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やったぜ。3  作者: 水前寺鯉太郎


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第1話

投稿者:土方のわし 9月8日

 今日から現場復帰じゃ。

 一週間、太郎と二人でアパートにこもっとった。冷蔵庫には業スーのレトルトカレーが積み上がって、部屋中が香辛料の匂いになってしもうたが、今日ようやくコンクリートと機械油の匂いに戻ってきた。体が現場を思い出しよる。

 昼飯は、先日メールをくれた汚れ好きの土方の兄ちゃんと、岡山の2号線沿いにある吉野家へ来た。こいつとは現場で何度か一緒になったが、無口なわりに飯の時だけ「出口を求める」ような勢いで食う、わしの好きなタイプじゃ。

 店に入った瞬間、牛丼のつゆの匂いが鼻をひくひくさせてきよる。空腹が腹の中でぐるぐると出口を探しとる。給料日前の景気づけじゃ、今日は奮発して「アタマの大盛」、それと生卵を三個、しこたま頼んでやった。

 わしは元コックじゃ。若い頃は大阪の割烹で包丁を握っとった。だからこそわかる。この吉野家の、何万食と煮込まれた肉の照り、角の取れた玉ねぎの甘さ。本物の仕事には隙がない。それがわかるようになったのは、現場で泥まみれになってからじゃ。

 まずはそのまま一口。肉が喉の奥へずるっと落ちていくと、甘辛いタレが舌の上で暴れ、もう気が狂う程気持ちええんじゃ。

「わしさん、卵、いっちゃいましょうや。黄金にまみれましょうや」

 兄ちゃんが横から誘いよる。わしは言うが早いか、生卵三個を丼の端で割り溶き、どんぶりの上にドバーっと流し込んだ。真っ白なご飯が黄金色の卵液で覆い隠されていく。

 これぞ男の黄金郷エルドラドじゃ。あぁ~~たまらねえぜ。

 箸で底からひとすくい。卵がまだ半熟のドロドロのうちに口へ運ぶ。肉と飯と卵が一体となって崩れる感触。割烹で修業しとったころ、「料理とはなんぞや」と半分本気で考えとったが、答えは今もわからん。ただ、うまいもんはうまい。それだけじゃ。

 そこで不意に、太郎の顔が浮かんだ。

 あいつは今頃、アパートで『食いしん坊万歳』を見ながら鼻を鳴らしとるじゃろう。一週間、わしの足元で丸まっとったあの温もり。鼻の奥がツンとしやがった。

「待っとれ太郎、今夜は牛皿をテイクアウトしてやる。玉ねぎは毒じゃからわしが食うが、肉はたっぷり突うずるっ込んでやるわ」

 

 紅生姜をてんこ盛りにして、七味をひと振り。汁を追加で頼んで、どんぶりの底までドロドロに染み込ませる。汁だくこそが「正しい食い方」じゃ。最後の一粒まで搔き込んで、丼を置いたとき、一週間分のカレーの澱が溶けていく気がした。

 食い終わった後は、パンパンになった腹をさすりながら、午後の現場へ向かう覚悟を決めた。

 岡山の2号線沿い、土方姿で紅生姜のかけらをシャツにつけたまま歩いとる親父がおったら、それがわしじゃ。

 吉野家遊びにつきあってくれる奴、おらんかのう。

 ――Tポイントカード、持ってきてくれると最高じゃけどな。今のわしには、そのポイントすらおえんほど愛おしいんじゃ。

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