マーラ王国との交渉
「本日の対談、お受けいただき感謝致します。」
「いえいえ、こちらとしても戦争が終わるのでしたら対談などいくらでもお受けしますとも。」
マーラ王国とヴァイラス帝国の和平交渉のために二国の交渉役が話し合いを始めていた。
「私はマーラ王国交渉役のセムラドです。」
「私はヴァイラス帝国宰相のラキュールです。さあ、こちらへお掛けください。」
ラキュールは当初もっと強気で相手がくるだろうと予想していたがセムラドは逆だったので頭の中で作戦を練り直す。
「王国から戦争を仕掛けた立場ですので賠償金や復興資材などできる限りのことを致します。」
「それはありがたいですな。詳しい数などはどうしますか?」
相手がマーラ王国側が悪いと思っている話し方だったのでラキュールとしても交渉はしやすいと感じていた。
「王国としましては帝国から提示された金額をお支払します。また、資材についても一度で足りなければ何度でも輸送します。」
「ほう、では後程こちらから詳細を詰めて金額や資材数をお伝え致します。」
スムーズに決定していくことでラキュールは気が緩んでいた。
「それで、ラキュール殿。実は折り入って相談があるのですが。」
「はい、何でしょう?」
「マーラ王国国王は帝国を諦めてはおりません。」
「え?そうなのですか?」
突然言われたことは予想だにしないことであった為一瞬呆けてしまったラキュール。
「はい、現在の国王は野心家であるため大陸を統一するまで諦めないと思います。」
「なるほど、セムラド殿はどうされるのですか?」
頭が働いてきたラキュールは気になったことを聞く。
「私含めて今の国王から離反するものは多いと思われます。ですので、国王やその側近特にゼラット将軍、あとは近衛兵、国王直属部隊が何とか出来れば戦争を終わらせることが出来ると思います。それのサポートをお願いしたいのです。」
「わかりました。こちらとしても帝国軍を動かせるか話し合ってみます。」
一日目の和平交渉はそのような話で幕を閉めた。
あとは正式にマーラ王国国王と面会しそのまま和平同盟締結ができるように赴くだけとなった。
ただ、先程のセムラドの話を聞く限りでは王国国王は和平同盟締結はしないだろう。
和平交渉の後、宰相ラキュールは帝国軍の一番偉い大将軍デハードに相談しに行った。
「なるほどな、わかった。どちらにせよ決定していることは音楽隊を派遣するということだ。」
「音楽隊ですか?しかし彼らは傷を治すことしか出来ないのでは?」
帝国軍音楽隊の知名度は帝国国内で知らないものはいないほどにはなったが、それでもほとんどの人はラキュールの言っているような認識でしかない。
「音楽隊は力を半分ほどしか見せておらんよ。」
「ん?それはどういうことですか?」
「ラキュールよ、君は近々王国の首都に赴くだろう?そのときに音楽隊も連れていくのだよ。」
「それで何か変わるとは思わないのですが…わかりましたよ。この目で実際見てこいと言うのでしょう?」
「ああ、その通りだ!」
デハード大将軍は今日はいつにも増して頼りがいがあると感じるラキュール。
そんなデハード大将軍から言われたらやるしかないと思ってしまう。
「では音楽隊には日程を伝えておくとしましょうか。」
「実はもう伝えているよ。ラキュールが忙しいと思ってな。」
「それは…気が利きますね。今日のデハード殿はどうされたのですか?」
「どうされたとは?いつも通りのワシだが。」
「いえ、何もないなら良いのです…。」
「ラキュールよ、心配せずに王国へ向かうのだ!信じているぞ。」
はいはい、わかりましたよと返事をしながらデハード大将軍の執務室から出ていくラキュール。
デハード自身が何かあったと話さないのであれば無理して追及しなくていいと判断し、王国遠征へ向けて準備を進めることにしたのだった。