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クルド前線

クルド前線に陣を張っている帝国軍の指揮官のテントにたどり着いたルークは早速挨拶をしに向かう。


「帝国軍音楽隊所属の中隊長ルークです。」


相対している人物はクルド前線指揮官。


「私はこの前線指揮を預かっている、大隊長のラルクだ。」


お互いに握手を交わす。

このラルク大隊長は他の前線含めて唯一戦死していない大隊長である。

見た目は銀髪肌白イケメンでちょっとヤンチャそう。


「本当にお会いできて光栄ですよ、ラルク大隊長。しかし、今は時間がありませんので早急に音楽隊の活動を行いたいのですが宜しいですか?」

「ああ、構わない。敵の侵攻はそこまで激しくないとはいえ、やはり物資が足りないから怪我を治療できない者が多くてな。」

「こちらの前線にも音楽隊の情報は届いてますか?」

「そりゃあもう、なんたって、ウルド前線ガルド前線、そしてボルド前線をこの2ヶ月で立て直したとあれば大歓迎だろうよ。」


やはり音楽隊の知名度は上がっており、ここクルド前線でも期待されているようだ。


「では医療テントへの案内をお願いします。」

「おや、一人で向かうのか?」

「はい、一旦自分で場所を確認しておこうかと。今は音楽隊の部下達は楽器の準備中ですね。メンテナンスがかなり要るものが多いので。」


クルド前線が砂漠地帯と言うことで楽器のチューニングも都度やっておかなければならない。

さらには砂から守る為にいろいろと楽器をカバーしたりガバンやケースに詰めて移動しなければならなかった。

ここは演奏しながら移動など、できる場所ではない。


「さて、ここがクルド前線の医療テントだ。」

「中の様子を確認させて頂きますね。」

「ああ、構わない。」


医療テントの中を覗くルーク。

テントの中の足場はしっかりと木造で作られており、砂の地面が見えない造りになっていた為、これならば音楽隊は楽器に気を使うことなく演奏出来るだろうと思い、ルークは笑顔を見せた。

ラルク大隊長に音楽隊一同を連れてきますと声をかけると一言。


「私も見せて貰うよ。ルーク、構わないかね?」

「はい、大丈夫です。」


ルークとしても願ったり叶ったりな状況だった為断る理由はなかった。

音楽隊は車両から楽器を下ろし終っていた。

ルークはメンテナンスや調整を命じていた部下達に声をかける。


「皆、準備出来てる?」

「はい、大丈夫ですぜ。ルーク殿」

「はい、こちらも問題ありません。ルーク様。」


と直属の部下のロイとセレンが言う。


「じゃあ、皆行こうか!」


音楽隊はルークに先導されてクルド前線の医療テントに向かう。

そんな最中声をかけてくるロイ。


「ルーク殿、ここの前線はそんなに被害は無さそうに見えるけど俺達は力になれますかね?」

「ああ、地理的に物資がなかなか届かないものが多いから医療品なんかはかなり貴重みたいなんだ。僕らの力は必要な筈だよ。」

「そうですかい。それなら安心ですな。」


クルド前線の医療テントに到着する音楽隊一同。


「失礼します!帝国軍音楽隊です。」


と一人一人入っていく音楽隊。

ラルク大隊長はルークに声をかける。


「ルーク、音楽隊の力を見せて貰うよ。」

「はい、お任せください。」


音楽隊は指揮者であるルークを見れるように散開していく。

そして各員それぞれ配置に付いた後にルークに視線が集まる。


「さあ、皆いこうか!!」


今までの前線同様に軍医やら看護兵やらも音楽隊を見守っている。


「第五交癒曲!」


♫ ♪ ♫~



血を流し包帯に包まれていた兵士や骨が折れて動けなかった兵士達が穏やかな気持ちで演奏を聴いていると温かな光に包まれる。


まさしく、神様の奇跡と呼べる光景が広がる。


「うおー、俺の腕が動くぞ!」

「すぅーはー、すぅーはー、呼吸が苦しくない。生きてるよ、俺。」

「まだ死ぬなって神様が俺達に言ってるのかもな!」

「本当に本当に良かった!貴方達が死ななくて良かったよー!」


重傷を負っている兵士達は、まさか自分がこんなに早く傷が治ると想像していなかった。

看護兵は自分達が傷の手当てをした兵士達が死なずにいられると思って涙を流す。

そして軍医はこの光景に驚いていた。

音楽隊の噂を聞いていたクルド前線にいた帝国軍の殆どは一時間程は治療演奏に時間がかかるのだろうと勝手に予想していた。

それが演奏している曲を聴いた傍から続々と治っていくのだ。

完治するまでは時間にしてちょうど一曲分くらいであろう。


「まさか、傷が治る光景を目の当たりにするとは。まさしく、聖楽隊と呼ぶべき音楽隊だ。」


軍医は昨日まで負傷兵をきちんと治療できる環境にないことを悔やんでいたが今の光景を見ていたらそんな気持ちも吹き飛び素直に喜んだ。


「ルーク、いやルーク殿!」


と声をかけてきたラルク大隊長。


「は、はい?というかルーク殿()?」

「先ほどまであまり信じていなかった自分が恥ずかしいですな。」


ルークはその言葉でまだ帝国軍の中には噂だけで音楽隊を認めていない者もいるのだと改めて認識した。


「ルーク殿含め音楽隊の価値は素晴らしく高い。今日はこんな光景を見れて本当に良かったです。この前線の帝国軍を代表して感謝を述べます。」

「は、はあ。」

「ありがとうございます。ルーク殿、帝国軍音楽隊の方々も。」

「はい、しっかりと受け取りました。顔を上げてください、ラルク大隊長。」


感謝をされ、更には頭を下げらてしまった。

ルークは途中まで反応出来ていなかったがなんとか返事をする。

ここまでラルク大隊長がしっかりした人だと予想出来ていなかった。

ラルク大隊長の行動を無下にしないためにも早速他の場所にも怪我人はいないか聞いておく。


「さて、ラルク大隊長。他に怪我人は居ませんか?音楽隊は負傷兵を癒す為に来ましたからまだまだ演奏出来ますよ!」

「それは頼もしい限りですな。それでは他の医療テントも周って頂きましょう。」


そうして、その日一日でクルド前線の兵力が回復すると共にマーラ王国側に前線を押し上げた帝国軍であった。

元々クルド前線にそこまで戦力を投入していないマーラ王国はあまり積極的にここを攻めようとはしていなかった。

何か思惑があったのだろう。

休息をとらせている兵士が多かったマーラ王国側は昼間であろうと戦闘準備をしている兵士が少なかった。


これによってマーラ王国側が帝国軍の反撃をもろに受け、即座に撤退しマーラ王国側に前線が引き上げられたのだ。



クルド前線も他の前線同様に帝国軍有利になってきた。

クルド前線でやることを終えた音楽隊一同にルークは声をかける。


「やっとベルンに戻れるよ皆!」


音楽隊は二日程クルド前線に滞在した。

そんな最中電報にて帝国首都ベルンに戻るように命令を受けたのだった。


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