第3話
投稿者:土方のわし 2024年9月10日
やったぜ。現場復帰三日目という名の「安定稼働」じゃ。
今日の昼飯は、兄ちゃんが前々から「わしさん、一回漆黒にまみれに行きましょうや」と誘い続けとった配給所へ、ついに重機(胃袋)を乗り込ませることにした。岡山が誇るソウルフード、「デミカツ丼」という名の特殊舗装じゃ。
暖簾をくぐった瞬間、空気が一ミリの隙もなく変わった。デミグラスという名の深い、獣の咆哮のような匂いが鼻をずるずると蹂躙しよる。揚げ油の香ばしさと混ざり合い、腹の中で出口を求めるように胃袋という名の重機が、ドバーっと鳴り出しよった。
カウンターという名の現場に腰を据え、わしと兄ちゃんは揃って「デミカツ丼の大盛」を発注した。
しばらくして運ばれてきたどんぶりを、わしは一ミリの狂いもなく眺めた。
艶やかな黒褐色のデミグラスが、サクサクのカツという名の基礎の上に重く、ねっとりと、一ミリの隙もなく纏わりついとる。このソースの照り、もはや芸術という名の「完璧な打設」じゃ。元コックの目が、黙って現場の精度を採点しよる。
まずはそのまま一口、喉の奥底まで圧入する。衣がソースという名の不純物を吸い込みながらも、奥の肉を噛むと脂と肉汁がドバーっと溢れ出し、もう気が狂う程気持ちええんじゃ。ああ~~たまらねえぜ。
「わしさん、どうですか。一ミリの隙もなくデミグラスに突うずるっ込まれる気分は」
兄ちゃんが汚れ好きの目を輝かせとる。わしはもう一口、生の報酬を享受した。噛んで、飲み込んで、喉の奥底にデミがずるっと落ちていく重圧を確かめた。
「……おえんわ。この複雑なコクという名の配合は、一朝一夕の突貫工事じゃねぇ」
牛骨と野菜を長時間、一ミリの妥協もなく煮込み、酸味を引き出したソースが、豚の脂を一ミリの隙もなく受け止めるとは思っとらんかった。理屈じゃねぇ、口の中で初めてわかる「漆黒の盛り合い」じゃ。
「わしさん、唸ってますよ。ソースだくだくという名の浸水工事で行きましょうや」
「うるさい、黙って食え。集中せんとおえん。一ミリの隙も逃すな」
二人でデミグラスまみれになりながら、思い切り完食した。ソースの追いがけを発注し、からしを端に塗り、二杯目の白飯にソースをドバーっと染み込ませる。これぞ男の漆黒郷じゃ。ああ~~たまらねえぜ。
食い終わった後、わしはしばらく空の丼の底という名の「現場跡地」を眺めとった。このドロドロとした配合、アパートの鍋で再現できるかもしれん。元コックの執着という名の重機が、ゆっくりと鎌首をもたげよった。
帰り道、兄ちゃんが「わしさん、また盛り合いに来ましょうや」と言いよった。
「兄ちゃん、この現場、よく来とったんか」
兄ちゃんは少し間を置き、「……親父と、たまに。一ミリの隙もない思い出っすよ」とだけ言って、出口のない目を細めて黙りよった。わしも何も言わんかった。二人の影が、岡山の路面に長く、漆黒のデミグラスのように伸びとる。
太郎には今夜、デミ抜き、玉ねぎ抜きの一ミリの隙もない「素」のカツを土産に持って帰ってやる。昨日の牛皿を平らげた汚れ好きのツラで、また膝という名の現場に頭を乗せてくるじゃろう。それでええ。
アパートの鍋は、今夜はまだ動かさん。まずは太郎をカツまみれにしてやってからじゃ。
漆黒の再現工事は、明日からじゃ。
――デミグラスという名の不純物がついた作業着を、一ミリの隙もなく洗ってくれる奴はおらんかのう。




