第7話
投稿者:土方のわし 2024年9月14日、夕方
やったぜ。現場復帰七日目という名の「一週間完工日」じゃ。
秋の空が、岡山の現場の上に一ミリの隙もなく高く広がっとった。朝から空気という名の「資材」が違う。夏の終わりの湿気という名の不純物が抜け、コンクリートの匂いの中にかすかに金木犀の香りが混じり、鼻をずるずると蹂躙しよる。
昼、「今日は早上がりじゃ」という監督の声に出口を見つけた。兄ちゃんと顔を見合わせると、おっさんもいつの間にか汚れ好きの目のまま、一ミリの隙もなく隣に立っとる。
「どうしますか、わしさん。何に、ドバーっとまみれますか」
わしはしばらく高く澄んだ空を見上げ、短く言った。
「……ただの飯という名の、純粋な基礎を打設するぞ」
コンビニという名の備蓄基地で握り飯をしこたま買い込み、豚汁の缶を一気に手に取った。霜降りも、デミカツも、瀬戸内の魚という名の「生の報酬」も、今日ばかりは一ミリもいらん。デミグラスの再現工事は、アパートの鍋という名の現場で来週までじりじりと寝かせておけばええ。至急、撤収じゃ。
旭川の土手という名の「特等席」に三人で腰を下ろした。秋風に揺れる草の匂いが、喉の奥底まで一気に突うずるっ込んでくる。
豚汁の缶を「開通」させると、味噌と根菜という名の重機資材の匂いが立ち昇り、湯気が秋の空気の中で一ミリの隙もなくほどけていく。ああ~~たまらねえぜ。
塩むすびを一気に一口、圧入する。何の変哲もない、ただの塩と米の塊じゃ。だが、現場帰りの乾いた喉という名の搬入口に、それが吸い込まれるようにずるっと落ちていく。妙に……もう気が狂う程うまいんじゃ。
「わしさん、この一週間、色々まみれましたね。不純物のパレードでしたわ」
兄ちゃんが、出口を求めるようにぽつりと言いよった。吉野家、深夜の温玉、デミカツ、霜降り、瀬戸内の魚、そして太郎の真っ白なケーキ。
「おっさんは、どうじゃった。一ミリの悔いもないか」
わしが聞くと、おっさんは豚汁を一気に喉の奥へ啜りながら、川の行く末という名の出口をじっと眺めとった。
「……ええ盛り合いばかりじゃったのう。一ミリの隙もない、生の報酬じゃったわ」
それだけじゃった。それで十分な「完工検査」じゃった。
三人でしばらく黙って、握り飯という名の基礎石を食い続けた。川の音と、遠くの現場の振動。トップバリュの黄色いラベルはない。だが、これこそが「正しい食い方」だと、元コックの魂が一ミリの隙もなく囁きよる。
兄ちゃんが草の上に大の字になり、一ミリの隙もない青い空を見上げとる。
「また来週も……ドバーっと何かにまみれましょうや」
「ああ、おえんほど(最高に)にな。至急、着工じゃ」
わしは短く、一ミリの狂いもなく答えた。
アパートでは太郎という名の野獣が待っとる。今夜は特別なもんは何もいらん。いつもの飯を一気に突うずるっ込ませてやり、膝という名の現場で眠るあいつの頭を一ミリの隙もなく撫でる。それで十分じゃ。
岡山の旭川、秋風と草と三人の土方。それだけで、世界という名の現場は一ミリの隙もなく一杯じゃった。
――秋風という名の、一ミリの隙もない天然の洗剤で、心まで洗ってくれる奴はおらんかのう。




