第7章 もう一度走りたい
うさぎは、夜の静けさの中で目を閉じ、心の中に湧き上がる様々な思いを整理していた。あの日のレース、そしてその後の出来事。彼はずっと「速さ」こそが自分の価値だと信じてきた。それがすべてだと思っていた。
でも、何かが違うような気がしてきた。ゴールに到達したとき、得られたのは勝利の栄光だけではなかった。勝っても、負けても、最終的には自分が何を得たのか、その答えがはっきりしなかった。
「ただ、走ることが好きだったわけじゃない。」
勝つことが目標で、走ることが目的だったけれど、本当にそれが自分の望んでいたことだったのか? その答えがわからないまま、彼はただレースを続けてきた。
その晩、うさぎは決意を固めた。再び走ることを選ぶと。そのために、まずは心の中で自分自身と向き合わせる必要があった。
「今度は、ただ速く走ることだけじゃなく、もっと意味のあるものを見つけたい。」
夜明けが近づくと、うさぎは目を開け、森の中の小道に足を踏み出した。過去に迷い込んだ「勝利至上主義」を超えて、新たな道を歩む決心をしたのだ。
「正々堂々と、自分と向き合って走りたい。」彼はその言葉を胸に刻み、歩きながら心の準備を整えていった。
この道を歩むには、まず自分の弱さを受け入れ、他人の価値観に左右されることなく、自分自身のペースで進んでいかなければならない。無理に急ぐことはない。自分のペースで、心を込めて走りたい。
「それが一番大事なんだ。」
うさぎは自分を励ましながら、森を進んでいく。彼の心には、以前感じたことのない確かな安堵が広がっていた。
その時、遠くからかめの姿が見えた。前回のレースでの対決が思い出され、うさぎは一瞬足を止めた。彼は今、どんな気持ちでいるのだろうか。
しかし、うさぎはその思いを押し殺すように、また一歩を踏み出す。そして、自分に言い聞かせる。「今は自分の道を進まなければならない。」
うさぎは心の中で、これからの旅がどれだけ険しいものになるとしても、迷わずに自分の信念を持ち続けることを決意していた。
そして、どこかで、かめと再び会うことを期待していた。けれどそれは、まだ先のことだ。今は自分の道をしっかりと歩むことが、最も重要だと感じていた。