デハード大将軍
「号外!号外!」
「なんだなんだ、また敗けたのか?」
「どうせ前線がまた後退とかだろ、もう帝国軍は頼りにならねーよ!」
ここは帝国の首都ベルン。
一般市民はマーラ王国との戦争はもう敗戦濃厚なのだとこれまでの号外や負傷して前線から帰還した兵士達の情報ですでに知っていた。
「号外!!号外だよー!!」
「今度はどこの前線…」
「なんだと…」
「嘘だろおいおい!?」
「帝国軍が王国を退けたのか?」
半信半疑になっている一般市民達に号外を配る記者のアリーナは言う。
「ウルド前線だけじゃなくガルド前線でもだよー!」
「これ、嘘の情報じゃねぇだろうな?」
「あったり前じゃないー!帝国新聞社の名に懸けて誓うわ!」
「2ヵ所の前線が敵を退けたということは…」
「もしかしてもしかしてもしかして!」
「ああ、帝国が勝てる可能性が出てきたのか!」
「こうしちゃいられねぇー、兵士に志願してくる!」
「俺もだ、勝ち筋が見えるなら今行かなきゃな!!」
ここ最近は暗い顔の一般市民しか見ていなかった新聞記者のアリーナは明るい顔になっていく人達を見て、この仕事をしていて良かったと思っていた。
「まだまだ、がんばるわよー!」
そんな街の様子を視ていたデハード大将軍。
ニヤリと笑いながら部下に入れて貰ったコーヒーを飲み干す。
「ニガーイ!!!」
そう。
デハード大将軍は甘党であった。
しかし、部下に飲み物を入れて貰うときは自分は大人の中の大人だと思われたいが為、ブラックコーヒーを飲む。だが甘党。
「シュガーくんが恋しいよう!!」
コンコンと音がなり、部下から声がかけられる。
「デハード様、よろしいでしょうか?」
デハードは大将軍としての顔に切り替える。
「ウオッホン!入りたまえ!!」
「失礼します!」
デハードは限られた部下にしか素の自分は出さないのである。
「ルーク様から電報です。読み上げます。」
「ほう、ルーク君からか。」
「音楽隊はウルド前線同様ガルド前線も戦力回復したため次なるボルド前線に出立、以上になります。」
「なるほど、北2ヵ所は持ちこたえたか、マーラ王国が退いたということはあちらの被害は半分ほど逝ったか。」
「はい、そのようですね、それでもマーラ王国の兵力はまだまだ多いですが。」
デハードはそうかそうかと頷きながら思う。
はて、こんな部下いたかな?などと。
「君、名前はど」
「作戦本部所属ドナードでございます。デハード様。」
デハードに被せ気味に言葉を発するドナード。
「そうかそうか、ワシは人の名前と顔を覚えるのが苦手でな。」
「デハード様昨日も同じことを仰っておいででしたよ。」
そんなもん忘れたよなどと言えるはずもなく、とりあえず別の話題を出す。
「ところでドナード君、砂糖を持ってきてくれないかな?」
「砂糖ですか?いかがなされるので?」
そんなもんコーヒーにドップリ入れるから、ということは言えない。
「いや、お菓子を作ってくれと孫がな、せがむのでな!」
「あれ?デハード様のお孫さんこの前生まれたばかりと…」
「あいや、倅がな孫の為にと…」
「デハード様、赤ちゃんはミルクですよ!硬いものは駄目ですよ!」
「……」
「デハード様?」
「砂糖欲しいんだもん…」
「ん?デハード様、よく聞こえなかったのですが?」
「……ちょっと1人にしてくれるとありがたい。」
「そうですか、では私はこれで失礼します。」
ガチャ、バタンと閉まるドア。
「ワシは大将軍なんだもん!砂糖欲しいんだもん!シュガーくんが恋しいだもん!」
叫ぶ大将軍。
そして、その様子をドア越しから聞いているドナード。
「デハード様はやはりこうでなくては。」