マーラ王国への前準備
「さて、気を取り直してルーク君。」
先程までのことなどなかったかのように話し出す宰相ラキュール。
「はい、なんでしょうか?」
「音楽隊の様子はどんな感じなんだい?」
「…」
デハード大将軍は黙って二人のやり取りを見ていた。
「ひとまず音楽隊全員参加予定です。重要な任務であることも承知のうえでです。」
「そうか、それはなによりだ。出発は三日後になるのでな。一応デハード殿から少しだけ話を聞いてはいるがこのままの国王の状態だと音楽隊の力を借りることになる。」
「…」
ラキュールはデハードからこの数日の間に少しだけ音楽隊の力を聞いていたらしい。
そして、ラキュール本人が国王との和平同盟締結が失敗するだろうと予想していた。
もはや物理的にマーラ王国の上層部を取り除く他ないと思っていた。
「…ルーク君!」
これまで、黙って聞いていたデハード大将軍は思いきってルークへ声をかける。
お休み前にルークと微妙な空気のまま、会話を終わらせていたことを気にしていた。
「この前はすまなかった!許してほしい!」
「…」
まさかデハード大将軍から頭を下げられる日がくるなんてと思ったルーク。
「頭を上げてください。デハード様。」
「ああ、本当に君や音楽隊には酷い態度をとってしまって申し訳なかった。」
「…」
今度は宰相ラキュールが黙って成り行きを見守っている。
「デハード様には恩を感じていますし、自分たち音楽隊は帝国軍に所属していますからね。命の危険があるのは仕方ないですよ。」
「それでもあんな冷たい態度で君に言ってしまってとても後悔していたんだ。」
「…」
デハード大将軍だって人の感情くらいは持っているのだと改めて感じたルーク。
「デハード様はご自身の感情を抑えて冷酷に見えるように僕に命令してました。だからこその大将軍なんですね。自分の部下を死なせるかもしれない可能性が高い場所に命令を下し行かせる。なかなか出来ることではないと僕自身で実感しました。」
「…そうか、君は優しいから音楽隊の皆には私と同じようには出来なかったようだね。」
ルークは最初、音楽隊の皆には今回の遠征は参加せずに残ってほしいと思い、言葉にした。
デハード大将軍と反対の行動だがどちらが正しいとも言えないだろう。
「さて、お二人とも仲直りしたということでこれからは私含めてマーラ王国に着いてからの詳細を説明していきたいと思います。」
宰相ラキュールからの説明を受けるルークのデハード大将軍。
デハード大将軍は帝国軍のトップなのでこういう内容は把握しておかなければならない。
そして、ルークは音楽隊の動きをどのようにするか説明を聞きながら頭の中でシュミレーションしていく。
気が付くと、三時間ほど経っていたようでほぼほぼマーラ王国でやることを覚えたルーク。
三人とも、他に用事があるということで執務室から出て別れた。
ルークは先程までのやり取りを音楽隊一同に説明するべく、楽器保管庫に向かう。
到着したルークは、楽器保管庫に人影も楽器もない状況からいつもの練習場所にいるのだと考えた。
ルークはいつもの練習場所である小ホール劇場へ向かった。
小ホール劇場は音楽隊がたまに帝国軍関係者を招いて観覧してもらう場所で、デハード大将軍が音楽隊の為に作らせた場所でもあった。
小ホール劇場別名、帝国軍劇場。
そこの関係者入り口のドアを開き中に入るルーク。
そのまま小ホール劇場の各スタジオ部屋にパートごとに別れて練習している音楽隊。
一つ一つスタジオ部屋を周り小ホール劇場のステージに集まってほしいと伝えるルーク。
五分程して音楽隊全員が集まりルークの話を聞く。
「さて、それではマーラ王国に着いてからの話をしようと思う。そこでは――――」
一通りの流れを説明し終えたルークは音楽隊全員の顔をしっかり見つめていた。
しっかりと決意して皆が遠征に着いてくると言っている以上はルークからはもう何も言えない。
「じゃあ、三日後出発だから皆それまでに家族と話したりやることをやっておくんだよ!以上解散!お疲れ様でした!」
「「「「「はい!」」」」」
ルークも時間が取れれば三日後までにまた母親に会いたいと思っていたが七日も休んでいたので書類仕事が貯まってしまっていた。
出発までの時間は書類とにらめっこのようである。
「出来ることをコツコツとだね。」