此処から見えるもの
なぜ俺はこんな大事なことを忘れていたのだろう
俺の青春。俺の大切な人…
ある日の休み時間。友達の居ない俺はいつも通り自分の机に突っ伏していた
「なーに考えてるの?」
隣の方から女の声が聞こえた。今日も女達は仲良さそうに騒いでいる。
「女はいいよなー、友達が作りやすくてさ。」
俺は机に顔を伏せたままそう呟いた
「じゃあ友達になってよ」
女はそう口にした。聞き間違いか?まるで俺の言葉に返事をしているかの様だった
「聞ーてるの?あなたに言ってるんだよ〜」
と、女は俺の肩を小突いて言った
「な、なんだよ!」
俺はあまりの突然のことに大きな声を出してしまった
クラスメイトの視線が俺に集中している。
俺はその状況に耐えきれず駆け足で教室を出ていく
「……私悪いことしちゃったかな」
俺はそのまま家に帰る事になった。
「だ、誰だったんだあいつ…突然驚かせやがって…!!」
俺はベッドの枕に顔を埋めながら、そう呟いた
そのまま寝ようとするも何故か心がモヤモヤして上手く寝付くことができなかった…
次の日。いつも通り遅刻ギリギリで登校すると、下駄箱には昨日の女が居た
「こ、こんな時間にあいつが居るなんて珍しい」
俺の上履きはそいつの下駄箱の1個上の場所にある
そいつのモタモタした動きを無視しながら俺は自分の上履きを取って教室へと向かった
階段の後ろにいるそいつを俺は見ながら登っていった
「怪しい動きをしたら俺が怒ってやるんだ」
心のなかでそう思いながら時分の教室がある4階へと階段を登っていた
しかし、3回の踊り場から4階への階段に行く時
「キャーーーー!!!!」という声とともに
女の姿が見えなくなった。10秒ほど待ってみても出てくる気配は全くなかった
「も、もしかして、転んだのか?」
無視して教室に行くべきか?でも、もしかしたら怪我をして危ない状況かもしれない
でも時間が無いぞ?決めるなら今だ。
俺は階段を駆け下りた
「大丈夫か!?」
俺はそいつのいる所へと声を出した
そいつは窓の外を見ていた
「え?どうしたの?」
「え、だって、悲鳴が…?」
「ん?それは、通り過ぎて行った違う子の声だよ~」
そして、俺の方を不思議そうな顔で見ていた
「それより、ここから私の家が見えるんだよ〜小泉君のは見える?」
「な、何してんだ…?」
俺は呆気にとられた。なんせ、そいつに緊急事態でも起きたのかと思ったのに、来てみれば満面の笑みで笑っている姿があった
俺はその光景に安心した。が、その時に気まずい感情も一緒に流れてきた
「お、俺は先に行くからな!授業遅刻すんなよ!」
自分の行動に恥ずかしがりながら階段を1段飛ばしで走って行った
「待って!!」
窓を見ていたはずがこちらを見ながら俺を止めた
「ど、どうしたんだ…?」
俺は何か大事なことを言われるような気がして身構えた
「じ、実は私…」
ゴクッ…
「1人で教室行くの恥ずかしいから一緒に行って欲しいの!」
「はぁ!?」
俺はそいつのおかしな言葉に頭が追いつかなかった
「な、なんで俺がお前なんかと一緒に行かなきゃなんだよ!」
「だってー、遅刻しちゃったし…?」
女は髪をクルクルしながらそう言った
「じゃあなんで窓なんか見てたんだよ?」
「だって、遅刻しちゃったからもうどうしようもないかなってー、」
「……」
俺はそいつと一緒に階段を登っていた。嫌な顔をしている俺とは対照的にニコニコ笑っている。
「なんでこんなことになってんだ…?」
オレは心の中で呟いた
そうして、教室に着き二人で入った
「えぇ〜今日の予定ですが…」
担任の前田が朝礼をしていた
「また遅刻か!小泉!!しかも、齋藤まで居るのか!?
2人とも廊下に立っとれ!!」
「な〜んで、こんなことになってんだ〜、」
俺は廊下の壁に背を付いて愚痴をこぼした
「怒られちゃって悲しい?」
俺の機嫌を伺うかのように俺の顔を覗いてきた
「当たり前だろ~毎回ギリギリを狙って登校してるのに、久しぶりに遅刻したな~」
俺は独り言のように言った
「私は嬉しいけどね」
齋藤は笑いながらそう言った
「嬉しいわけないだろ?廊下に立たされるなんて…」
「うんうん。だってこうして小泉君と話せているんだもん」
斎藤の言葉に俺は一瞬、思考が止まった
「そ、そんなことが嬉しいのか?」
「うん!だって、お話したいのに
毎回机から動こうともしないんだもん」
「なんかごめんな…(笑)」
俺は斎藤の横顔に何故だかドキッとした気がした
今日は学年が上がり新3年生になったことで知らない人も居るので自己紹介の日だった。
「えー、小泉直也です。元2年1組です
好きなことは絵を描くことです。よろしくお願いします!」
俺は典型的なコミュ障だった。声も小さく誰も拍手をしてくれなかった
――ただ一人を除いて
「よろしくー!」
それは、出席番号1番の阿部亮太という子だ
阿部くんの拍手のおかげでみんなも拍手をしてくれた
「たまには、いいやつもいるもんだな…」
俺は心の中でそうつぶやいた
「はい、じゃあー次は、遅刻の齋藤だなー」
そう前田が呼んだ。その時クラスにはドッと笑いが巻き起こった
「マエセンやばいってー! 面白すぎー!!」
「お前ら笑ってる場合じゃないぞー、齋藤みたいに遅刻はするんじゃないぞー」
「はーい。分かっりました〜」
だが、笑いは斎藤が前に立っても止まることはなかった
「おいおーい。お前ら、一旦落ち着くんだー」
前田の一言でやっと、笑いが収まった
「あ、齋藤です。元2年3組です…
あっ、好きなことは外を眺めることです…よろしくお願いします…」
齋藤の声は俺の100分の1程度しか出ていなかった
誰も拍手をしようとしない。とっさに阿部君の方を見たが
後ろの席のやつと話をしていた
「ちょっと皆!拍手してあげなよ!!齋藤が可哀想じゃん!!」
その時立ち上がったのは、出席番号33番の山崎友子さんだ
山崎さんは1年生の頃から学年で人気者の存在だ
正直コミュ障の俺には苦手なタイプだと思ってたけど、意外と優しいやつなんだなぁと思った
山崎さんの影響で皆も拍手をし始めた
「あ、ありがとう…」
齋藤は席に帰る途中で山崎さんにお礼を言った
「当たり前じゃん!男子ってホント人の話聞かないんだもん
困った時は私に任せてよね!」
「うん…!」
そうして、山崎さんも自己紹介を終え、全員が自己紹介をした
「さっ、全員の自己紹介も終わったところだし、席替えでもするか〜」
その時クラスで歓喜が起きた
席替えというワクワク感はどれにも置き換えられない
俺は六番を引いた。1列6席なので1番後ろということだ
「やったぁ…!!」と心の中でガッツポーズをした。
席は場所ももちろん大事だが、周りの人間がもっと大事だと思っている
男子来い、男子来いと願いつつあの人を待っている節をある
結果はやはり予想していた通り窓側の1番左下だった
「前には男子2人で隣には女子か…とりあえず、前の2人とは仲良くしたいな…」
もう前の2人は仲良さそうに喋っている
「と、とりあえず寝ていようかな…別に話しかけられない訳じゃないけど…」
出鼻をくじいたと思った俺はまたいつも通り伏せようとしたら
「まーた、寝ようとしてるじゃん」
何か聞き覚えのある声。いや、まさかそんなわけ…!
「齋藤か!?」
「隣になったね」
右を見るといつも通り笑っている斎藤が座っていた。
「よ、よろしくな」
神は存在しないと思っていたがそんな考え消えてしまうほど
こんなの神の遊び以外の何物でもないだろ…
そうして、席替えをしてから1週間と経った
前の2人とは話せるようになっていた
向かって俺から左の方が橋本陸君だ
そして、その隣にいるのが望月陽向君だ
2人はあだ名でハッシーとモッチーと呼ばれている
俺が通っている小学校には帰る方面によってグループが分けられてある。
俺と一緒の赤グループなのは、阿部君と山崎さんが一緒だ
ハッシーたちは隣の緑グループだ。斎藤はもっと遠くの黄色グループだ
それからハッシー達とは家に帰ってからすぐに公園で遊ぶほど仲が良くなった。
いつも通り3人で遊んでいると、恋バナへと話は進んで行った。
「小泉は、好きな人居ねぇの?」
モッチーが俺に聞いた。俺はその頃好きな人という概念を知らなかった。
「んー、多分居ないよ?」
「多分ってなんだよ笑
ほら、心がキュンとなる相手だよ!」
「キュン…」
俺は齋藤の顔が浮かんだ。あの日の気持ちは''それ''なのではないかと、
「おい、突然真剣な顔してどーしたんだ?小泉?」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。モッチー達はいないの?すきなひと」
「俺は絶対山崎さん一択だなー
優しいし、なんたって可愛いんだもんなー、」
モッチーは即答で山崎さんと答えた
正直俺も山崎さんと言ってしまうほど。それぐらい山崎さんは完璧な女性であった
ハッシーも同じく山崎さんと答えた
「ただ、俺らを好きになることなんてあるわけないよな〜」
と、2人は呟いた
俺からすると野球をやっているモッチーとサッカーをやっているハッシー達がモテないわけないだろ、と思いつつ二人を見ていた
「え、てか、小泉は結局誰なんだよ?」
と、ハッシーに聞かれた。俺はもうその話は終わっていると思い考えてもいなかった。なのに、脊髄反射的に名前が出た
「齋藤かな…」
俺は2人のポカンとした顔を今でも覚えている
「さ、斎藤…?」
「あのパッとしない斎藤か?」
「そ、そうだよ。同じクラスの齋藤さんだよ!」
「ん〜、まぁ顔は可愛いかも知れないけどなぁ〜」
「なーんかパッとしないんだよな〜」
2人は俺の答えに分からないと言った顔をしていた
新しいクラスになってから1ヶ月が経った
前田は毎月、授業で習ったことを復習するために
1番心に残った授業を紙に描いて提出するというのがあった
俺は絵を描くのが好きなので、美術のデッサンと書いた
齋藤のを見てみると、理科の地学と書いていた
景色が好きな齋藤らしいな~と思いつつ、提出をした
それから周りに友達が出来てからか、休み時間に寝ているフリをすることが少なくなった
その代わりに、絵を描く様になった
俺は動物の模写をするのが好きで、チーターを書いていたすると、
斎藤が覗いてきた。すると、俺の絵を見てこう呟いた
「かっこいい…小泉、絵上手なんだねぇ」
俺はその言葉を忘れることは出来なかった
――嬉しかった。
俺の学校の楽しみでもある給食
給食で好きなのは圧倒的に唐揚げだ
おかわりじゃんけんにも参加する程に好きだった。
齋藤も欠かさずおかわりじゃんけんに参加していた
俺はじゃんけんの運が良かった。毎回残りの2人まで残ることが出来る
だが、しかし最後に残っている砦があった
それが斎藤だ。毎回、最後の2人まで残ることが出来るが
毎回齋藤に負けている
「今日こそは勝つぞ…なんたって俺の大好物だからな!」
「ふふ…かかって来なさい!」
「最初はグー!じゃんけん…パー!!」
「チョキ!」
「ぐあっ!また負けたぁ!!」
「唐揚げは頂いていくわね〜」
「「うっぜーなー」」
負けた俺は虚しく席へと帰っていった
齋藤は食べるのも早い。おかわりをしていない俺より
数分早く食べ終わる。
「お前食うの早いなー。」
「えへへーん、男子のくせにおっそー」
「なんだとー!!俺だって本気を出せば…ゴホッゴホッ」
俺は勢いよく口の中に入れた食べ物でむせてしまった
「食べ物詰まってるじゃーん。それじゃあダメだよ〜」
しかし、その日以来齋藤がおかわりじゃんけんに参加することは無くなった。
突然の事で聞くことも出来なかった。
いつものライバルが居なくなったことは良い事なのだが、心にはポッカリと穴が開いた。そんな気がした
おかわりじゃんけんを、最後にした日から斉藤は家に帰ると夕飯を食べれない日が続いていた。なんで食べれないんだろう…斎藤自身でもわかっていなかった
「夕飯を前にすると胃がきゅっと縮む。食べたらまたあの声が響く気がして…。」
次の日学校に行くと珍しく斎藤が休んでいた
「珍しいな〜あいつも休むんだな〜」
と、前田が朝礼の時に言った
その時みんながザワザワと喋り始めた
ただ、俺には何を話しているのか聞き取れなかった。
しかし、俺にはその雰囲気がすごく嫌いだった、そんな気がした
休んだ日、斉藤は1日中ベッドにうずくまり、考えていた。
「私のことじゃない…私のことじゃない…そう思いたいのに、あの笑い声は全部自分を指している気がする…」
次の日。齋藤は出席していた
「なんで昨日休んだんだよ?」
俺は齋藤に聞いてみた
「い、色々あってね?め、迷惑かけちゃった?」
齋藤は申し訳なさそうに言った
「迷惑…?」
俺はその言葉にとても違和感を覚えた
国語は俺の嫌いな教科だ
「はぁ〜。早く終わらねぇーかなー」
小学校は、担任がすべての授業をするので、毎回前田の顔を見なければならなかった。
しかも、国語は前田の好きな教科だ。それが、俺の国語嫌いを促進させている。
前田は全員に指名するし、集中していない生徒を狙って当てるようにしている。だから、集中せざるを得ないのだ
だから、俺は集中しているように見せるために色んな工夫をした。
ノートに板書しているようにして、本当は円を書いているだけ。
とか、黒板を見ているフリをして前田のシワの数を数えたりしていた。
しかし、尽く全てバレてしまっていた。
「え〜、じゃあこの問題を…齋藤!!」
「はい………」
「この問題は小泉だ!」
「また俺かよ〜マエセン多いってー」
「お前らが喋って集中しとらんからだろう?」
その次の時間は歴史だった
歴史は嫌いだ。覚えることが多いし、なんてったって面白くない。齋藤も嫌いなようだった
そこで俺はあるひみつ道具を持ってきた
それが、キャラクター消しゴムだ。
アニメでやっているキャラの消しゴムを使って、まるで生きているかのように会話させる。これを斎藤と授業中にやっていた
「お、俺はピカチウ!ピカピカ!」
「わ、わたしはボカプ!ブヒブヒ!」
この遊びが小学生には楽しく、授業中なのを忘れて齋藤と笑いあっていた。
すると、前田がいつもの怒号で
「小泉と齋藤…お前ら、廊下に立っとれ!!」
「盛り上がりすぎて、授業中なこと忘れてたなぁー、」
俺は、廊下から見える外の景色を見ていた
「齋藤、ここから真っ直ぐに黄色い家があるだろ?」
齋藤は窓の外に目をやった。
「あれが俺の家だぜ。意外と近いだろ?」
斎藤は笑っていた。しかし、なんだろうこの違和感は…
まるで、死者と話しているような…元気が無かった。そして、沈黙が続いた後…
「廊下に立たされちゃったね笑」
「へへっ、ホント俺らってダメだなー」
「あの日みたいだ…私たちが遅刻したあの日…」
「そういえば、あったな…」
「あれから1ヶ月も経っちゃったね…時の流れは凄いなぁ」
「俺の人生の中で一番早い1ヶ月だよ。いい意味でな」
「時間が流れるにつれて、私の小泉君を思う気持ちがどんどん大きくなっていくよ…」
「…小泉!」
俺は、その言葉に心臓の音が大きくなった
同時に顔も赤くなっていた。鏡を見なくても、分かってしまうほどに
「俺は齋藤と小さな幸せを大切にしていきたいって思う…」
「うん…!」
2人は誰もいない学校の廊下で深いハグをした。
俺は齋藤の目から出る大きな涙に気づくことは出来なかった
その日は珍しく、一人ではなくクラスメイトの阿部君と山崎さんと一緒に帰っていた。
「なぁなぁ、小泉?齋藤って分かるだろ?」
と、阿部くんが聞いてきた
「あ、あぁ、分かるけど」
「あいつ、体重38kgもあるらしいぞ?」
「そ、そうなのか?普通ぐらいじゃないのか?」
「そうなのか?って、どー考えてもデブだろー!」
「そーだよー!しかも、あいつ毎回給食おかわりしてるんだよ?」
と、山崎さんも加勢した
「お、俺も同じだよ?」
「小泉は男だからいいじゃん。女の子でおかわりなんて可笑しいよ!」
俺は何か合点がついた。最近俺が感じていた違和感
俺はその二人を、押して学校の方へと戻った。
「確か、今日は齋藤は放送委員会で、学校に残っているはず…!なんで俺はすぐに気づいてやれなかったんだ…!」
そして、放送委員会の教室に行くも、齋藤の姿は無かった
「齋藤さんなら、今日は来ていませんよ」
靴は下駄箱にあった。つまり、学校のどこかにいるはずだ…!
俺はあの日、齋藤とあったあの階段へと走った
しかし、そこに齋藤は居なかった
次に俺は屋上へと走った
「ここならいるはずだ…!!」
俺と斎藤はよく屋上で景色を眺めていた
嫌なことがあったら必ずここに来ていた
「い、居ねぇ…!」
屋上にも齋藤は居なかった
俺は屋上の入口の上に登って学校を見渡した
しかし、屋上から齋藤を見つけることは不可能だった
「どこに居るんだよー!!!」
「私…あんなこと小泉くんに言っちゃったけど、引かれてないかな…?でも、ハグしてくれたって事は小泉も私のことが…いやいや、そんな事あるわけないじゃん!」
齋藤はそんな独り言を言いながら、3年2組クラスの前に立っていた
そこからは丁度、黄色い小泉の家が見える
「小泉君…」
と、一人呟くと、外から自分の名前を呼ぶ大きな声が聞こえてきた
「斎藤ーーーー!!!!!!!」
「小泉君の声!??なんで???」
と、驚いていると、ちょうど、斎藤が見ていた3年2組の窓の外に空から大きな何かが落ちてきたのが見えた
「…?屋上から、何かが落ちた…?」その1分前
「な、なんでお前たちがいるんだ!」
小泉が屋上に居ると山崎さんたちが登ってきた
「あんたこそなんでこんな所にいるの?」
「俺は齋藤を探しに来たんだ!!あいつに聞かなきゃ行けないことがある…!」
「聞かなきゃ行けないことって何?」
「お前らには関係ないだろ!」
「はぁ…小泉君はいっつもいっつも、齋藤さん齋藤さんって…キモイよ」
「…!」
突然の言葉に小泉は言葉が出なかった
「お前らだろ…齋藤の変な噂を流しているのは…」
「だったら何?文句でもある?」
「齋藤は…!!お前らよりも優しくて…ちょっと抜けてるところもあるけど…可愛くて人想いな良い奴なんだよ!!
それなのに、なんでお前らのせいであいつが苦しい思いをしなきゃ行けないんだよ!!」
「きめぇんだよ!偽善者ぶりやがって!!」
山崎は小泉の肩を押した。
「齋藤ーーー!!!!」
小泉は叫びながら屋上から落ちた。
まるで、烏のようにドス黒い塊となって落ちていった
「小泉君ーーーー!!!!!」
その日から小泉は学校に来なくなった
それ以来、いじめは無くなっていった。それに比例していくかのように
斉藤の体重は減っていった。自分でもおかしいということは気づいていた。なのに抑えられない衝動
『頭のどこかで危ないと分かっている。それでも食べるのが怖い。』
『痩せれば認めてもらえる。そう信じたいのに、鏡に映るのはまだ“太っている私”だった。』
小泉は奇跡的に地面に木の葉が溜まっていて命を落とすことは無かったらしい
しかし、あばら骨と手足を骨折しており、当分動くことは出来ないだろうと言われた
小泉が病室のベッドで包帯をグルグル巻にされた状態で座っているところに一人の女の子が来た。
「こ、小泉君…?」
とても小さな声でベッドの男を呼んだ。
病室に入ってきた、女(?)はフードを被り、上手く容姿が見えなかった
「誰…ですか?」
小泉はお見舞いに知らない人が来てくれたんだ。と思った
すると、次の瞬間その女の子は小泉のベッドの上で泣き始めた
「ごめん…ごめん…私なんかのせいで小泉君が…
――記憶喪失になっちゃったなんて…!!」
小泉は名前も知らない女の子を無関心な目で見ていた
その女の子の瘦せこけた頬を沿っていくように涙は落ちて行った
小泉は約1年間の間治療をしており、みんなが小学五年生の時に
やっと、包帯を取る事が出来た。しかし、まだ歩ける状態では無い。
そして、約1年間リハビリを終え、中学校の入学式を迎えることが出来た
「やっとだ…!3年間…俺の人生はここからだ!」
小泉が教室に入ろうとすると、2人に止められた
「よう!久しぶりだな、小泉!」
それは、ハッシーとモッチーだった。
2人とも小泉の事は聞いていた。記憶が無いということも。
もちろん、小泉は二人が誰かは分からなかった
「えーと、誰…ですか?」
小泉は不審に二人を見ていた
「今からお前の親友になる男だよ」
「お!俺ら同じクラスじゃん!!」
「また、席近ければいいなぁ!?ハハッ」
2人が持っている名簿の中には
「齋藤 実咲」という名前が入っていた
そして、中学校に入ってから約1ヶ月が過ぎた頃
突然、全校集会が開かれた
「えー、今回は大切なお話があります。」
と、担任の髙橋先生が言った
「転校することになった生徒がいます」
と、2人の生徒が前に出た
1人はイギリスへと留学するために居なくなるのだそう
そうして、もう1人は――ガリガリに痩せた齋藤だった
「えー、齋藤さんは体力の面で学校を辞めることになりました」
斎藤という女の子を見てハッシーとモッチーは目を塞いだ
「齋藤さん…!」
教室に戻り小泉は2人に齋藤のことを聞いた
「2人は齋藤さんのことを知っているの?」
「……あいつは、俺らと一緒の学校だよ…阿部と山崎があいつの勝手な噂を立てて、あいつは人生を追い込まれちまったんだ…!お前もそうだったんだろ?」
「阿部…山崎…齋藤…!!!」
その瞬間小泉は全てを思い出した。
自分が斎藤という女に恋をしていたこと。屋上から飛び降りたということ
「齋藤!!!」
小泉は教室を飛び出した
「小泉!!どこ行くんだよ!?」
ハッシーとモッチーの声を無視して‘‘あの人‘‘の元へと走る
「待っててくれ…!今行くから…!!!なんで…!!なんで俺はこんな大切な人を忘れていたんだ…!!」
齋藤は学校の前に止まっている車に乗ろうとしていた
「齋藤!!!」
その言葉に弱々しくも、後ろを振り返る齋藤
「小泉君…!!」
斎藤の見た目は変われど、声はそのままだった
斎藤の笑った顔は可愛いままだった。その様子が小泉の記憶を思い出させていく
小泉の体もリハビリをしたとはいえ、とても細くなっていた。
そんな2人は弱々しくも力強いハグをした
2人は全く変わってしまった姿なのに、2人は確信した
「「これは小泉君・齋藤だと」」
2人はそのまま泣いた。涙が枯れるまで泣いた
あの人は違う…ちゃんと二人はお互いの感情を共有している。
姿は違えど、2人は不思議な力で通じあっている。
それは誰にも見えないし、誰にも壊せない。しかし、二人にははっきりと見えていた
太くて赤い糸が―――
見て頂きありがとうございます。現在高校生のササンキです。
実はこの話は、少しだけ実体験なのです。拒食症になってしまった子(斎藤ではないです)は友達に居て
このように、みんなからの陰口で拒食症になってしまいました。
僕はその子に絵が上手いねと言われたことを今でも覚えています。
笑った顔が可愛い優しい子でした。タイムマシンがあるなら、助けてあげたいと本気で考えました。
この話は、言葉の危険性を皆さんに知ってほしいからです。言葉は思っている以上に他人を傷つけてしまうということを心に留めて気を付けて生きてほしいです。
長かったですが見て頂き、本当にありがとうございます!!!!