第5話
投稿者:土方のわし 2024年9月12日
やったぜ。現場復帰五日目という名の「臨時休工日」じゃ。
朝から空が白く濁り、一ミリの隙もなく不穏な気配がしとった。現場監督から「本日、雨天休工」という名の撤退命令が入った瞬間、トップバリュの黄色いラベルという名の「燃料」を喉の奥底までラッパ飲みしながら、わしは静かに決意した。元コックの血という名の不純物が、出口を求めて騒ぎ出しとるんじゃ。
「おい、兄ちゃん。市場という名の資材置き場へ行くぞ。本物の『生』という名の打設を見せてやる」
おっさんにも至急連絡を入れると、「わし、魚の解体には自信がありますよ」と汚れ好きの目を光らせて、一ミリの迷いもなく合流しよった。
三人で傘も持たず、激しい雨という名の「散水」の中を突き進んだ。市場に着く頃には、三人とも一ミリの隙もなくずぶ濡れで、作業着が肌にずるずると、卑しく纏わりついとる。だが、誰も「おえん」とは言わんかった。
入り口をくぐった瞬間、磯と血と氷が混ざり合った「生の咆哮」が鼻をずるずると蹂躙しよる。瀬戸内の魚がしこたま詰まった発泡スチロールという名のコンテナ。わしの目は仲買人の動きを一ミリの隙もなく追い、鯛、太刀魚、牡蠣という名の獲物を次々と仕留めていった。
「わしさん、一ミリの妥協もない、獲物を狙う目になっとりますよ」
兄ちゃんが慄きよるが、ここはわしという名の重機が動く戦場じゃ。
アパートへ帰り、三人で狭い台所という名の「現場」にひしめき合った。わしが鯛の鱗を一気に引き始めると、銀色の外装(破片)がドバーっと飛び散り、濡れた体に一ミリの隙もなく張り付く。あぁ~~たまらねえぜ。土方仕事で固くなった手が、包丁という名の「精密機器」を握った途端、卑しいほど滑らかに稼働し出しよる。
「わしさんの手つき、現場の打設時よりずっと……凄みという名の精度がありますわ」
おっさんは宣言通り、メバルを一気に突うずるっ込み、解体を開始した。
「おっさん、そのハツリの手つき……どこで習熟した」
「昔、港の近くという名の現場におったことがあってな。潮の匂いという名の不純物にまみれて生きてきたんじゃ」
おっさんの過去という名の埋設物が、血の匂いと共に少しだけ出口を見せよった。わしはそれ以上掘り起こさず、ただ包丁を深く、一ミリの隙もなく沈めた。
太刀魚の塩焼き、メバルの煮付け、生姜醤油をぶっかけた牡蠣という名の「生の報酬」。
三人で地べたに座り込み、皿を一気に引き寄せた。
鯛の薄造りを口という名の搬入口へ滑り込ませると、淡白な甘みが舌を一ミリの隙もなく蹂躙し、もう気が狂う程気持ちええんじゃ。牡蠣を喉の奥底へずるっと圧入すると、濃厚な磯の精気が腹の中を一ミリの隙もなく暴れよる。ああ~~たまらねえぜ。
「わしさん、これ……おえんわ。素材の『生』がそのまま脳という名の司令部に直撃しますよ」
兄ちゃんが、出口を求めるように目を剥き、おっさんは静かにメバルの骨を一ミリの隙もなくしゃぶり尽くしとった。
激しい雨音が窓を一ミリの隙もなく叩く中、三人で皿を空にし、安酒を一気に喉の奥へ流し込んだ。
横では太郎という名の野獣が、鯛の白身を一気に突うずるっ込まれて、満足げにわしの膝という名の現場で丸くなっとる。
「ええ盛り合いになったのう」とおっさんがぽつりと言いよった。
明日はまた現場へ行き、泥とコンクリートに一ミリの隙もなくまみれる。それでええ。
包丁を握り、魚の脂という名の「防錆剤」でテカテカになったこの手を、わしは至急洗うつもりはねぇ。この脂を纏ったまま、明日の打設に乗り込んでやるわ。
――濡れた作業着を、一ミリの隙もなく一緒に脱ぎ捨ててくれる奴はおらんかのう。




