ウルド前線その後
ルーク達音楽隊一行はにウルド前線にて戦っていた帝国軍の兵士達に感謝された。
理由は敵方マーラ王国の前線引き下げである。
これまで敵がいたであろう陣を張っていた場所に偵察のため斥候を放ったのだが敵兵が一人も居なかったのである。昨日まで戦っていたことから夜のうちに退却したと思われる。
そんなことがあった為に傷を治し、また戦えるようにしてくれた音楽隊には前線帝国軍兵士から尊敬の眼を向けられていた。
また、戦地で吉報など帝国軍の他前線でも聞かなかったことから初めてもたらされた勝利であった。
「皆付いてきてくれてありがとうね。」
「ルーク殿!何を言っているんですか!当たり前ですよ!」
ロイが笑顔で応えてくれた。
「本当は戦場だから皆死ぬかもしれないと思って、死ぬ覚悟がない人がいたらベルンに残すつもりだったんだよ。」
「ルーク殿はお人好しですな!」
「そうですぞ、ルーク様はもっと部下を頼ってください!」
ベルンは帝国の首都であり、帝国軍の作戦本部がある場所である。
本当に良い部下で音楽隊だなと思うルーク。
音楽隊は他の前線にも向かい治療音楽を奏でなきゃいけない。
楽器関連は今の内にやれることはやっておきたい。
「さて、それじゃ今日は食べ終わったら各自楽器のメンテナンスしておくように伝えてくれるかな?」
「了解であります!」
「承知しました。」
ルークは目的の場所へ足を運ぶ。
やってきたのは医療テントが張られている隣のテント。
既に音楽隊でも手遅れなのはわかってはいるがそれでも出来ることがあったのではと思っていた。
戦死者テントであり、ここのすぐまた隣の空き地は死体の火葬場となっている。
戦争だからこういうことがあるのはわかってるが、やはりそれでも自分たちが救いたかったという思いを胸に秘める。そのための音楽隊でそのための力を手に入れた筈なのにと思ってしまうルーク。
「やるせないな…」
胸に手を当て黙祷をする。
眼をあけて後ろを振り返った。
すると、意外な二人がそこにいた。
部下のロイとセレンが心配そうに見つめていたのだ。
「なんで君たちがここにいるんだい?」
「ルーク殿が落ち込んでると思いましてな。」
「ルーク様は音楽隊で一番優しいですからね。」
本当に良い部下を持ったと思うルーク。
「戦争なんて良いものじゃないね。」
「俺たちで戦争を無くしましょう!」
「ルーク様、私達音楽隊は60名居るのですよ。皆で乗り越えましょう!」
ロイとセレンの言葉に頷くルーク。
「君たちそういえば楽器のメンテナンスは?」
「「終わらせました。」」
「そ、そうか、早いねさすがだよ。」
次の日、音楽隊一行は軍用車両に各楽器を積み、そのまま搭乗。
ウルド前線の帝国軍兵士達に囲まれ、見送られながら次なる前線へと旅立っていく。
「戦争を聞くのと体感するのは全然違うね。」
「はい、そうですね。まさか指揮官の方々が殆んど戦死していたとは驚きました。」
セレンが言った通りであった。
本来なら指揮官の方々の誰かと顔を合わせ、多少話し合ってから治療音楽を演奏したかったのだが到着したころにはその指揮官らが丸々居なかったのだ。
それほどまでに死傷者が多かった。
帝国軍の階級は上から
①大将軍
②将軍
③大隊長
④中隊長
⑤小隊長
⑥部隊長
⑦兵士長
⑧一般兵士
となっており、⑦兵士長より上の階級は大体の部下の数が決まっている。
ただ、音楽隊は数が60名程な為、数は参考にならない。数だけなら⑥部隊長クラスなのだが、ルークの階級は④中隊長である。因みに各楽器パートリーダークラスのロイとセレンは⑥部隊長の階級である。
そして、ウルド前線での④中隊長から上の階級の殆んどが戦死、もしくは行方不明者である。
したがって、到着したころには既にルークが一番上の階級であった為、話し合い等せずに直ぐ様役割を果たすことが出来たのであった。
そんな、ウルド前線は立て直し敵国マーラ王国の北方に牽制出来るまで戦力が回復し終えた為、帝国軍音楽隊は他の前線へ向かう。
「亡くなった人は救えないけど怪我人ならどんな人だって救ってみせよう。」
「そんなルーク殿だから付いていくのですよ。」
「そのとおりですね。私も精進せねば。」
あわあわと狼狽えるルーク。
「えっ、僕もしかして声に出てたの?!」
「何を今さらですか、何時も出ていますぞ!」
「フッフッフ。ルーク様の良いところですね!」