「天野翔太」
「あーまの君! おっはよー!」
…zzz(そいつは元気に呼びかけてきた。とりあえず寝るふりをする俺)
「あーまの君! 起きて~!」
…zzz(そいつは元気に命令してきた。とりあえず寝るふりをする俺)
「天野君! 朝だよ、起きてっ!」
…zzz(そいつは俺に揺さぶりをかけながら起きる理由を表明してきた。とりあえず寝るふりをする俺)
「天野君! 朝ですよ~! 起きる時間ですよ~!」
…zzz(そいつはさらに揺さぶりをかけながら起きる理由を強調してきた。とりあえず寝るふりをする俺)
「…起きろやー!!!」
…そいつは声を荒げて…ん?…「うわっ!??」
ベッドごとひっくり返された俺。110°くらい傾き壁にぶつかったベッドを手で押しのけ、家に侵入してきて俺をたたき起こした生命体をベッド越しに凝視した。するとそこにいたのは、巨乳でロリロリな異世界からきた魔法少女………ではなく、美少女アイドルの幼馴染………でもなく、最近隣に引っ越してきた転校生の少女だった。名前は確か…月影 瞳。…なんでだ?なんで月影 瞳は、ここにいる?
「…今、何時だと思ってるんだお前」
そう言ってから、とりあえず時計を見た。アナログな掛け時計は朝の五時をお知らせしてくれた。
「ただいま4:58でございまーすっ」
笑顔でお答えしてくれた。俺が再度質問をしようとすると…
「5:00 起床
5:08 ランニング開始
6:03 帰宅
6:05 シャワー
6:12 勉強
6:55 録画をしていた深夜番組観賞
7:30 さらにもう一本
8:05 登校
8:30 チャイムと同時に着席 という感じだっけ? で、五分前行動のため、4:55に参りましたー☆」
早口に俺のいつもの予定を確認した後、左手をあげ、高らかに宣言…まじかよ、わざわざ俺の行動パターンを調べたっていうのかよ。さらに、なんだ、withる気満々というわけか?…ふむ、赤のジャージ姿、それに鞄とサブバック…それに綺麗なショートカット、幼めの顔、百五十くらいの身長…
「どーしたの?天野君」
まじまじと見ていたら怪訝そうに言われた。…。
「なんでお主はここへ参った?」
「一人より、二人のほうが楽しいかな~と思って」
ニコニコしたまま、そう言ってきた。…!…確かこいつ…。
「そういやお前、陸上部入部したんだっけ?」
「な、なぜそんなこと知ってるんですか!? もしかして天野君、ストーカー…」
「あるわけないだろ(あるとしたらそれはあんたのほうだろ)、自己紹介でそんなことを言ってたような気がしたからな」
「気がしたって…まぁ、天野君、机にほぼうつ伏せだったもんね。朝から放課後まで」
あきれたように言われた。眠いもんは仕方がない。さて、どうしようか…。
「まぁ、そんなことは置いといて、朝のランニングに参りましょう」
やる気十分だな。…!…うむ。
「わかった。すぐ着替えるから、玄関で待っててくれ」
「りょーかいー!」
月影は鞄とサブバックを置き、颯爽と出て行った。…いまさらだが、どうやって家に入ってきたんだ? 俺は疑問を抱いたまま着替えを始めた。
******
走りなれたいつもの道。青い空。白い雲。隣には月影。
「良い天気だね~!」
「そうだな」
「あ! あの猫さん可愛い~!」
「そうだな。ところで、前の学校では400m専門だったのか?」
「な、なぜそんなこと知ってるんですか!? もしかして天野君、ストー「なんでそうなる!」
「…勘だよ、勘。それより、今日はなんの日か知ってるか?」
「はい? 普通の平日なのでは?」
「今日は帝櫻中学の創立記念日だ」
「…え?! てことは今日は…」
「あぁ、休みだ。先生の話はよく聞くように」
まぁ、一年のときは知らずにひとり、登校したけど。
「そんなの聞いた覚えはないよ~…。じゃあ、天野君は今日はどうするの?」
「今日は、俺の一目惚れした子に会いに行く」
「一目彫れ…? お、女の子に告白しに行くんですか!?」
「…。関東の天才スプリンター、星空祐輝にだ」
「星空…祐輝…。あぁ! なるほど、ライバルの敵情偵察をするんだね!」
月影は、確信気味だ。
「…。まぁ、似たようなもんだ。うーん…お前も来るか?」
俺は月影を誘ってみた。こいつにとって良い刺激になるかもしれないしな。
「デ、デートのお誘いでありまするか?!」
月影は顔を赤らめて、こっちをまっすぐ見つめてきた。…いや、違うんだが。
「これは、そんなもんじゃない。ランクS級の最重要任務だ。油断は即死に繋がる」
俺は凛々しく訂正した。…まぁ、間違ってはいないだろう。
「わ、わかりました体長! 心して懸かります!!」
「うむ。期待しているぞ」
…うん、ツッコミ役がいなくなってしまったようだ。まぁ、大丈夫だ、問題ない。
…待ってろよ、星空祐輝―――
次話に続くきます。