第13章 ゴールではなく、向き合うこと
ぬかるみの森を抜けた先には、ゴールが見えていた。
けれど、そこに向かってただまっすぐ走ることが、今のふたりにはできなかった。
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ぬかるんだ地面から手を引き、泥まみれになりながら「これで貸し借りなしだからな」と笑ったうさぎの言葉に、かめは言葉を失っていた。
ほんの数日前まで「勝ちたい」としか思っていなかった相手が、今は肩を貸してくれる存在になっている。それは、かめにとっても、うさぎにとっても、不思議な感覚だった。
「ありがと、うさぎ」
かめがそうつぶやくと、うさぎは一瞬だけ驚いた顔をした。
そして、ふっと視線をそらしながらつぶやいた。
「……別に、おまえを助けたわけじゃない。おまえに助けられたままだと、なんかムズムズするだけだ」
口調は相変わらずだったが、その言葉の奥には、確かな想いが込められていた。
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ふたりは再び歩き出す。
もはや「勝ち負け」のために走っているのではなかった。
「うさぎ、今、楽しい?」
「……楽しいってほどじゃないけど、悪くはねーな」
それは、かつてのふたりには決してなかった会話だった。
一緒に走り、一緒に悩み、一緒に向き合う。
レースとは、本来こういうものだったのかもしれない。
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ゴールまで、あと少し。
でも、ふたりは立ち止まった。
息を整え、同じ方向を見て、ふたりの間に流れる沈黙を大切にする。
「行くか、かめ」
「うん、うさぎ」
そしてふたりは、再び歩き出した。
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勝ちたいから走るのではなく、向き合いたいから進む。
それが、今のふたりの「レース」だった。




