールが私にそう指示したのは、今の戦力ではこの状況を打開出来ないと判断したからだろう。もちろん、私もそれに賛成だ。
「待ってて、すぐに呼んで――」
「その必要は無い」
私が駆け出そうとした時、この雰囲気ではまったく合いそうにも無い程穏やかな声が響いた。
こんな光景を見てここまで穏やかな声を出せる人は、私が知っている中でただ一人。
「クリフさん!」
「待たせたね、と言っておこうか」
クリフさんの後ろには、ラナさんと団員たちが全員揃っていた。
「どうしてこんなに早く気づいたんですか?」
休んでいた所からこの場所までかなりの距離があるはずだ。会話や戦闘音が聞こえるはずが無いのだが……。
「すまない、どうしても気になって、途中から君の後を追っていたのだ。そしたら不穏な音が耳に入ってね。急いで駆けつけたのさ」
クリフさんはこんな状況でも冷静に説明すると、視線を私からあいつへと移した。
「……グルト、こんな事をして何になるというのだね」
それは穏やかな池の中に巨大な魚が暴れ回っているような、そんな不思議な声だった。
「テメェに教える義理はあるのかよ、団長さん?」
それに怖気づかないグルトは、例えるなら薬物乱用者のような顔をしてつき返した。
「君は『天弧の遊楽団』の一員だったからね。団長として心配するところがあるのさ」
「へぇ~。そりゃあご苦労な事で。ウザイ迷惑だから今後はやるなよ団長様?」
「貴様、師匠に何という口の聞き方を!」
団員の一人(クリフさんの事を『師匠』と呼んでいる人だ)が、激昂して抜刀しかけるが、クリフさんが片手で制して怒りのやり場を失い、乱暴に剣をしまった。
「一つ訊きたいのだが、君はこの場を去る気は無いのかな?」
「はぁ? 何言ってんだお前。気でも狂ったのか?」
「君が大人しくこの場を去ってくれれば、我々は何もしない。もちろん、今後一切団員達に手出ししない事も条件だがね」
ポカンとした表情が、徐々に赤色に染められていき、
「……ざけんじゃねえぞ」
声に怒りの感情が侵入してきた。
「テメエ自分の立場分かってんのか? 俺は今最強なんだよッ! ザコごときが俺様に指図してんじゃねえッ!!」
そう吼えると、グルトはクリフさん目掛けて駆けた。
「引いてはくれないか」
やれやれと首を横に振り、クリフさんも戦闘態勢に入る。
右手に身の丈ほどの盾を前に構え、拳を防ぐ。
クリフさんは“万能士”と言う変わった特性を持つスタイルだ。“万能士”は資格スキルと言う固有スキルを持ち、それを上げると、そのスタイルしか装備出来ない専用装備を装備する事が出来るようになる。クリフさんの装備している盾も、本当は“騎士”というスタイルしか装備できない専用装備だ。ゆえに、ソールでは防ぐ事が精一杯だった攻撃も、クリフさんが装備している盾なら易々と弾き返す事が出来る。
「皆、戦闘態勢に入れ。躊躇わず敵を撃破しろ」
そう団長は決断した。途端、団員たちの空気が一気に切り替わる。
元仲間に向けられる視線には、敵意と殺意しかなかった。
「へえ~、俺を殺すねぇ? やってみろよ。すぐに己の愚かさに気づくだろうがな!」
グルトが獰猛な笑みを浮かべながら指をコキコキと鳴らす。もうこの争いは勝敗がつくまで終わらないだろう。
私は皆を助ける為、そして自分が生き残る為、鞘から剣を抜いた。
<ポーションとキューブの違い>
ゲーム世界『ANOTHER REALITY』には二種類の回復アイテムがある。一つは『ポーション』。もう一つは『キューブ』だ。
ポーションはHPが少しずつ回復していく物で、そのまま最大HPまで回復する。だが、回復中に新たなダメージを受けると、そこで回復は停止してしまう。また、その時に新たなポーション、キューブを使用する事は出来ない。従って、ポーションを使用しているPCは、前線に出ないのが普通である。
一方、キューブは一気にHPを一定量回復する事が出来る。また、ポーションは直に飲まないと効果が得られないのとは違い、アイテム名と対象名を言うだけで、範囲内にいる対象者にアイテムの効果を与える事が出来る。ただ、キューブはポーションと比べて高価で入手が難しい。
二つの特徴を理解し、適切な対応をする事が大切である。
(例)
・ポーション…0,1秒毎に最大HPの0,1%を回復する。
・ヒールキューブ…最大HPの30%を回復する。
<追伸>
スーパーサボリタイム。他の娯楽に夢中になっていました。今後もこのぐらいの更新速度になる事が予想されますので、許して下さい。
上でポーションとキューブの違いについて説明してますが、実はこれはこの話を書いている時に思いついたもので、以前の十鐘で使用したポーションとはまったく違う効果となっています。今後はこういう効果に変更しますので、ご理解とご協力の方をお願いします。これからもこう言う事が度々起こるかもしれませんが、温かい眼で見守ってください。




