音楽隊の決意
マーラ王国に向かうことが決定した音楽隊はただ今絶賛お休み中である。
休暇を纏めて一週間貰っていた音楽隊一同は各々楽しんでいた。
そんな中、ルークは実家に戻り母親と久々の食事を楽しんでいた。
「ねえ、ルーク。無事に帰ってきたのは良いのだけどそろそろ恋人の一人でも連れて来ても良いのよ。」
「そんな人いないよ、それに音楽隊でまだまだやることがあるからそんな時間は取れないし。」
ルークは今年で29歳。
周りの人は恋人どころか結婚して子供がいる人もいる。
帝国軍の兵士などは大体が妻子持ちが多い。
母親が口を出すのも無理はなかった。
「そんなに忙しいの?確かに今回の戦争では音楽隊が活躍したって街中で号外が出回ってたからそこでは忙しかったでしょうけど。それが終わってこれからはゆっくりできると思っていたのだけど…」
「戦争はまだ終わってないよ。今は一時的に相手が攻めてきてない感じだから。ただ、和平交渉とかは進んでるみたいだからあともう少しだね。」
自分の母親だから安心させたいという気持ちで普段伝えない帝国の情勢を伝えておく。
それにマーラ王国に赴くことが決定している為にどうしても自分の感情がでてしまう。
「それと音楽隊は暫くまた遠征に行くことになってるよ。」
「…またなの?また何処かの街の劇場とかステージで演奏する感じ?」
「そうだね、そんな感じだから日程は一応決まってるけど帝国軍は急な予定変更が多いから帰ってくる日は分からないかな。」
「……そうなのね。でもまだ数日は休みなのよね?」
「うん、そうだね。後五日は休みだよ」
そんな親子の会話をして、休みを過ごし出発前でのこと。
「………やっぱり今回は行かないほうがいいと思うのよ。ルーク。」
「母さん、命令違反は出来ないし心配しなくても大丈夫だよ。」
そう言って笑顔を見せるルーク。
それでも心配な様子を見せる母親。
「母さん、また暫く会えないだろうから僕が小さい頃よく歌ってくれていた歌を聴かせてくれないかな?僕がピアノを弾くよ。」
そう言って実家の片隅に置かれていたオルガンピアノの蓋を開きそのまま演奏するルーク。
ルークの突然の行動に戸惑いながらも合わせて歌ってくれる母親。
♪ ♩ ♪ ♬ ♪ ♩♬~
曲が終わるとそのままイスから立ち上がり母親を軽く抱き締める。
(こんなに小さくなったんだ。母さん。)
「ありがとうね、行ってきます。」
「…絶対帰ってきてね。」
母親との別れを惜しみながら顔つきをピシッと正す。
自分は音楽隊を率いる中隊長なのだ。
部下を持つ者がやるべきことをしっかりやり遂げなくてはと思いそのまま音楽隊一同の集合場所である楽器保管庫に向かう。
到着するとまだ、時間には早かったようで自分が一番乗りであった。
10分後にはロイとセレンが顔を見せてきた。
「失礼します!おお、ルーク殿!もう来ていたのですね!」
「失礼します!まさか先にお出でとは、流石です。ルーク様!」
「いや、偶々今日は早く来てしまっただけだよ。」
なんて言葉を交わしていると次々と音楽隊の面々が入ってくる。
「失礼します!おお、早いですねルーク様!」
「失礼します!もうお三方が来ていらっしゃるとは。」
「失礼します!これは我々も今日から一新頑張らないとですね!」
そうして音楽隊一同全員揃った。
「皆お休みは楽しんだかな?」
「「「「「「「はい!!!!!」」」」」」」
「おお、凄い良い返事だ。では新たな任務を伝えるよ。」
ルークは音楽隊全員に全てを話すことにした。
「皆、実は帝国はマーラ王国との和平交渉が進んでてね。それで、マーラ王国の国王様から直々に和平同盟締結の許可を貰いに宰相様が向かうんだ。その付き添いと、音楽隊の演奏でマーラ王国との親睦を深める名目で遠征に行くよ!」
「「「「「「はい!わかりました。」」」」」」
皆が返事をするなかでセレンだけは返事がなかった。
もしや、気がついたのかもしれないので話の続きを伝える。
「それで、この遠征には死んでも構わないという人だけ連れていくつもりだよ!みんな家族や恋人、子供がいる人もいるよね?遠慮せずに申し出てほしい。」
「「「「「「「………」」」」」」」
「あの、ルーク様。どういうことなのか説明いただけますか?」
まあこういう反応になることは予想出来ていたので全てを包み隠さず話す予定ではあった。