14章 ゴールの向こう側
ぬかるみの森を抜けた後、二人は足元がふらつき、もう走れないことを感じていた。どちらも限界に近く、息は荒く、体は重く、足は泥に沈み込みそうだった。これ以上は無理だとわかっていたが、ゴールはもうすぐそこに見えていた。
亀は自分の体力が尽きているのを感じた。足を一歩踏み出すのが精一杯で、目の前のゴールが近づくにつれて、焦りのようなものが込み上げてきた。でも、あえて足を止めることはできなかった。あの時の自分ではない、もう一度前に進むんだと心に誓っていた。
うさぎもまた、体が重くて前に進むのがやっとだった。全力で走った自分を見失わないようにと思っていたが、足元がふらつく度にその考えが崩れそうになった。それでも、ゴールに向かって一歩ずつ足を運ぶ。
だが、二人の足は進まない。お互いに顔を見合わせることもなく、ただ黙々と足を踏みしめていた。どちらも無言で、心の中ではもう一歩踏み出すための力を振り絞っていた。
そして、とうとうゴールが目の前に現れる。その時、二人はお互いに目を合わせることなく、同時に足を止めた。
最初にゴールを越えたのはうさぎでもなく、亀でもなかった。ただ、二人はそのまま並んで倒れ込むようにゴールの先に倒れ込んだ。息を荒げながら、疲れきった体を休めていた。
しばらく無言のままでいたが、亀がゆっくりと息をつきながら言った。
「…前回のレース、勝ってもスッキリしなかった。」
うさぎはその言葉を聞き、少し考え込む。そして、やっと口を開く。
「…お前、正直に言うな。俺もスッキリしてなかった。」
二人は静かに目を合わせ、無言で頷いた。その言葉に、もう何も続ける必要はなかった。お互いがそれぞれに抱えていた思いが、すでに言葉でなくても伝わっていた。
うさぎは、ゴールを見つめながら少しだけ笑った。
「これで、貸し借りなしだな。」
亀もゆっくりと微笑み、うなずいた。
「うん、貸し借りなし。」
二人はそこで少しの間、並んで空を見上げていた。その先にあるものが、どんなものであれ、それを共に歩んでいこうと思える、そんな瞬間だった。
『続・うさぎとかめ 〜それぞれの道〜』を読んでくださった皆さん、ありがとうございます。この物語を通して伝えたかったのは、競争や勝敗だけでは測れない大切なもの、そしてそれぞれの「ペース」を大事にすることの重要さです。
「ウサギとカメ」の物語は、昔からよく知られた話ですが、今回はその後の物語を描いてみました。レースを超えて、登場キャラクターたちが互いに影響を与え合い、成長していく姿を描くことで、勝ち負けや速さだけではなく、自己肯定感や他者との共存といったテーマに焦点を当てたかったのです。
ウサギが最初に持っていた「勝ちたい」「誰かと比べて一番でいたい」という気持ちは、多くの人が経験する思いだと思います。しかし、彼女はその気持ちに苦しみ、次第に自分と向き合わせられることで、本当の強さを見つけていきます。亀もまた、自分のペースを大事にして生きてきたものの、勝ちという結果に囚われて、無理にそれを追い求めた結果、気づかされることがありました。
二人の成長は決して一人でできたわけではありません。彼らの道のりには、ネズミやキリン、フクロウといった他のキャラクターたちの存在も大きかったと思います。それぞれの価値観や考え方に触れることで、ウサギも亀も少しずつ自分を変えていきました。この物語が少しでも皆さんにとって、日々の中で「比較」から解放されるヒントや、自分らしいペースで歩む勇気を与えられたなら幸いです。
そして、物語の終わりで二人が歩む道。それはゴールではなく、次の新しい一歩を踏み出すための道です。誰もが自分のペースで進み、他人の道を尊重しながら共に歩んでいける世界が、もっと広がっていくといいなと心から思います。
本書をお読みいただき、ありがとうございました。どこかでまた、別の物語でお会いできることを楽しみにしています




