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やったぜ。3  作者: 水前寺鯉太郎


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第2話

投稿者:土方のわし 2024年9月9日

 やったぜ。現場復帰二日目という名の「本格稼働」じゃ。

 昨日の約束通り、吉野家という名の配給所から牛皿をしこたまテイクアウトして帰ってきた。紙袋を提げてドアを一気に突うずるっ込んだ瞬間、太郎という名の弾丸が玄関という名の終着点まで一ミリの隙もなく走ってきよる。

 尻尾がプロペラのようにブンブン回り、爪が安フローリングという名の地盤を激しく掻きよる。

「分かっとる。お前の出口は、この茶色の袋の中じゃろ。至急、待て!」

 パックを開けると、甘辛いつゆという名の「生の潤滑油」の匂いが鼻をずるずると蹂躙しよる。現場の疲れが骨の奥底でぐるぐると出口を探しとるが、太郎の顔を見たら、わしの胃袋まで「一気に突っ込んでくれ」と咆哮しよった。

 元コックとして、まずは神聖な選別作業ソートじゃ。玉ねぎという名の「不純物」の排除。くたくたに煮えた資材を、箸という名の精密重機で一枚一枚、一ミリの隙もなく取り除いていく。犬に玉ねぎはおえん。これは現場の絶対鉄則じゃ。

 つゆに染まった黄金色の不純物を自らの口という名の処理場へひょいと放り込みながら、太郎の分という名の「純粋な報酬」だけを皿に盛る。これだけで立派な深夜残業じゃ。

「待て。一ミリも動くな。もう少しで開通じゃ」

 太郎の奴、お座りのまま、じっとわしの手元という名の現場を見つめとる。尻尾の振動という名の地響きが床に伝わって、じりじりと音がしよるわ。皿をドバーっと置いてやると、勢いよく頭を突っ込んで、あっという間に一ミリの隙もなく完食しよった。顔を上げたとき、鼻の頭につゆの雫という名の「勲章」をひとつついとった。あぁ~~たまらねえぜ。

 そこへ、ドアを現場のハツリ作業のように激しく叩く音。

「わしさん、メシという名の芳醇な不純物が漏れとりますよ。至急、盛り合いましょうや」

 元左官屋のおっさんじゃ。手にはトップバリュの黄色いラベルを二本、凶器という名の「冷却材」として提げとる。

「入れや。出口は開けとる」

 おっさんは汚れ好きの目のまま、土足同然で上がり込んできた。気がつけば兄ちゃんも匂いを嗅ぎつけて合流し、三人と一匹の深夜の宴という名の「合同打設」が、出口を求めるように始まったんじゃ。

 追加の資材はコンビニの温玉。冷蔵庫の奥底に眠っとった昨日のつゆを鍋で温め直し、煎り酒をほんの少し垂らして一ミリの隙もなく味を締める。これが元コックの執着という名の「仕上げ」じゃ。

 三人で丼に盛り、温玉をそっと崩す。一ミリの隙もない白濁した堤防が決壊し、黄身がつゆの中にドロドロとほどけ、白い飯という名の基礎をゆっくりと汚していく。箸で底から持ち上げると、肉と卵と飯が一塊になって、生の報酬として崩れた。

 口の奥底まで圧入すると、もう気が狂う程気持ちええんじゃ。ああ~~たまらねえぜ。

「わしさん、太郎の食いっぷり、現場の俺らより一ミリの隙もなく行儀がええですわ」

 兄ちゃんが、出口のない目を細めて笑う。太郎の奴、皿をきれいに舐め終えて、じっとわしの丼という名の「次なる現場」を狙いよる。

「もうないぞ。あとはわしの腹の中に、一ミリの隙もなく突うずるっ込むだけじゃ」

 そう言うと、太郎はわしの膝という名の「定位置」に頭を乗せて、汚れ好きの目を閉じよった。重い。温かい。この積載荷重が、現場帰りのボロボロの体にドバーっと染みよるわ。

 おっさんも兄ちゃんも、最後にはアパートの床に大の字になって天井を見上げとる。誰も一ミリも喋らん。こういう夜は、静かに不純物にまみれるのが一番豊かなんじゃ。

 岡山市内のアパート、今夜は三人と一匹の温もりで一ミリの隙もなく一杯じゃった。

 太郎は、最後までわしの膝の上という名の現場から動かんかった。

 

 ――こんな夜が、また一ミリの隙もなく続けば、おえんほど最高じゃのう。

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