戦地音楽隊始動
~ルーク視点~
「君たちに集まってもらったのは他でもない。音楽で戦地の兵士を癒してもらいたい。」
そんなことを言ってきた人がこの帝国の大将軍デハードだ。
そして、それを言われている一人が僕である。僕の名前はルーク、ちなみに音楽隊の指揮者である。
右にはヴァイオリン奏者のセレン。左にはトランペット奏者のロイ。
全員、軍に所属している音楽隊だ。だが音楽で兵士を癒すとはどういうことだろうか?
曲を聴かせるくらいは出来るが、それで耳が癒されたよ、ありがとう音楽隊。という活動をしていけばいいのかな?
普段と余り変わらないな。
そんなことを考えているとロイがデハード様に質問した。
「デハード様、やっても良いですが戦っている帝国軍兵達の邪魔にならないでしょうか?」
最もな意見だが答えは予想だにしていなかった。
「癒すいうのは帝国軍兵達の傷を癒すということだ、邪魔になどならぬよ。」
「「「どういうことですか!?」」」
三人声を揃ってしまったがそうなるだろう。魔法みたいな効力など音楽にはないのだから。
「実は話せば長くなるのだが。この城の書物置場に隠し通路が見つかってな。」
「そうですか。」
「隠し通路の奥にはかなりの蔵書が隠れておったのでいろいろ調べてみたのだが、こんなのがあったのだ。」
デハード様に渡された書物を開いてみるとそれは楽譜であったのだ。
「これは?」
「ああ、ある曲の楽譜でな、楽器が出来る部下に試しに演奏して貰ったところな…」
モゾモゾといきなり胸元を開けて見せつけてきたデハード様。たまらずロイが言ってしまう。
「デハード様、俺たちはそっちの趣味は無いのですが…」
「そういうつもりではない!!見てみろ!!」
胸元を見てみると何も不思議なところなどない。というかなんなのだろう。僕達三人は顔を見合せ微妙な笑みを浮かべていると
「本当にわからんのか?ここだぞここ!」
そんなこと言われてもわからないものはわからない。なんで上官のむさ苦しい胸を凝視しなければならんのだ、と思っていた。
「だからここだと言っているだろうが!もっと近くで見てもいいぞ!」
「あの、いい加減教えて貰ってもいいですか?」
さすがロイ。上官だろうが、ずかずか物言うタイプのロイ。今度ランチでも奢ってやろう。
「ホントにわからんのか~、他の部下なら分かったのだがな。」
流石にイライラしてきたが上官なので下手に動けない。どうしたものか。
「わしの胸にはな、大きい切り傷がついておったのだよ。」
「どこにも見えませんが…」
「だから今言ったとおり、ついておったと言ったのだ!」
ということはなんだ?古傷が治ったということか?曲を演奏してそれを聴いただけでか?そんなことありえるのか…
「今試しに演奏してみますかね。」
「ルーク殿が言うのであればやってみますか。」
「承知しました。」
「お主ら待たれよ、今血を出すのでな!」
デハード様がいきなり懐から短剣を取り出し左手に突き刺し引き抜く。血がドバドバー。うわー。
頭のネジがもうとんでるのですね、わかりました。
「第一交癒曲」
♩ ♩ ♫~
僕の指揮で2人が愛用の楽器をそれぞれ奏でていく。
わずかに温かい光が音と共にデハード様に流れていく。
すると、みるみるうちに傷が塞がっていく。血が出てしまったものは戻らないか。
「納得してくれたか?」
「「「はい。」」」
「では次は第二交癒曲だ!」
デハードはまたもや左手に短剣を突き刺し引き抜く。これはもう手遅れですね、頭が。
一時間後、デハード様直々に検証してくださったお陰で曲の効果が分かったのだった。
第一交癒曲~第五交癒曲は傷を癒す。だが第五のほうが効果が高く、早く治る。ただ演奏が難しい。
それでも、我が軍の音楽隊は演奏技術は高い。個人でもそうだが全体でも音がずれることはない。
他にも楽譜がいろいろあるみたいだが時間の関係で今日はここまでのようだ。
デハード様が貧血で倒れないか、倒れても医務室まで運びたくないな~と思う今日この頃であった。