ドナードの正体
「それで、君はいったい何をしようとしていたのかな?」
そう問いかける宰相ラキュールは不審者を嫌々ながら尋問していた。
五分前、デハード大将軍の執務室前にて宰相ラキュールとルークはどうしたものかと考えていたときにタイミングよくドアのが開きデハード大将軍が出てきた。
一気に不審者を拘束し部屋の中まで運ぶデハード大将軍はやはり個人戦闘能力が高いのだと実感するルーク。
「久しぶりにデハード様に会いにきました。」
先程までの挙動不審で見るからにヤバいやつが今では普通の受け答えが出来ている。
二重人格なのかと考えているルーク。
「なんか顔は見たことがあるようなないような…ドルナードだったかな?」
デハード大将軍があれやこれやと考えている間にルークは不審者が持っていた薄緑色の水を持って観察する。
確かに植物栄養剤のようだとわかり、危険なものとかではなさそうだと考えるルーク。
「…ドナードです。……作戦本部所属の。」
「ああ、そういえばそんな名前だったな!」
デハード大将軍の知り合いだったようだ。
そういえばデハード大将軍は人の名前を覚えるのが苦手だったかと思い出すラキュールとルーク。
二人もこの人物に名前を覚えて貰うのに時間がかかったなと過去を振り返っていた。
「それで、ドナードは今日もワシの為に水を持ってきてくれたのか!ありがたい!」
「……フヒャヒャフヒャ、あなたはやはりそうでなくては!!」
「「……水ですか?」」
ラキュールとルークは、ドナードが持ってきた薄緑色の液体が植物栄養剤だと分かっているがデハード大将軍はわかっていないようだ。
「デハード殿!それは「うるさいだまれ脳ミソ野郎!」……ッ!!!」
デハード大将軍へ忠告しようと宰相ラキュールは声をかけるがそれを遮るようにドナードが言葉を発する。
こんなやり取りをしている間にデハード大将軍は既に薄緑色の水らしきものを口の中に入れていた。
衝撃で言葉が出ないラキュールとルーク。
目をキラキラさせながらデハード大将軍を見つめるドナード。
一気に飲み干したデハード大将軍。
「うんうん、やはりウマイ!身体が漲ってくるようだ!これからもドンドン持ってきていいぞ、ドナードよ!」
「…クフフフ、勿論お持ちいたしましょう!」
「「……」」
どう反応すればいいのかわからなくなったラキュールとルークはもういいかと諦めた。
「そういえばドナード、君は作戦本部所属と言っていたが新入りか?」
拘束を解いて自然に質問するデハード大将軍。
「はい、半年程まえに配属になりましたよ。それまでは製薬会社に勤めてましたが倒産したのでね、趣味でいろいろと作ってますよ…クフ、フヒャヒャ。」
「そうだったのか!ところで薬品を作っていたのであれば作戦本部ではなく帝国軍本部研究室に転籍させてあげよう!」
目を見開くドナード。
ラキュールとルークはこんなヤバいやつがそんなところに行ったらどうなるのかを一瞬想像してやめた。
考えるだけ無駄だと思いデハード大将軍に任せる二人。
「…ほ、本当ですか!ありがたいです!これで作りたかったものが…フフフ。」
「しかし君は何故いつも軍服を着ていないのだ?」
ラキュールとルークが不審者と思った理由の一つが帝国軍の軍服を着ておらず、上はYシャツに下は黒ハーフパンツ、そして何故かエプロンを着用しているのだ。
「フフフ、それは支給された軍服は燃えたからですね。趣味で薬品を作っていた代償ですよ。仕方ないですね。フヒヒヒ。今は自分が持っている服をテキトーに着回してますよ。」
なるほどと納得した三人。
軍服さえ着ていたらもう少しまともな対応も出来たのではと考えたルークだがドナードの性格は変わりはしないので遅かれ早かれこんなやり取りはしていたのではなかろうかとも思った。
「ドナードよ!是非とも帝国軍に革命を起こすような薬品をつくるのだ!」
「……わかりましたよ。デハード様の為に粉骨砕身努力してみましょう!」
そう言ってデハード大将軍の執務室から出ていくドナード。
時間にしてそれほど経っていないはずなのに疲れたラキュールとルークであった。