音楽隊開演
ルークは指揮棒を振る。
音楽隊に合図を出しそのまま身体全体を使って強弱を表現する。
それを見た音楽隊一同はその通りに演奏してみせる。
音楽は楽しいものだ。
曲を聴くのも奏でるのも本来楽しいものだ。
その場にいる人達はここまでの演奏曲を聴いたことがなかった。
~ラルク視点~
「これは?どうなってるんだ?どうして…こんなことが…」
音楽隊が奏でた音楽は素晴らしい曲であった。
だが警備についていた自分含め部下やラキュール様もいつの間にか起こっていた目の前の出来事を素直に受け入れられなかった。
「なんで俺たち以外が全員倒れているんだ?」
「はっ!わかりませんが宰相様に聞いて参ります。」
演奏曲を自分たちも聴き入っていただけなのに、1曲終わっただけで帝国側の警備兵とラキュール様以外が全員倒れていた。
確かにラキュール様なら何か事情を知っているかもしれない。
「いや、私が聞いてこよう。」
「はっ!」
ラキュール様もこの光景に驚いているようではあるがどこか冷静に見える。
「ラキュール様!このような事態になった理由はご存じですか?」
「ラルクか。そうだな、私自身も驚いているよ。一応聞いていたのはマーラ王国側だけこのような状態になるとだけ。」
なんと、ラキュール様は先に音楽隊の今回の効果を知っていたらしい。
しかし、話を聞いてみた限り音楽隊全員がマーラ王国側と同じように倒れることは知らなかったみたいだ。
「つまり、音楽隊はこうなることを知っていた上で今回の王国遠征についてきたということか…。」
「なるほど、音楽隊も今は全員が気を失っている状態ですので全力で助けたいと思います。宜しいですか?ラキュール様!」
ラキュール様の命令は聞かなくても自分達だけでも音楽隊を救うつもりでいた。
「ああ、頼む。意識を回復させるのだ。」
そう言うラキュール様の顔色が真っ青だったことは黙っておいた。
~演奏前ルーク視点~
「皆行くよ!!」
音楽隊全員が目でルークの合図を待っている。
これが人生最後の演奏だろうと音楽隊全員は判っていた。
「第五狂争曲!!!」
♩♪♩♩♪♪♩♩♩♪♪♪~
音楽隊は第五狂争曲をマーラ王国側へ伝わるように演奏した。
自分達音楽隊の演奏を見て聴くがいい。
まだまだ、こんなものではないぞ。
僕達の演奏、…僕の音楽はもっと…。
~ルーク視点終わり~
演奏を聴いていたマーラ王国側の人たちは倒れ伏していた。
音楽隊がマーラ王国側の国王や国王に近しい人たち、近衛兵だけ標的にしていたからだ。
音楽隊は何も気にせず集中して狂争曲を必死に聴かせていた。文字通り必死に。
今まで音楽隊は二種類を主に演奏してきた。
それは癒すことを目的に身体や心を治療してきたからだった。
しかし、今回は絶望を与えることを目的にマーラ王国の戦争主導派の人たちに演奏した曲を聴いてもらう。
この曲は心に苦痛を与えるほどの幻覚症状を引き起こす効果があるものだ。
そしてこれも同様に数字が大きくなればなるほど効果が大きくなる。
音楽隊は今までは第三狂争曲までしかまともに演奏したことがなかった。
狂想曲は第一であっても気を失う。
第一は時間が立てば自然に目を覚ますが恐怖に支配された状態になる。まともに会話も出来ない為、幸心曲でなんとか持ち直させることができる。
第一狂争曲でさえ、この効果なのだ。
第三狂争曲を使用した際には効果を受けた人に第五幸心曲で回復させた。
第四狂争曲を演奏したときは演奏者にまで効果が表れた。気を失ってしまったのだ。
第五幸心曲で演奏者は回復したが演奏をまともに聴いた検証役の帝国罪人には幸心曲は役にたたなかった。
狂争曲の効果を受けた罪人は、二度と目を覚まさない状態となる。
この事から、デメリットが判明してしまった。
第四以上は演奏者にも影響が出てしまう。
確実に再起不能にする曲。
それが狂争曲。
当然音楽隊もまともに影響を受けないように色々試したがそれも叶わず全員が気を失ってしまった。
気を失った人たちはもう元には戻らない。
音楽隊が狂争曲を演奏さえしてしまえば誰であろうと防ぎきれない。
自分達音楽隊でさえも防ぎきることが出来なかったのだから。