ルークの過去
僕の名前はルーク。
これは僕が帝国軍音楽隊に入った切っ掛け、デハード様との出会いとかこれまでの日々についてのお話だよ。
僕は物心つく頃には既に父親がいなかった。
病気で亡くなったらしいのだけど、母さんが一生懸命僕を育ててくれて不自由なく生活していたんだ。
母さんがよく歌を歌ってくれていたのを覚えてるよ。一緒になって僕も歌っていたよ。
そんな僕が18歳になった頃には帝国首都ベルンの小さな劇場でドラムを叩くようになっていた。
一緒の演奏メンバーはご年配が多かったけど僕は自分の叩いたリズムで他のメンバーが合わせて演奏してくれることに喜んだんだ。
シンバルもスネアもタムもまだまだいっぱい叩きたいと思っていた時期だったよ。
そんなある日のこと、劇場の外壁や目につく建物の壁に帝国軍音楽隊の募集を見つけたんだ。
帝国軍に音楽隊なんて必要なのかな?と思っていたら一緒に演奏していたメンバーの一人、ネスさんが言ってきたんだ。
軍の音楽隊は広報の役割があって入隊希望者を増やす目的があるから必要なんだと。
もし興味があるのだったら自分の知り合いに頼んでみるよと言われてやってみたさ半分、不安半分の気持ちでお願いしますと言ったんだ。
ネスさんがいろいろ動いてくれたお陰で僕はある人と面談することになったんだ。
「やあ、君がネスからの紹介でやってきた音楽隊入隊希望者か!よろしく!オラはデハードっていうんだ。一応今は大隊長をしているよ。」
「は、はい、よろしくお願い致します!ルークと言います。」
話を聞いてみるとなんと僕が一番最初の帝国軍音楽隊入隊希望者だった。
そして音楽隊は帝国軍所属なので誰かの指揮下に入らなければならないということでデハード様が受け持つらしい。
「君はちなみに指揮者はできるのかい?」
「ええ、リズム隊は一通りできますので指揮者も経験はあります。」
「よし、では君がこれから帝国軍音楽隊を率いるのだ。オラは音楽のことは何も知らない素人だからな!」
「ええー!?僕がですか?できるんでしょうか?」
いきなりこんなことを言われたら誰だって戸惑うに決まっている。
しかしデハード様はもう決定したことだからと勝手に話を進めてあれよあれよという間に帝国軍音楽隊が発足した。
最初は少人数で各街の劇場や市民会館などを周り演奏していった。
そして、月日が流れると共に音楽隊の人数が増えていき音に厚みが増してきた。
さらには最初は慣れない環境での演奏だったけど観客が居るということは適度にプレッシャーがかかりもっと上手くなろうと自然に皆が思うようになった。
それが一年、二年、三年と年を重ねるごとに上達していくのがわかった。
分からないことは分かる人に聞いてまわり、和気あいあいと演奏に勤しんだ。
そして、10年の月日が立った。
「え?戦争?何処で?」
「はっ!それがマーラ王国から仕掛けたようでアルノルド公国とノースライ共和国です。」
衝撃だった。
マーラ王国はこの前の年にも、一つの国と戦争しており勝利し終結したばかりの筈なのにも関わらず。
だけど、二つの国を同時に相手は流石に無謀だろうとこのときは思ったんだ。
そして、その二つの国も敗れそのままマーラ王国領土になった。
残るは帝国だけ。
僕自身覚悟していたんだ。音楽隊は諦めてさっさと敵と戦ってこいと命令されると思っていたから。
デハード様は音楽隊の力で戦争を終わらせようとしている。
だからこそ、たとえ死ぬと分かってる命令だったとしても、ここまでしてくれたデハード様に僕たち音楽隊は報いなければいけない。
帝国軍音楽隊に入る切っ掛けは些細なものだったかもしれない。
けど、僕の今の気持ちは戦争を終わらせる。
それだけだ。