1話
『鎖国』とは、政府が自国と他国との交通・貿易などを禁ずること、の意味を指し、グローバル化した現代では考え難いが実際に日本では寛永16年、西暦にして1639年に徳川家光による南蛮船入港禁止から、1854年3月31日(嘉永7年3月3日)の日米和親条約締結まで215年間に渡り続いた。
それから200余年…
古臭く清掃も行き届いて居ない教室
彫刻刀か何かで削られ更には落書きされた机の上に突っ伏して寝ている男の姿があった。
くせっ毛の有る黒髪がうなじから目元までを覆い隠し、ピアスの着いた左の耳と筋が通った鼻のみがそこから出ている。
教室の窓から差し込む日光が彼の耳の端に着く黒と青の入り混じるホタルガラスの三角形をしたピアスに光が反射していた。
プー!プー!
そこへ大きなサイレンが鳴り響き、男は目を覚ました。
涼しげな男の顔…肌艶から見るに歳の頃二十代前半だろうか…
男に続け教室内の男女が顔を上げる。
彼らは殆どが10代後半から二十代後半程だった。
先程目を覚ました彼が、左へと目をやると学校の教室、そして外を隔てる大きなアスファルトの壁が目に入った。
何だ…あの壁?…って教室…学校か?
俺は何処からいつここへ?…ダメだ何も覚えてない…
1人の女は自身の両腕を抱えると俯き震えていた。
「何…わかんない…ムリ」
俺だけじゃ無く他の奴も記憶が無いのか?
暫くして教卓の奥の大型ディスプレイに1人の男性の首から下が映り動画が流れ一斉に皆が目を向けた。
「初めまして諸君、諸君らの今居るその壁の中は先日一つの『国』として認められた。そして今日より我が国…いや壁の外と言った方がわかりやすいかな?…諸君らの国との出入国一切を拒否する事が議決された」
この男…何を言ってる?
それではこの壁から出られない…と言っているのと変わらない
ディスプレイに映る男は手振りを加えて続けた。
「言っている事は理解して貰えたかな?要はこの壁の中で生活をしてもらう、だが理由はあくまでも諸君等を守る為だ」
おいおい…一方的な上に主語がねーな。
アンタは誰で一体ここは何処なんだ?
いや…そもそも俺は誰なんだ?
皆が黙り込みディスプレイを見つめる中、男は更に続けた。
「我々は諸君を保護する為にも壁の中には一切干渉しない、全て君達で決めて、全て君達の責任で行動してもらう…異論は認めない。」
男は一旦黙ってから自身の左手首を指差すと続けた。
「といっても当面生活には困らない様に…食糧等いろいろとこちらで用意させて貰った。机の横に寝袋、そして諸君らの左手にはスマートウォッチがある筈だ」
皆、自身の左腕に巻かれたスマートウォッチを確認していた。
先程の彼もスマートウォッチを確認するとIDが左上に表示され、その下にコインのマークが表示されていた。
4Touya
…とある。
トウヤ?…そうだ、俺の名前はトウヤだ。
…クソ、その先は思い出せない。
彼がディスプレイの男の声から意識が離れている間も声は続いた。
「各アカウントに毎朝仮想通貨を送る、それで別館に有る食堂にて食料、校舎内の事務室にて道具、倉庫には資材…それぞれ様々な物の購入が出来る様にしてある…ではくれぐれも諸君の為に壁が作られている事を忘れない様に…」
プツッ…
動画は途切れた。
同時に皆のスマートウォッチが一斉に音を発した。
チャリン!!
トウヤがスマートウォッチへ目を移すとコインのマークの横に20と表示が出ていた。
教室内はパニックとなり怒鳴り声が広がった。
「ハァ?何だよソレ!?要は監禁じゃねーか!」
「ふざけんな!」
そこに居た殆ど全員が壁に向け走りだした。
教室に残っていたのは1人の女と彼だけだった。
女は1人小さな紙キレを見つめて居た。
トウヤは走る皆の背中を見送った。
馬鹿かアイツら…
わざわざ攫ってここまで運ぶ様な手間をかけてるんだ…そんな簡単に出られる様に準備しないだろ…