音楽隊の帰還
帝国軍音楽隊は全部の前線にて帝国軍を救うことが出来た。
マーラ王国側は軍隊を撤退させ一時的に侵略される可能性は減ったと言ってもいい状況となった。
そしてそれは帝国市民に希望を与えたのだった。
帝国軍音楽隊は帝国首都ベルンに到着した。
「皆、お疲れ様!今日から一週間お休みだよ!」
「「「「「「「「わぁー!!」」」」」」」」
ルークの言葉にはしゃぐ音楽隊一同。
2ヶ月半もの間は一日休みはあったものの、纏まった休みは取れていなかった音楽隊は皆思い思いにやりたいことを思い浮かべる。
「ロイとセレンもお疲れ様!二人ともよくやってくれたね、このまま休みに入っていいよ!」
「ありがとうでさ!」
「ありがとうございます!」
セレンはきっちりしている言葉使いだがロイは適度に言葉を崩して喋るので、二人のバランスが絶妙に心地いい。
そのまま音楽隊一同を解散させ、ルークは一人音楽隊の楽器保管庫がある部屋に残る。
「今回の遠征でかなりこの子達にも負担かけたな。」
そう呟くルークの目線は戦地で活躍した楽器達を見ていた。
3分くらいだろうか、眺め終わりルークは目的の場所へと足を運ぶ。
コンコンとドアをノックをして返事が聴こえるとそのまま失礼しますと入っていくルーク。
ルークの入った執務室の中にはニコリと笑顔を見せてきたデハード大将軍がいた。
座りたまえとデハード大将軍に促され、二人とも大きなテーブルがある談笑スペースに向い合わせで座る。。
早速極秘書類をデハード大将軍に渡すルーク。
「帝国軍音楽隊の戦地活動記録になります。」
「いやー、ご苦労だった!さあさあ、コーヒーでも飲むかい?」
「あ、自分で淹れますので大丈夫で…」
立ち上がろうとするルークに自然にスッとコーヒーカップを出してくるデハード大将軍。
キマッたとばかりに内心ほくそ笑むデハード大将軍。
デハード大将軍は普段の言動はさておき、素を見せている相手にも自分は大人の中の大人だと見せつけたいのだ。
デハード大将軍から出されたモノを絶望した表情で見てしまうルーク。
「こ、これは何でしょうか?」
「いやなに、ルーク君が来ると分かっていたからな!事前に淹れておくのが大人のマナーというものよ!」
「こ、こんなものはいら…じゃなくて…わざわざデハード様のお手を煩わせたくなかったのですが…」
「なあに、大丈夫だぞ!そんな心配せずともコーヒーなどはワシは毎日淹れておるからな!ワッハッハ!」
ルークはデハード大将軍に出されたモノをどう片付けようか思案するが何も思い付かない。
砂糖がコーヒーカップ丸々位入っているコーヒーなど飲んだ瞬間に糖尿病でどんな症状が出ることやら。
潔く飲み干すしかないのかと考えるルーク。
「ルークよ、ワシの入れたコーヒーが飲めぬと言うのか?」
「いえ、まずは報告が先かと思いまして…」
「そうであった、そうであった!して、音楽隊は…」
そう言ってデハード大将軍手元の資料を隅まで読み込んでいく。
「大体わかったがルーク君、どんな具合だ?君から見ての音楽隊の効果は?」
「…そうですね、正直驚きましたよ。最初自分自身でも半信半疑で演奏しましたからね、デハード様と検証してるときは良くても戦地で実践してどうなるか気が気ではなかったですよ。」
「実戦で実践とな!フォッフォッフォッフブフォゴボゴホガホ…」
「……」
デハード大将軍は通常運転のようだ。
…普段から砂糖を取りすぎるからそうなるのだと心の中で思っているルーク。
「音楽隊には四種類の内二種類の治療音楽を演奏しました。結果は資料に載っております。」
「フムフム、ほほう、第四でもかなりの効果があったのじゃな。」
「はい、今回の戦地では第三~第五までを主に使用しまして第四以上であれば重傷だろうと治せることがわかりました。」
デハード大将軍が意気揚々と引き受けていた検証だけでは見られなかった、より細かい効果が分かり益々音楽隊の力がどれ程のものかが分かってきたのだ。
「なるほどのう、マーラ王国は撤退している今、帝国からは宰相が和平交渉に動いておるのじゃがな。」
相変わらず話し方が安定しない人だと思っているルークは、目の前のコーヒーという名の砂糖汁をどうしようかと頭を回転させていた。
「和平交渉は上手くいくのでしょうか?」
「上手くいってもらわないと困るがどちらにせよ音楽隊のやることに変わりはないがのう。」
「それは…なるほど、読めました。」
「相変わらず話が早くて助かるのう。」
ルークはこれから音楽隊がやるべきことをデハード大将軍の言葉で推理し予想を立てた。
「音楽隊はマーラ王国に行き演奏をしてくれば良いのですね?」
「その通りだよ!和平交渉が上手くいけばそのまま癒す方、上手くいかなければ○○する方だよ!」
「…それは…上手くいかなければ我々音楽隊には死んで貰うということですか?」
デハード大将軍は顔色一つ変えずに応えた。
「そういうことになるな…」
「…そうですか。」
「まさか君がそこまで考え付くとは思いもよらなかったよ、君たちには辛い思いをさせるね。」
「…いえ、帝国軍に所属しているからには断れないですしね。」
今まで楽しそうに談笑していたとは思えない空気になってしまった。
ルークはそのまま立ち上がり、デハード大将軍に聞く。
「音楽隊は何日後に出発ですか?」
「…10日後、とりあえずはその予定で動いてくれ。」
「分かりました。では暫く僕も休暇に入りますので7日後にまた伺いますね!」
「ああ、ゆっくり休んでくれたまえ。」
話が終わりドアの方に近づいていくルーク。
ふと、立ち止まり振り返る。
「デハード様、やっぱりその話し方のほうがカッコいいですよ!」
これにて失礼しますと言って執務室を出ていくルーク。
「…そういうことは早く言って欲しかったものだよ。」
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