東のボルド
ガルド前線で活躍した音楽隊は次なる前線に向けて出発していた。
「それでセレンはきちんと報告してくれたかな?」
「はい、デハード様当てに電報を送りました。」
「ありがとう。この移動中は運転手以外は出来るだけ休んでおいてって各車両に伝達よろしくね。」
「承知しました。」
ルークは伝令や連絡係としてセレンに頼むことが多い。
音楽隊の中でセレンは几帳面で真面目な性格な為に正しい情報のやり取りが出来る人材でもある。
「次はボルド前線か…」
ルークは昔、立ち寄ったボルドの街を思い浮かべていた。
ボルドの街は陸の港と呼ばれる程の活気が満ちた場所であった。商人達はボルドを基点としている者も居たがそれも今は昔のこと。
ボルドの街を落とされまいと帝国は近くに前線防衛基地を設置し、防衛前線を築いた。
物資はかなり豊富にあり、ウルドやガルドの北前線よりは戦いやすいように思っていた。
しかし、デハード大将軍は全く違う見方をしていた。
「商人が裏切るかもしれないな。」
そんな言葉を言っていたデハード大将軍の考えは今なら分かる。
商人達にはボルドの街を基点として商いをしていた者がたくさんいたのだ。
戦争に突入した国というものは勝利が見えない限り商人は簡単に見捨てる。
それはそうであろう。
自分達の利益優先なのだから商売が出来ない街には興味はないのである。
そして、他の街に行くことのできない中小規模の商人達は帝国が不利という情報を掴んでいた。
マーラ王国が勝利したときにボルドの街でもしっかり商売が出来るようにと準備を進める商人達。
そんな商人達の思惑は帝国が早く降伏することである。
そのほうが戦争が早く終わり自分達商人はボルドの街、戦争以前のような活気ある街で商売ができると目論んでいた。
そんな考えを予想したルークは急ぎ、ボルドの街に残っている商人や市民にも伝えなくてはならない。
まだ帝国は戦える、自分達は勝てるのだと。
もしも、ボルド前線までもが持ち直せれば…勝てる。
とりあえず、ボルド前線に早く行かなくてはいけないがここまで2ヵ所の前線をまわってきて音楽隊の面々の疲労が出てきている頃だろうか。
ボルド前線の立て直しが終わったら部下たちに2日ほど休みを取らせよう。
「人間誰でも休みがないと疲れちゃうよなー。」
「ルーク様?もしや体調が優れないので?」
また、僕は独り言を言っていたようだ。
「いや、僕は大丈夫!部下達も疲労が溜まってきてるかなって思ってさ。」
「そうですか、確かに私含め疲労は多少あるでしょうが、それでも演奏したいと皆言うでしょう。」
お、それはやはり音楽隊一人一人の自信が付いてきたってことかな、良いことだね。
「それはなによりだよ。ボルド前線の立て直しが終わったら街の方にも寄って演奏していこうかと考えているんだ。」
「街にもですか?…なるほど、そういう意図ですか、分かりました。各員に伝えておきます。」
「うん、よろしく頼むよ。」
ボルド前線に到着後すぐに行動に取りかかる。
「第四交癒曲!!」
♪ ♪ ♪~
ボルド前線も、ウルド前線やガルド前線同様立て直しに成功する。
兵力を回復し、音楽隊はここでも負傷兵を治し、なんとかマーラ王国の前線部隊が退いていく。
まだまだ、音楽隊は笑顔の様子。
これなら明日の演奏会は大丈夫だな。
今日は街に行ってしっかり休もう。
「帝国音楽隊!全員揃っているかな?」
「はい、ルーク殿。皆万全の状態であります!」
「はっ!ルーク様。ご指示を。」
「ロイもセレンもお疲れ様。皆も今日もお疲れ様。」
音楽隊一人一人の顔を見ながらこれからの行動を伝えていく。
「皆、とりあえず今日はボルドの街に行こうか。宿はあるからしっかり疲れを取ってね。」
それから明日のことも伝える。
「明日はそのままボルドの街の広場を使って演奏するよ!曲は――――だよ!頑張ろう!」
演奏する曲を聞いた音楽隊の面々は皆苦い顔をするのであった。