第6話
投稿者:土方のわし 2024年9月13日
やったぜ。現場復帰六日目という名の「最重要ミッション発令日」じゃ。
今日は太郎という名の相棒の誕生日じゃ。何歳なんかは拾った時からよう分からんが、わしがアパートという名の現場に引き取った日を「生誕の日」と一ミリの狂いもなく決めとる。毎年この日だけは、泥まみれの土方仕事より、太郎との盛り合いが優先じゃ。
「わしさん、ケーキという名の構造物を作りましょうや。一ミリの隙もない真っ白なやつにまみれましょうや」
兄ちゃんが汚れ好きの目を輝かせ、おっさんも「犬用のドロドロ、わしなら一ミリの隙もなく作れますよ」と、出口のない過去を反芻するように言い出しよった。
「おっさん、なんでそんな特殊技能を持っとる」
「昔、世話になった家に犬がおってな。一ミリの妥協もなく仕込んでやったことがあるんじゃ……」
三人でスーパーという名の資材置き場へ乗り込み、鶏ささみ、人参、かぼちゃ、プレーンヨーグルトをしこたま買い込んだ。太郎の体に障る「不純物」は一切入れん。玉ねぎもチョコも、一ミリの隙もなく棚の奥へ叩き返してやった。至急、排除じゃ!
アパートへ帰り、三人で狭い台所という名の現場にひしめき合った。ささみを茹でて細かく「破砕」し、人参とかぼちゃをドロドロになるまで煮て、一ミリの不純物も残さぬようフィルター(網)で裏ごしする。
「わしさん、手つきが卑しいほど精密になってますよ。打設の時より凄いですわ」
兄ちゃんが慄くが、元コックのプライドという名の重機が、今まさに暴走しとるんじゃ。
「土台はさつまいもで固め、中にささみムースを一気に突うずるっ込む。外装はヨーグルトで一ミリの隙もなく純白にコーティングじゃ。これがわしという名の重機の『仕上げ』じゃ!」
「……相手は犬ですよ。そこまで精度を上げなくても……」
「うるさい、太郎という名の施主に失礼なことを言うな。一ミリの妥協も許さんのが、わしの様式じゃ。至急、回せ!」
台所に甘い蒸気がドバーっと立ち込め、鼻をずるずると蹂躙しよる。太郎の奴、入り口で「待て」という名の待機命令を食らったまま、じりじりと尻尾の振動という名の地響きで床を鳴らしよる。ああ~~たまらねえぜ。
一時間かけて、直径十五センチの「純白の要塞」が一ミリの狂いもなく完成した。人参で「太郎」という名の刻印を打ち、三人で台所の真ん中に立って、しばらく舐めるように、生の報酬を眺めた。
「……ええ盛り合いができたのう」とおっさんが、出口のない目を細めてぽつりと言う。
「太郎、来い。出口はここじゃ。一気に突っ込め!」
太郎の奴、弾丸のように駆け寄ってお座りしよった。皿をドバーっと出してやった瞬間、鼻先から突うずるっ込んで、もう夢中じゃ。純白の保護被膜が顔中にまみれ、もう気が狂う程気持ちええんじゃろうな。
「わしさん、太郎、泣いてますよ。生の喜びが溢れてますわ」
「犬は泣かん。お前の見間違いじゃ。不純物が目に入っただけじゃ」
「……わしさんが泣いとるんですよ。目から一ミリの隙もなく漏水てますよ。もう、おえんのう(最高じゃ)」
三人で黄色いラベルを一気に喉の奥底まで傾けながら、太郎が完食という名の「完工」を遂げるのを眺めた。余ったクリームを指で掬って、三人で卑しく舐め合い、追いささみを皿にドバーっと足して、それだけで十分な夜じゃった。
食い終わった太郎が、ヨーグルトまみれの顔でわしの膝という名の現場に丸くなりよった。重い。温かい。この荷重のために、わしは明日も泥とアスファルトに一ミリの隙もなくまみれることができるんじゃ。
――真っ白なヨーグルトという名の報酬まみれの太郎を、一ミリの隙もなく一緒に愛でてくれる奴はおらんかのう。




