帝国首都ベルンにて
帝国皇帝ダラムラドはようやくマーラ王国が撤退したかと安堵する。
「まだあとは戦争終結に向けての両国の和平交渉だろうな。」
コンコンとドアがノックされ皇帝陛下の私室に堂々と入ってくるのは見知った顔のデハード大将軍である。
「陛下!和平交渉なら宰相ラキュールなのですか?」
「いきなり不躾じゃのう。そこがお主の良いところじゃがのう。」
コンコンとまたドアがノックされ今度は陛下直属の近衛兵が入ってくる。
「おい、まだ返事してないのに入ってく」
「陛下!大変です!宰相様が来ております!」
「そうか、ならば通すのじゃ!」
「はっ!承知しました!失礼します!」
「おい、まだ話は…」
ガチャ、ドンとドアが閉まる。
デハード大将軍の声など聞こえないとばかりに近衛兵は颯爽といなくなってしまった。
「…ワシは威厳が足りないのかな?」
「朕はデハードが好きじゃよ!」
「……ワシだって陛下が好きですぞ!」
「なら全て問題なかろう!」
こんな会話をドア越しに聞かされた宰相ラキュールはどうしたものかとその場で留まってしまう。
(和平交渉の話をしたかったのにこれではなぁー)
宰相ラキュールは近衛兵に伝言を託す。
「君、悪いけどやっぱり今夜改めて来ると陛下に伝えて貰えるかな?」
「はっ!承知しました。」
そのまま来た道を戻る宰相ラキュール。
改めて陛下に伝えて来る近衛兵。
その伝言を聞き、暫くはまた二人きりになれると喜ぶ皇帝陛下。
「デハードよ、チョコがあるぞい!チョコレートだ!めったに手に入らないものだぞい!」
「チョコ?…ワシはまだ仕事が…」
「なあに、宰相が夜に来るのであればそれまでに終らせれば良いだけじゃろ?」
「まあ、そうですがのう。」
いつの間にかデハード大将軍の肩に手をのせている皇帝陛下。
「朕はデハードが食べたいものなら好きなだけ用意しておくぞい!」
「…す、好きなだけ?」
「やはり朕だって一人より二人で食べたほうがより楽しいからのう。どうじゃ?」
「好きなだけチョコ食べたいんだもん!」
「そうこなくては!流石大将軍じゃな!」
二人は別にそういう関係ではない。
決してそういう関係ではない。
ただ皇帝陛下とデハード大将軍は友情がアツイ関係なだけである。
その日は結局デハード大将軍は仕事が出来ぬまま皇帝陛下とお菓子を食べ談笑してしまったのだった。
夜に再度宰相が訪ねて来ても昼間と変わらない光景だった為に、次の日に変更した宰相ラキュールであった。
~次の日~
「では、陛下。私にマーラ王国との和平交渉は一任するということでよろしいですね?」
「そうじゃな!そなたなら上手く纏めてくれよう!」
あっさり決まった大役だが宰相ラキュールは落ち着いていた。
昨日の皇帝陛下とデハード大将軍の光景を目にしてからはその他の出来事など驚きなどしないよという気持ちでいた。
宰相ラキュールは帝国の頭脳と言われるほど切れ者として有名ではあった。
デハード大将軍は昨日の件で皇帝陛下に捕まっていた為、今日はしっかりと書類仕事をしていた。
「フフ、チョコは美味であったな~」
と楽しそうに仕事を終らせていく。
「そう言えば最近訪ねてきてた、どるなーど?だったかが来なくなったな。」
~その頃の音楽隊~
『皆ー!聞こえてる?どうぞ』
軍用車両内の無線通信でルークは音楽隊に話しかけていた。
『一班聞こえてますよ!どうぞ』
『二班同じく!どうぞ』
『三班感度良好!同じく!どうぞ』
『四班ちょっとうるさかったですけど音量調整しました、大丈夫です!どうぞ』
『五班聞こえてます!どうぞ』
『六班OKです!どうぞ』
基本ルークはこういった無線などのやり取りはセレンに任せていたのだが、たまには自分もやってみたいということで今日だけ変わっていた。
「フフフ、なんか僕一番偉い人みたいで気分がいいよ。」
「それはそうですよ!ルーク殿がこの音楽隊の頭ですからね!」
「ちょっとロイ君!あまり物騒な言葉は使用しないでください!」
いつも移動するときの車両ではルークの乗る車両がリーダー車両ということで帝国軍内で直属の部下であるロイとセレンも同様に同じ車両だった。
『では、僕から一言だけ。ベルンに着いたら臨時ボーナスが出るよ!暫くはお休みだからいっぱい食べて飲んで寝てね!以上通信終わり』
『イヤッホウ!』
『わーい!』
『ほわほわー!』
『ワッショイワッショイ!』
『み、皆落ち着きなさい!』
『♪ ♪ ♬~!』
各車両から喜びの声が聞こえてきた。
纏まった休みを暫く取れていなかった音楽隊はベルンに戻ったら何をしようかと仲間達と話し合うのだった。