9話
屋上には柵に腕を乗せるショートボブヘアでえらく猫背の女が立っていた。
女はただ遠くを眺めている様だった。
トウヤは屋上に農園を作る事を決意していた為女が邪魔だった。
トウヤはここに農園を作りたいから出て行ってくれ、と言いたかったが無駄な揉め事を避ける為言い方を少し変えた。
「今からここに畑を作る、泥だらけになりたく無いなら出て行った方がいい」
女は振り向くと細い吊り目に八の字を描く眉がどこと無く困っている様な表情に見えた。
「うん…わかった」
女はトウヤに言われるがまま鍵を手渡すとトウヤの横をすり抜ける様に屋上から出て行った。
屋上でボーッとして何がしたかったんだあの女…
そう思いながらカンパンを一つ食べようとカバンに手をやると買ったばかりのカンパンが無くなっていた。
あの女…ナヨナヨしてるから油断した!!
トウヤはすぐに女を追いかけた。
「オイ!」
「あっ…ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
女はその声にビクッとすると勢いよく振り返り謝りながらカンパンを返して来た。
トウヤは受け取ったカンパンの袋が開かれていない事を確認していた。
女は顔も上げずに平謝りをしていた。
「まだ、開けてません…許してください!」
…この女、手癖は悪いが従順そうだな…
トウヤは瞬時に女の本質を見定めた。
「俺はトウヤ、名前は?」
「リ、リホです」
「よし、リホ許してやる…許してやるから畑を作るのを手伝え、それにただとは言わない収穫したらジャガイモも分けてやる」
トウヤは手癖の悪い女…リホを扱い易いと判断して利用する事とした。
「…はい」
リホは上目遣いですぐに頷いた。
トウヤはリホを付き従わせ早速校舎から出て畑跡に向かった。
畑跡に着くと近くに落ちていた土嚢袋と錆びたスコップを手に取ると土嚢袋に土を詰め始めた矢先…。
「えっ…」
リホが声を漏らして逃げる様にトウヤの後ろへと隠れた。
トウヤはリホが逃げて来た方を見ると痩せ型の長髪の男が畑跡の地面の上に四つ這いで移動しながら何かを咀嚼していた。